ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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3章 青の精霊と精霊教会

70話

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 港のある街の門から外へとむかう焔たち。
 まだこの地域のことも把握できていないので、焔はプルルにMPを吸わせるような危険な行為を今はとらなかった。
 こういうところはしっかりと冷静に判断ができるのである。

 街の外に出てからも、このゲームの仕様なのか、ゲームの世界ではなくなったからなのか、あたりにモンスターの姿は見えなかった。
 もはや普通に戦闘を繰り返してレベルを大きく上昇させるということは現実的ではない気さえしてくる状況だ。

 今まで訪れた場所では、フローラ牧場周辺当たりしかまともにモンスターは出てきていない。
 それ以外の場所での戦闘は数回程度。

 後はレベルの異常に高いボスモンスターくらいだ。
 平和な世界だと考えればいいのかもしれないが、舞依たちのレベルが上昇できないと、高レベルなクエストに焔と一緒に行くことができない状態が続いてしまう。

 魔力吸収はこの状況に対しての救済なのかと思ってしまうほどだ。
 もしかすると街の外は比較的に安全なように設定されていて、ダンジョンのような特定の場所にモンスターを配置しているのかもしれない。

 そう思った焔は、マップを開いて周囲にダンジョンなどがないか確認する。
 しかし、この辺りにはそれらしい場所はなく、大きなレベル上昇はあきらめるべきかもしれないと思い始めた。

 焔たちは特に戦闘をすることもなく、ただ海沿いの道を観光するように歩き続けている。
 そうしているうちに遠くの方に街があるのが見えてきた。

 その時、右の方にある木陰から鹿のような生き物が姿を現す。
 一応モンスターのようだが、まったく襲ってくるような気配はなく、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
 そしてなぜか焔のまわりをくるくる回ると、すりすりと顔をこすりつけてきた。

「なんだこれは……、懐かれているのか?」
「みたいだね」

 プルルもそうだが、あまり人間に敵対心を持っていないモンスターがいるようだ。
 魔王である明日香たちがあんな感じなのだから、そういうモンスターがいてもおかしくないということなのか。

 現実世界でいうと、野生動物に出会うような感覚なのかもしれない。
 そう思うと、モンスターだからといって、片っ端から倒していくようなことはためらわれる。
 焔は鹿モンスターの頭をなでた後、森の中へ帰るように促しお別れをした。

「焔さんってモンスターに懐かれやすい体質なんでしょうかね」
「あはは……」

 夏海の言葉にどう反応していいのかわからず、焔は微妙な笑みを浮かべた。
 再び街にむかって歩き出し、このまま戦闘なしで街までたどり着くかと思われた時。

 今度は突然、海の方から何かが目の前に飛んできた。
 それはサハギンという半魚人モンスターだった。
 全部で4体。

 とてもかわいいとは思えない姿で、さきほどの鹿モンスターとは違い、明らかに敵対心を持っていた。
 レベルは15前後で、焔以外でも苦戦するほどではない。

「みんな、無理しないようにね」
「うん」

 こういうチームでの戦いでは、焔は補助役に回ることが多い。
 この世界に来てからはレベル差のこともあって前衛で戦ってきたが、この戦闘ではいったん元の位置に納まることにした。

 焔は念には念を入れて、補助系の魔法を全員に重ね掛けしておく。
 焔のMPはすぐに回復するため、このくらいの魔法なら連発しても問題はなかった。

 千歳の動きが少しぎこちなかったが、大きな問題はなくモンスターたちは倒されていく。
 最後の1体を舞依が仕留めて戦闘終了。

 ただレベルもそんなに簡単には上がってくれない。
 一般的なゲームに比べたら楽に上昇するが、この調子ではレベル80クラスのモンスターと戦える日がくるのかすら怪しい。

 汐音との特訓や魔力のEXP変換でレベルを上げてしまった焔からすると、時間がかかり過ぎだと感じてしまう。
 しかしそこで焔は気付いた。

 汐音とやったように、モンスターと戦わなくても特訓でレベルを上げることができるということに。
 もしそれが汐音のギフトによるものならあきらめるしかないが、ゲームの仕様ならある程度まではレベルを底上げできる。

(このクエストが終わったら舞依で試してみるか)

 ということで、焔はモンスターとの戦闘でのレベル上げに見切りをつけて、クエストを終わらせることを優先することに決める。
 結局街に着くまでの戦闘はその1回きりだった。

 街の入り口となる門から中へ入る。
 船を降りた港町と同じくらいの規模の街だ。
 街の名前はロストというらしい。

 雰囲気もゆったりとしていて、まるで時間の流れまでゆっくりに感じられる。
 こんなところで生贄の話があるなど、信じられるようなものではなかった。

「お兄ちゃん、その助けなきゃいけない人ってどこにいるんだろうね」
「さあ……、そういえば顔も知らないのにどうやって探すんだ?」

 クエスト情報の中にはそこまで詳しいことは載っておらず、こんなところで行き詰ってしまう。

「なにか特徴は聞いてないの?」
「かわいい子だとしか」

「焔……、それ聞いて引き受けたんじゃないよね?」
「ち、違うぞ! 俺は霞さんが困っていたから助けになりたいと思ってだな」

 千歳にずばり真実を見抜かれ、焔は慌てて言い訳を始める。
 しかし千歳はまったく信じていないような目をむけていた。

「街の人に聞いてみますか?」
「一般人が知っているような情報なのかわからないからなぁ」
「確かに生贄の話が出てるような街の雰囲気じゃありませんね……」

 夏海も焔も、この街の雰囲気がそんな物騒な事件を抱えているようには思えなかった。

「ちょっと霞さんに連絡してみるか」

 そう思ってメニュー画面を出そうとしたとき、そのむこうに見えた灯台の辺りに人影を見つける。
 そして焔が持つ謎の美少女センサーが反応する。

「きっとあの子に違いない」
「え? どの子?」

 焔は確信を持ってひとりで歩き始める。
 千歳にはその女の子が見つけられなかったが、とりあえず3人は焔の後をついていくことにした。
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