ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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1章 憧れのゲームの世界へ

34話

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「もしかして明日香のお姉さんか?」
「ええ、そうよ、本当は出てくるつもりはなかったんだけど」

「今の魔法攻撃はあなたか」
「ええ」

「なんであんなことを、姉弟じゃないのか」
「あら、弟の背中に虫がついていたから退治してあげただけよ」

「そんなわけないだろう」

 まるで優希のことなどまったく思っていないような言い方に焔は視線を鋭くした。

「あまり怖い顔しないでほしいわ、せっかくのかわいい顔が台無し」
「茶化すな」

「ふふふ、私はあなたと戦うつもりはないのよ、その姿のあなたに勝てる保証なんてないから」
「じゃあ何の用があるんだ」

「その子たちとお別れをしに来たのよ、さっきの攻撃で優希も私のところに帰ってこようとは思わないでしょうし」
「は?」

 予想していなかった言葉に焔は警戒を解いてしまった。
 明日香のお姉さんは倒れている優希を見つめながらやさしい声で話し始める。

「この子たちは魔王にはむいてない寂しがり屋さんなのよね、だから私のところよりあなたのところにいた方がいいと思うのよ」
「お姉さん……」

「魔王の役目は1人いれば十分。それなら私が背負ってあげる。まあそんなに強くはないけれど」
「あなたはそれでいいのか? 結局あなたは孤独なんじゃないのか?」

「私は1人でいることを苦痛だと思わないから。それにこういうことはお姉ちゃんが背負うものなのよ、あなたも妹がいるならわかるでしょう?」
「それはまあ……」

 いくら魔王と言っても、そこにも家族の絆というものはある。
 そう思うと焔はこれ以上戦う気にはなれなかった。

「焔さん、優希と明日香のこと頼んでいいかしら」
「頼まれるようなことじゃないと思うけどな、本人たち次第だ」

「ふふふ、そうね、帰ってきたくなったら帰ってくればいいわ」
「それよりあなたはどうするんだ? あなただって自由に生きる権利はあるだろう」

「誰かがモンスターたちをまとめておかないと、ここが混沌とした世界になってしまうから、だから私がそれを引き受けてあげる」
「こんな話を聞いてしまうとお姉さんたちがかわいそうに思えてくるな」

「そう思うならID交換しておきましょうか、たまに私の話し相手になってくれればそれでいいわ、私はひとりでいるのが好きだし」
「それくらいなら」

 焔と明日香のお姉さんはお互いのIDを登録し合う。

「お姉さんは霞さんっていうんですね」
「そうよ。それじゃあこのことは妹たちには内緒にしておいてね」

「そこまでしなくてもいいんじゃないですかね」
「ちゃんと距離を置いておかないと、あなたたちのところにいることをためらってしまうかもしれないから」

「そうですか。わかりました、霞さんもなにかあったら俺に相談してくださいね」
「ふふ、ありがとう、いい子ね。魔王を3人もたぶらかしてるなんてあなたくらいよ」

「別にたぶらかしてなんかいないですが」

 焔と霞の話は大体まとまった。
 そんな時だった。

 ふたりは急に近くで強大な魔力を感じ取り、慌ててそちらに振りむく。
 そこには自分の胸を押さえてふらふらとしている舞依の姿があった。

「……舞依?」

 焔が心配して近づこうとすると、いきなり舞依を中心にしてあたりから強い風が渦巻き始める。
 それは魔力の風だった。

「キャッ」

 近くにいた夏海と千歳が暴風に吹き飛ばされる。

「千歳! 夏海ちゃん!」

 ふたりを助けに行こうとする焔だったが、強力な風に自身もその場から動くことができなかった。
 なんとか舞依の状態を確認しようとすると、焔は舞依のステータスが変化していることに気づく。
 なぜか舞依のレベルがいきなり120まで上昇していたのだ。

 よく見るとギフトの欄に『???』と『レベル上限突破』の表示がされている。
 焔が初めて確認したときにはなかったものだ。
 どうやら焔と同じく、舞依のIDも特別なものだったらしい。

