ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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3章 青の精霊と精霊教会

61話

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 ある日の朝、焔が目を覚ますと珍しく舞依の姿がなかった。
 舞依はたまに焔よりも早く起きることがあり、そういう時は大体じっとせずにどこかへ出かけていくことが多い。

「どこに行ったんだかなぁ」

 現実の世界なら別に構わないのだが、この世界だとまだまだ焔も知らないことが多く、舞依の行方が分からないのは不安だった。
 過保護は舞依のためにもよくないとは思いつつも、自分の精神を安定させるためにも舞依の所在をはっきりさせておいた方がいいと動き出す。

 とりあえずは食堂へとむかうため、部屋から出て階段を降りていく。
 そこで焔は、玄関のドアを少し開けて外の様子をうかがっている不審者を発見する。

「明日香、何してんの?」
「あ、おはようございますお兄さん」
「おはよう、って俺は明日香にお兄さんと呼ばれていたかな?」

 なぜか今日になって突然呼び方が変わったことに焔は首を傾げる。

「ふふふ、私気付いたんですよ」
「何にだ?」

「私と舞依ちゃんが結婚したら焔さんは私のお兄さんになるわけですよ」
「ほう」

「なので今からそう呼んでおこうかと」
「なるほど、理由は気持ち悪いがお兄さん呼びはなかなかいいな」

「そうですか? ならこのまま続けましょうか」
「いや待て、いいのはいいんだが、今の俺は明日香との絶妙な距離感を楽しみたいんだ。だからまだ焔さんと呼んでほしい」

「なるほど、気持ち悪いですね」
「ふっ、明日香に気持ち悪いと言われるなんて、俺も終わったな……」

「ちょっ、どういう意味ですか!?」
「なんでもないさ、で、何してんの?」

「ああ、舞依さんがお出かけしたのでストーキングを」
「現実世界なら通報ものだな。まあ舞依の安全のためにも頑張ってストーキングしてくれ」

「わかりました!」

 焔が承認すると、明日香は敬礼をして舞依をこそこそと追いかけていった。

「普通に一緒に行けばよかったんじゃないだろうか」

 焔はふと抱いた疑問を口にするが、きっとこっそりついて行くことに意味があるとか言うんだろうと思い、忘れることにした。



 舞依のことは明日香にまかせ、焔は沙織の作った朝食をいただく。
 宿には沙織しかおらず、他の者たちはみんな出かけていったようだった。
 普段から朝の早い焔が一番最後になるというのは珍しいことだ。

 と言っても今日の焔が遅いわけではなく、ただ他のみんなが早いだけ。
 揃いも揃って早起きしているなんて、何か悪いことが起こる前触れのような出来事な気がして焔は不安になる。

 朝食を済ませた焔は、みんな出かけているので自分も散歩することにした。
 特に目的地を決めることもなくふらふらと海の近くを歩いていく。
 この世界での時間が有限なのかどうかはわからないが、こうやって何も気にせずに時間を浪費できることは幸せなことだろう。

 焔はしばらくいつも歩いている海沿いの道を進んでいたが、ふと思いついて普段は行かない逆方向へむかってみることにした。
 宿の近くでありながら普段はまったく行かない場所。

 それは単純に何もないからだった。
 お店や施設などの建物も何もない。
 用事がなければなかなか足を運ばないが、そもそもその用事がない。

 そんなわけで人気もなく、波の音が聞こえるだけの静かな場所だった。
 ただその割にはきれいに整備されているようにも見え、もう少し進むと写真におさめたくなるような砂浜が現れる。

 そこは海水浴シーズンになれば泳ぐことができそうなくらいだ。
 そしてそんな穴場のような場所に見慣れた女の子を発見した。
 焔はその女の子に近づいて行って声をかける。

