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第2話 ~冷やし勇者始めました~

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 目の前に広がる風景。それは想像を絶するものだった。人がいて、そこが街であることには変わりはない。
 
しかし、今、自分自身がいる"そこ"は街の中の風景、と言い表してしまうにはもったいなさ過ぎた。

「どこだ...ここ...。」
思わず言葉が漏れる。この状況で声を漏らしてしまうことは、しょうがないことであると思う。
「ここは....城か...!?」
  
 自分の体の下に広がった真っ赤なレッドカーペット。

俺が倒れ込んだ廊下(?)の両脇に広がる図太い柱。
...そして何より一軒家と言ってしまうにはいささか高すぎる天井。
至るところに彫り込まれた模様はひとつひとつが大きな存在感を放っていた。
 
 「勇者様!勇者様!」
何者かの声がする。そういえば"かみ"が勇者にしてやるとか言ってたから俺のことなんだろう。よし! 盛大の笑顔で迎えてやろう。そうしよう。
 
 自分の中で全く必要のない作戦を立てた後、素早く立ち上がる。

「勇者とは...俺のことか...?(イケヴォ)」
どうだ!無駄にラブゲーで鍛えた俺の能力は!

「ゆ、ゆうしゃさま?」
何者かは戸惑っているようだ。
「何を馬鹿なことしてるんですか?はやく来てください。」

....あ、はーい。

 そして何者かに手を掴まれる。俺は改めて相手を凝視した。

 足元には鋼のようなもので出来た靴...というよりはショートブーツと言った方がいいだろう。
 
 視線を少し上げ、太もものあたりに注目する。そこには、いわゆる鎧のようなイカツイ装備はなく、ベルトにデザイン性のいい数枚の鉄板をつけただけのようなものである。
 
 しかもその下には薄手のズボン。
 
 上半身に目をやるが、やはりそこにも厳重な装備はなく、Tシャツの上の革のタスキのようなものに心臓を守る小さな鋼鉄板がついているのみだ。
 
 その装備が良いのか悪いのか、はたまた、身分が低いからなのか高いからなのか、全く検討もつかなかったが、要するに、軽量化を目指した装備なのだろう。

「早く行きますよ!ただでさえ遅れてるんですから!」

「え?ちょっとま!」
俺の言葉が詰まった理由は急な(行きますよ)宣言のせいではなかった。

 彼が手にとったそれは...

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