臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
205 / 228
第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード167 戦闘祭り 策動

しおりを挟む
 ピカーン!

 森での戦いが終わり、次どこに向かうか打ち合わせをしていたら運動場の中央からやや北の辺りで、やたらと光が空に放たれていた。
 それも時間差があったので、戦闘は一ヶ所ではなく何ヶ所かで起きているようだった。

(何あの激戦区……絶対行きたくないよなあっちの方へは)

 オレはげんなりとした表情でいると、モーガンが声をかけてくる。

「クライヴ、どうする? 攻める?」

「他の組には戦ってもらっていて、最後の最後で姿を見せるのは…………無しだよな」

 オレの返事に対してモーガンは呆れた顔をしていた。

「一応言っておくけど、撃破数も点数に含まれるからね。一人撃破で一ポイントあるから撃破数も馬鹿にはできないよ。最後まで残った組は三十ポイント、惜しくも最後に敗れた組は二十ポイント、三番目は十ポイントあるけど、やはり撃破数は稼ぎたいね」

(なるほど……そんなルールだったんだね。細かい所モーガンに任せっきりだから隠れたら良いもんだと思っていたよ)

「でもそれって不正する奴とかいないのか?」

「大丈夫だよクライヴ。それぞれどの組の生徒に敗れたか自己申告だけど、教師の監視もあるから不正行為をすると退学だよ」

(何その厳しさ! 反則は失格に対して、不正は減点するからねとかじゃなくて、学院生活の一発退場ですか? 反則はたまたまな場合もあるが不正行為は確信犯だからか…………それにしても厳しいだろ!)

「じゃあアタシ達も隠れてないで戦わないといけないわね」

 モーガンの話を聞き、何故かやる気に満ち溢れているフィーネがそこにいた。

「このまま隠れていて優勝できたとしても、二位との差は十ポイント、その差は二組分のポイント程度だから気が抜けないよ。それとリアナやショーンの三組とジェイミー先輩達の二年一組も要注意だね。この二つは優勝候補だと思うからボク達も慎重に戦わないとね」

「うーん…………そしたら激戦区のあの真ん中のエリアに行くって事か?」

「流石にそうとは言わないけど」

 モーガンは両手を広げてヤレヤレといったジェスチャーをしているとフィーネも口を開いた。

「アタシも危険なエリアに飛び込むのはどうかと思うわ。この森みたいに静かな所だったら誰か来たらすぐに分かるわよ」

(だよなぁ。森の方がこちらにアドバンテージがある。こっちにはハーフエルフのフィーネがいるから森での音の聞き分けに関しては超一流だ)

「なぁモーガン。このまま森を北東に進むのはどうだろう?」

「うん。みんなが良いならいいんじゃないかな」

「アタシがいるから森の中は任せなさいよ」

「……………………オレも良いと思う」

 トンマージ君も遠慮しながらも賛成してくれて、オレ達はこのまま森を北東に進む事にした。


 周囲を警戒しながら森の中を歩く事約十分、北の方角に顔を向けると、木々の隙間からテントのような集まりが見えてきた時に、フィーネが足を止めてオレに声をかけてきた。

「クライヴ、あのテントに誰かいるわよ。それも複数人」

「えっ? ここから二百メートルはあるけど分かるのか?」

「バカにしてんの! アタシの事を! アンタみたいなビビリにはわからないでしょうけど、アタシには物音が聞こえたのよ! それも複数の!」

 フィーネは目を吊り上げてオレに向かって捲し立てる。
 そんなフィーネの様子にモーガン達も気づき、こちらに近づいてきた。

「どうしたの二人とも?」

「いや、向こうのテントに複数名の人影がいたようなんだ。まぁフィーネが発見したんだけど」

「なるほど、他に気づいた事はない?」

「さっきまでは物音もはっきり聞こえてたのよ。でも今は息を潜めているみたいだわ。アタシ達の事は気づいてないはずなんだけど…………」

 フィーネは首を傾げて原因が分からず不思議そうに考え込んでいる。
 そしてモーガンは何かに気づいたようにニヤリと笑みを浮かべた。

「息を潜めないといけない理由があるんだろうね。一組だけでなく他の組の人達もいたりしてお互いが相手の出方を探っているのかもしれないね。幸いボク達は森の中で相手側からは見えづらいだろうし、少し近づいて様子をみるのはどうかな?」

