ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

文字の大きさ
4 / 121
1章 憧れのゲームの世界へ

4話

しおりを挟む
 焔はマップで神殿の位置を確認。

 どうやら魔王城だったりすることはなく、神殿はこの街を中央にある大きい建物のようだ。


 やはり焔のクエストが一番楽なものということになる。

 なので焔はすぐに神殿にはむかわず、街を回ってみることにした。

 一応神殿の方向にはむかいつつ、ぶらぶらと街を歩く。


 ここは平和で温かな街だ。

 少し歩いただけでも焔にはそれが伝わってきた。

 ゲームでの始まりの地としてはとてもいい場所だろう。


 焔は、緩やかにカーブする大通りをそのまま進んでいく。

 しばらく歩き、神殿にも近くなってきた辺りで噴水のある公園を見つけ、寄り道をすることにした。


 入り口からすぐに見つけたベンチに座り、公園内を見渡す。

 設置されている遊具は現実世界のものと同じようなものだが、そのどれもがピカピカに新しい。

 きれいなのは当たり前かもしれないが、わざわざ劣化したりしないようになっているのだろう。


 この大きい公園の中に、焔以外にはNPCの小さな女の子が噴水の前にいるだけだった。

 ここもこのゲームが正式にサービスを開始したら、バカップルなどのたまり場になったりするのだろうか。


 そう考えると焔は、今のこのほぼ貸し切り状態が恵まれたもののように思えてきた。

 この贅沢な時間を今のうちに堪能させてもらうことにする。


 噴水のところにいる女の子は舞依よりも小さく見えるが、守備範囲の広い焔には十分ありだった。

 それに長いさらさらの髪と水色のワンピースの組み合わせは焔の大好物でもある。


(やっぱりゲームの女の子は最高だな!)


 そんなわけで焔はその女の子を遠くから眺めながら、胸がときめく心地よさを味わっていた。

 しかし突然、強烈な神風が公園内に吹き込んできた。


 その風のせいで女の子のワンピースがめくれそうになり、その瞬間に紳士である焔は噴水の像の方に視線をそらす。

 ゲームだし相手はNPCだし別に見ててもよかったのだが、あまりにリアルで女の子が本当に生きている気がして、焔にはそんなことはできなかった。


 そのそらした視線の先にあった噴水の像は、驚くことに焔には見覚えのある人物のものだった。

 その人物というのは焔の夢に出てくる桜色の髪のお姉さんだ。

 焔は自分の夢に出てくる女性の像がゲーム内に存在することに戸惑いを隠せなかった。


 なぜこのようなことが起こるのか。

 どうしたら夢に出てきた女性がゲームに登場するのか。

 焔は頭をフル回転させて考えたが、まったく答えは出なかった。


 もはや偶然似ていただけとしか言いようがない。

 焔には嫌な予感しかしなかった。

 これまでも大体こういうときは面倒なことに巻き込まれてきたのだ。


 ゲームの世界なのにいったい何が起こるというのだろうか。

 げんなりする焔の顔を、さきほどの少女がじっと見上げていた。

 いつの間にそばに来ていたのだろうか、焔はまったく気付けなかった。


「えっと……どうかした?」


 焔はさっきの神風がイベントのもので、パンツを見たことになって進むストーリーなのかと思った。

 だとしたらもったいない。


 どうせ見たことになるなら、この目に焼き付けておきたかったと焔は後悔をした。

 しかし警戒したようなイベントも起こらず、少女はくいくいっと焔の服の裾を引っ張っている。


(なんだこのかわいい生き物は……、俺はここで道を違えてしまうかもしれない)

(いや、ここはゲームの中、何をしたって問題ないだろう)

(いやいや、だとしても紳士は紳士として振る舞うべきだろう)


(いやいやいや)

(いやいやいやいや)


「どうしたのお嬢ちゃん、お兄ちゃんと楽しいことして遊ぼうか?」


 さんざん葛藤しておいて、出てきた言葉は聞く人によっては通報されるようなものだった。


「ううん、遊ばない」

「ぐはっ、振られてしまったか」


 千歳に続いてこれで本日二回目だ。

 もっとこの子と触れ合いたかった焔は悲しみの底に落ちていった。


「それよりお兄ちゃん、お願いがあるの」

「ハイなんでしょう!」


 お兄ちゃんと呼ばれただけで、谷底から一気に飛び上がってきた。

 舞依以外の女の子にお兄ちゃんと呼んでもらう機会なんてそうそうない。


「あのね……そのね……」


 少女は視線をそらしたりとなにやら言いづらそうにしている。

 焔は不思議に思いながら、そして『もしかして愛の告白!?』なんてわずかな可能性を期待しつつ、少女の言葉を待つ。


「あのね、あれ取ってほしいの」

「あれ?」


 少女の指さした先。

 そこには噴水の像があり、さらにその像が持つ剣の先に何か布が引っかかっている。


「あれはもしや、パンツか?」

「うん……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...