 やがて暴風がおさまると、それと同時に舞依がすさまじい速さで霞にむかって突っ込んでくる。
 霞はとっさに手をかざして障壁を作り、舞依の攻撃を受け止めた。

 焔はその舞依の姿を見て、明らかに正気でないと確信する。
 まるで何かにとりつかれているかのようだった。

 その後も舞依は剣を使った攻撃を連続で叩き込む。
 それを霞は魔法で作った短剣と障壁を使ってすべて防ぎ切った。
 レベルは舞依の方が上になったが、正気でないためか攻撃が単調だったので霞が優位に立っている。

 しばらく同じような状況が続いていたが、急に舞依が距離をとると手を前にかざし、その上に電気のようなものを溜め始めた。
 それは雷属性の魔法のようだった。
 あっという間に大きな球に膨れ上がり、それを霞にむかって放つ。

 回避しようとした霞だったが、後ろに夏海たちがいることに気づいてとっさに魔法で相殺をはかる方法に変更する。
 しかし十分な威力を確保できず、雷魔法は打ち消したものの、その衝撃で霞は吹き飛ばされてしまう。

 そこに舞依が飛び込もうとしていたのを、焔が隙をついて背後から魔法の玉を打ち込み、そして舞依を抱きとめた。
 舞依は気を失い、まとっていた妙な魔力も霧散し、レベルも元に戻っている。

「霞さん、大丈夫ですか~!」

 焔は吹き飛ばされていた霞に呼びかける。

「まあ大丈夫よ、これくらいはなんともないわ」

 起き上がった霞は服をはたき、自身に回復魔法をかけていた。
 そこに千歳と夏海が駆け寄る。

「あの、ありがとうございました。私たちがいたから回避せずに受け止めてくれたんですよね」

 千歳の言葉を聞いて、霞はやさしく微笑みながら言う。

「さあ何のことかしらね、私は最善の手を打っただけよ」
「うわあ……、かっこいい……、なんか焔さんみたいです」

 霞の姿と言葉に、夏海が憧れの人を見るようなきらきらした目をむけていた。
 霞は焔のところまで歩いていくと、まるでさきほどの戦いなどなかったかのような涼しい顔で別れの挨拶をする。

「それじゃあ私はそろそろ失礼するわ」
「すいません、舞依のこと」

 焔が謝罪をすると、霞は真面目な表情になって話し始める。

「さっきのこと、私の方でも調べてみるわ。あなたの方でも何かわかったら連絡して頂戴」
「わかりました、ありがとうございます」

「できるならあの英雄ちゃんにも話しておいた方がいいかもしれないわ、気に入らないけど一番この世界のことに詳しいと思うから」
「霞さんは汐音さんのこと嫌いなんですか?」

「そうね、昔あんなことやこんなことをされてしまったから」
「あんなことやこんなこと!?」

「ふふふ、冗談よ。まあ汐音とはライバルみたいなものだから。別にそこまで嫌ってもいないけどね、暇つぶしにもなったし」
「そうなんですか」

「それにああ見えて意外とかわいいところもあるのよ。私がもっとまじめに魔王をしてた時はちょっと癒しの時間だったわ」
「嫌ってないどころか結構好きじゃないですか?」

「そうかもしれないわね、でも立場上勇者と魔王みたいなものだから、一周回って嫌いみたいな、わかるかしら?」
「ちょっとわからないですね」

「だから私の前であんまりその格好しないで欲しいわね、汐音と話してるみたいな気持ちになるから」
「あはは、一度この姿になると自分じゃ戻せないんですよね」

「ふ~ん、なんとかなりそうなものだけど。それも調べておいてあげるわ」
「ありがとうございます」

「それじゃあ私はそろそろ失礼するわ。私のことはできるだけ汐音にも話さないでね」
「話さないようにしますけど、この姿の時の会話って聞かれてるかもしれませんよ」

「え……」
「……」

「帰るわ」

 霞はちょっと赤くなった顔を隠しながら、さっと転移用の魔法陣を使って目の前から消えてしまった。
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