「こんなところにいたんだ、夏海ちゃん」
「あ、焔さん」

 急に声をかけられてビクッとした夏海だったが、焔だとわかってほっとしたようだった。

「何してるの?」
「アイテム収集ですよ」

「こんなところで?」
「はい、ここにはたまにレアアイテムが流れ着いてくるんですよ」
「マジで!?」

 おそらくゲーム上でそういう設定がされている場所なのだろう。
 そんな場所を見つけてしっかりとアイテムを集めている夏海は、やはりなかなかのゲーマーである。

「よく見つけたね」
「えへへ、アイテム収集は私の趣味ですから」
「そういえば好きだったね、そういうの」

 夏海は焔たちとプレイした他のゲームでも、いろいろな場所に出向いてはアイテムを拾い集めていた。
 その中にはレアなアイテムもたくさんあり、焔や舞依もレアアイテムを交換してもらったりして助かっていた。

「焔さんも一緒に来ませんか? 今日はなんだかいいものが手に入りそうな気がするんです」
「そうだな、俺も行ってみるか」
「えへへ、それじゃあ行きましょう」

 焔もアイテム収集に参加することになり、夏海は嬉しそうに笑顔を見せる。
 珍しくテンションの高い夏海の後について、焔もレアアイテムゲットを目指して歩く。

 この砂浜にはなんとボトル詰め状態のアイテムが流れ着いてくるようで、明らかに自然のものではなかった。
 中のアイテムは拾った時点では光の玉のようになっていて、ボトルのふたをあけるとアイテムが手に入るようになっている。

 ボトル自体はその時点で消滅するので、やはりこの場所はアイテム収集スポットのようだ。
 焔もいくつか回収してアイテムを手に入れたが、大したことのない消費アイテムばかりだった。

 それでもここがゲームの世界のままだったら、こんな序盤に行ける範囲でこんなにアイテムが手に入ったらかなり助かるだろう。
 売るだけでもそこそこの金額になりそうだ。

 そんな調子でどんどん砂浜を歩いていく焔と夏海。
 とりあえず簡単に行ける範囲の一番端まで進む。
 焔の手に入れたアイテムにはレアなものはなかったが、夏海はいくつか手に入れたようだ。

 もしかしてアイテム収集関係のギフトでもあるのかと思うほど、良いアイテムは夏海の方に偏っていた。

「それでは次の場所へ行きましょうか」
「ああ」

 焔は大したアイテムを手にいれてはいないが、楽しそうにしている夏海を見ているとそんなことはどうでもよくなる。
 進んできた道を戻る間にも、焔はアイテム収集を試みた。

 その時、ボトルに入っていない光るものを見つける。
 焔はそれを拾ってみるが、どうやら通常のアイテムではないらしく、自動ではアイテムボックスへ転送されなかった。

 砂で汚れたそれを海水で洗い流してみると、きれいな輝きを放ち、まるで宝石のように見えた。

「これは宝石なのか?」
「そうみたいですよ」

 夏海はいつの間に習得したのか、鑑定スキルを使用していた。
 その結果、本物の宝石であることが判明。
 なぜ海岸に宝石が転がっているのか。

 不思議なことではあるが、アイテムも転がっているようなものなので、別におかしくはないのかもしれないと思い直す。
 焔はありがたく持ち帰ることにした。

「きれいですねぇ」
「夏海ちゃんもこういうのに興味あるんだね」

「いえ、今まで特に興味があったわけじゃないんですけど、実際に見るとやっぱりきれいだなぁって」
「確かに、これはきれいだよなぁ」

 焔もこういったものに興味があったわけではないが、光り輝く宝石を目の前にすると惹かれるものがあった。

 そして夏海の宝石を見る目も輝いていて、そこにも惹かれるものがあった。
 焔はしばらく何かを考えた後、夏海に提案をする。

「ねえ夏海ちゃん、今から街の方まで出かけないか?」
「え? 別にいいですけど、急にどうしたんですか?」
「ちょっと行きたいところができたんだ」

 焔は思いついたことを実行するため、夏海を連れて街の中へとむかっていった。
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