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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
帝都への道~ミカエル様への想い
しおりを挟む※ここからシャラン視点になります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「わぁー! 綺麗だなあ。見渡す限りの稲穂ですね。」
雲一つない青空と一面の鮮やかな緑色という景色に興奮したシャランは、外の景色に夢中だった。
ミカエル様は、そんな僕を咎めるでもなく、こちらを優しげに見ている。子供っぽすぎたかと、恥ずかしくなった。
「シャランは長旅は初めてか?」
「はい。本からの知識ばかりで、実際に見るのとは全然違いますね。」
「ここら辺一帯は米の栽培に適していてね、帝国の穀倉地帯だよ。」
僕は頷きながら、遙か遠くまで続く稲穂を見つめた。
ミカエル様は、事務官達と仕事の話をしている。本当は遠慮して別の馬車に乗ろうかと思ったのだけど、ミカエル様が、それでは寂しいと言ってくれた。
大きな馬車なので、隅の方にいようかと思ったのに隣に座らされる。エイデンに、『諦めて下さい。』と、苦笑されてしまった。
エイデンとミカエル様のやり取りを聞くのは楽しい。お互いに気を許しているのがわかる。
もちろん、プライベートと仕事は分けられているけれども。
エイデンの話によると婚約者のミラ嬢は僕の一つ年上で、今年二人は結婚するらしい。式の事などはミラ嬢に任せきりなのかと思ったら、頻繁に魔力を使って手紙をやり取りしていたみたいだ。
エイデンもだが、ミラ嬢も魔力は高めだということだ。面白いのは、エイデンはミラ嬢の事になると、饒舌になり惚気るのだ。
チョコレート色の髪の毛に、若草色の瞳が美しい令嬢なのだという。
エイデンは赤髪翠目だが、瞳の色はミラ嬢より濃いということだ。
「シャラン様の事を知らせたら、是非会ってみたいと返事が来てましたよ。」
ちなみに、僕は『エイデン』、エイデンは『シャラン様』と呼ぶことになった。
エイデンが、ミカエル様に呼ばれると、僕はまた一人で外を眺めながら、今までの事を思い返した。
『──シャランのおばあ様は凄いな。』
心からの賞賛を口に出した。
『───っ! ありがとうございます。ミカエル様。』
僕は、右目から一粒の涙を流し、本当に心の底から綺麗に笑えたのだった。この瞬間、もう誤魔化せないと悟った。僕はミカエル様の事が大好きだ。
僕にとってミカエル様は太陽のような人だ。初めて会話した時から、素敵な人だとは感じていた。
普段、貴族のいる場所では幾重にも張り巡らされた壁があっという間に剥がされた。
あの日の夜、月の下でも、普段なら絶対に明かさない心の内を見せてしまった。
───いつか帝国に帰ってしまう人。
そう押し止めていた想いすら、受け止めてくれた。
笑わずに、僕の王国への思いを聞いてくれた。それどころか、一緒に道を切り拓いてくれた。
僕の事を愛してくれた人。たくさんのかけがえのないものを与えてくれた人。
決行の日、囮になることに不思議と恐怖は無かった。だって、ミカエル様が助けに来てくれるから。
安心させたくて、ミーナの緊張を解してあげようと思ったら、ミーナも自然体で言った。
『心配なんてしてませんよ。シャラン様達が守ってくれるでしょう?』
僕がミカエル様を信じるように、ミーナも信じて疑っていない。この信頼は絶対に裏切らないと誓った。
荷馬車の中は辟易したが、建物に着くと猿轡は外されたので、こっそりと会話をしていた。思っていたより、子供達が多い。
───守らなければ。
ミカエル様達だって僕のことを信じてくれている。
破落戸や犯人達の耳を塞ぎたくなる下衆な会話。聞いてるだけで気分が悪くなる話に、ミーナは顔色は悪くなっていくが、決して取り乱したりしなかった。隙をついてミーナや子供達を合流させられたら守れるはず。
その時、地下まで揺るがす落雷の音。
ファッチャモ兄様と────ミカエル様。
真っ直ぐ僕のところに向かってくるミカエル様。周りの破落戸など視線も向けずに倒しながら向かって来る。助けに来てくれたと喜ぶ心を抑えて、僕の役目を果たそうと、ミカエル様にお願いした。
そして、ホッとしたその時だった。
ミカエル様の死角から狙うフードを被った男を見つけた。その殺気に無意識に防護壁を展開する。
身体が勝手にミカエル様を守るために動いていた。
『ミカエル様!』
防護壁に阻まれ落ちる暗器にホッとした。暗殺者はまるで消えたように逃げてしまったようだった。
結局心配させてしまったけど、僕は守られるだけでは嫌だ。僕もミカエル様に相応しい人間になりたい。
与えられたそれ以上をミカエル様に与えたい。
想いを伝えた時、想いを返して貰えた時、震える程の喜びが身を包んだ。
この溢れる想いを全て捧げても足りない。
『焦らなくて良いんだ。少しずつ帝国の事を知っていって。大好きだよ、シャラン。』
迷子のような顔をした僕に手を差し伸べてくれる。
そうだ、僕らしく一歩ずつ進もう。いつかミカエル様の隣に立てるように。
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