「アタシは賛成よ」

「…………オレも」

(うん、一人だけノーとは言えないね)

 オレもしょうがなくモーガンの案に賛成した。
 その後オレ達はテントまで五十メートル程度の所まで近づき木々のわずかな隙間からテントの様子を見ていた。

「いつまで待つんじゃ! ワシはもう無理じゃけぇ!」

「バカ! 待ちたまえショーン!」

(あっショーンとリアナだ)

 声のする方を見るとテントとテントの間に隠れていたショーンとリアナが飛び出して、右から左へ駆け抜けている。

「ちょっ! 二人とも待ってよ! サッソ君も早く!」

「オレは嫌だ! モースト様の所に行くんだ!」

(エルザ様とサッソが何か揉めているっぽい……あっサッソが逃げた!)

「発見した! 二人だけだ!」

「なっ! アイツら本当に二人だけで攻めてくる気なのか?」

「後ろからもう一人駆けつけてくるぞ! 迎え撃て!」

 ショーン達に立ち向かう敵達がぞろぞろと集まり、五対二の構図ができ、遅れながらエルザ様も駆けつけた。

(ショーン達大丈夫か? 相手は知らない顔だから先輩達だろう)

 そんな事を考えていたら後方にいた先輩方の一人が詠唱を始めて、残りの四人は魔法を唱える先輩の所に行かさぬように守りを固めていた。

「くそ! どうするんじゃ!」

「ショーン! ぼく達は目の前の先輩方をやつける事だけを考えろ」

 ショーンや先輩達の声がオレの元まで聞こえてくる。
 
(ここに居たらいずれ見つかるだろう。一度ここから離れたほうがいいな)

 オレは横にいるモーガンの方へ振り向いた。

「モーガン、ここは一度」

 オレの言葉を遮り、食い気味にモーガンは返事をした。

「そうだねクライヴ。ここは助けに行くべきだね」

 分かっていると言う顔をするモーガン……

(断じて違う! 助けると正反対な事をオレは考えているんだよ? モーガンよ)

「そうね。リアナ達を助けないと! アンタ! リアナ達は仲間でしょ!」

 フィーネは何でアンタは助けようと動かないの? と言いたそうにしており、まるでハエを見ているかのような目でオレを見ていた。

(知ってるよ! 仲間だけど今は戦闘祭りという競技中だろ! しかも敵同士でな!)

 そんなオレの心の葛藤も関係なく、トンマージ君も何故か助ける案に賛成のようだった。

「クライヴ落ち込まないで」

 少し項垂れるオレに声をかけてくれたのはモーガンだった。
 しかも黒い笑みを浮かべている。

「クライヴ、ボク達がショーン達を助けるのには理由があるんだよ。ショーン達と同盟を結び先輩達をやつけるんだ。特にジェイミー先輩とルーシー先の組は優勝候補だからね。その後はショーン達と戦って優勝争いをする。ボク達にもショーン達にも準優勝以上勝ち取れるメリットがあるはずだよ。後は一年一組の動きを注意しないといけないけどね」

「共闘か……まぁ正直ルーシーお姉、ルーシー先輩達さえ倒したら準優勝以上が手に届くよな」

「アタシはモーガンの作戦で良いと思うわ」

「………………オレも」

 みんなの意見が一致しオレ達は森から出てショーン達の元へ走り出す。

「ショーン、リアナ! 一旦協力するよ。二年の先輩達を倒すまで。その後は少し話し合おう」

「「モーガン?」」

 まさかのオレ達の出現に驚くショーンとリアナ。そして数秒後、二人は頷き、先輩達の方へ向かい走り出した。
 ショーンが盾を構えて最前列、そのすぐ右斜め後ろにリアナ、左側にオレ、真ん中でモーガンが指揮して、後方にはフィーネが弓を構えて陣形を整える。
 エルザ様はモーガンの近くでモーガンと何やら話している様子だ。
 遅れるようにトンマージ君もやってきて、ショーンとともに最前列に移動する。
 これで五対七となり立場は逆転した。

「いつものようにショーンは牽制しつつ盾でみんなを守って、リアナは突破口を開いて、クライヴも左側はお願い、フィーネは魔法使いの先輩を狙って! トンマージ君とエルザさんは右側から攻めて!」

 モーガンの的確な指示の元みんなが行動を開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...