8 / 11
1.遺物と異物
8
しおりを挟む
繁華街の路地裏、見るからに年季の入ったビルが、ジュラルミンケースから放たれた魔力の最初の到達点だった。増築、改修を繰り返し、複雑なシルエットをしている。
付近の人に聞いたところ、チンピラの溜まり場となっているようだ。
「位置的にはここだな」
「ええ、建物の上に出ているアンテナがそうなのでしょう」
屋上から飛び出した棒のようなものの中に、一本、真新しいものがあった。
建物の前で二人が見上げながら話していると、エントランスから男が出てきた。
「お二人さん、カップルじゃないよね? 人の家の前で何屯ってんの?」
「少し聞きたいことがあるのですが」
ノカが言った。
「お前ら何もんじゃ?」
「あの、アンテナについて聞いても良いですか?」
ノカは質問を無視して話し続ける。男の一瞬固まるのを二人は見逃さなかった。
「なんじゃ、お前ら国の者か? 俺らは何もしとらんぞ!」
「その、何かした人達を知りたいんだけど、ダメ?」
小首を傾げる。本人は交渉を円滑に進めるためのチャームのつもりであったが、あざとく逆効果であった。
「舐めとんか、ボケ! お前ら! 敵じゃあ!」
ビルに向かって男は叫ぶ、すると一、二階の窓が開き、数十人の男がビルから飛び出してきた。
「わっ、わっ、アラタさん!」
ノカは半分体をアラタの後ろに隠す。
「ちゃんと自分の言葉に責任を持てよ、先輩」
アラタはそう言いつつも、腰を落とし、戦闘態勢になった。
一人目が殴りかかる。腕で受けるつもりであったが、男の動きに違和感を感じ、アラタは寸前で避けた。
筋力にバフがかかっている。法定外の倍率だと目算する。
だからといって、アラタの敵ではなかった。正確に顎に狙いを定め、拳を撃ち抜く。男は頭が揺さぶられ、その場に崩れ落ちた。
アラタが数十人の男を沈めるのに、十分もかからなかった。ノカも数人倒すのを手伝いはしたが、大した加勢では無かった。
ノカは倒れた男たちがつけている指輪を取り上げる。
「筋力三倍増強の指輪ですよ。魔法陣的にはシルヴァ公国製ですね」
道理で見た目以上に手こずった訳だ、とアラタは勝手に納得する。彼のイメージでは五分程度で制圧する予定であった。
「おい、誰に貰ったものだ」
意識のある最後の一人にアラタは声をかける。男は壁にもたれて座っている。戦意は消失している。
「なんなんだよ、お、お前ら!」
「こんな倍率の身体強化リングは法律で認められてませんよ。ついでにあのアンテナ、さてはテロでも企ててますね」
ノカも詰め寄る。
「だ、だから、アンテナも指輪も何も知らねぇよ」
「ただ、状況的には完全にクロです。教えてください。じゃなければ捕まるのは貴方達です」
「・・・・・・くそっ! その指輪はある男に貰ったんだ」
しばらくの間の後、男は話し始めた。おそらく、相手側からも圧力をかけられているのだろう。二つを天秤にかけ、こちらの方が重いと判断されたようだ。
「ある男?」
「これは本当に知らない。ただ、指輪を渡す代わりに、あのアンテナを置かせて欲しいって持ちかけて来たんだ。俺達がこの辺りで勢力を拡大するのに、指輪はうってつけのアイテムだったから、何も文句は無かったよ」
「それはいつの話?」
「ちょうど一ヶ月前ぐらい」
〈勇者〉の指の輸送車が襲われるより前だと、ノカは頭の中で整理した。
「その男の特徴は? こいつらの顔を見たことあるか?」
アラタは今回の件に絡んで捕まえたの二名の写真を見せた。
「おお、こいつだよ」
男は運び屋の方の写真を指差した。
「そいつから他には何を頼まれた?」
「何もだよ、このアンテナに触らないでくれってだけだ」
これ以上聞いても即効性のある手掛かりは得られそうにないと、二人は判断した。
「じゃあ、アンテナの方見せてもらうわ」
屋上に建てられたアンテナは高さ2メートル程で、リングのようなものが途中に嵌められている。
動力源はなく、発進された魔力を動力として次の地点へ送信する仕組みであった。
「かなり手が込んでいるというか、指が本当に狙いなのか?」
「それだけの価値があると判断すれば、国という生き物はなんでもしますよ。でも、狙いが見えないのは同意です。これだけの規模です。相当な自信があって動いているのでしょう」
ノカはオーリオに電話をかけた。周りにアラタ以外誰もいない事を確認して、スピーカーにする。
「こんにちは、今時間大丈夫ですか?」
「どうした、ノカくん?」
「今、シルヴァ公国の大使館と繋がっているアンテナにいます。撤去してもらえますか?」
「なるほど、了解した。手配しておくよ」
「よろしくお願いします」
「それと釈放なんだけどね。明日の午前中に早まった。運び屋をエリクシアに放置する代わりに、尾行男を前倒しで回収するそうだ」
「そうですか、尋問はできますか?」
「両方ともチャンスは捩じ込んだよ」
「ありがとうございます」
「向こうから国の専用機がもう到着していてね。気が早いったらありゃしない」
「ありゃしない?」
「言わない?」
「うーん」
ノカはアラタに目配せをする。そんなくだらない事でこちらを向くな、という顔をしている。
「ともかく、そういう事だから、明日までにできることをしよう」
「はい」
通話は終了した。
付近の人に聞いたところ、チンピラの溜まり場となっているようだ。
「位置的にはここだな」
「ええ、建物の上に出ているアンテナがそうなのでしょう」
屋上から飛び出した棒のようなものの中に、一本、真新しいものがあった。
建物の前で二人が見上げながら話していると、エントランスから男が出てきた。
「お二人さん、カップルじゃないよね? 人の家の前で何屯ってんの?」
「少し聞きたいことがあるのですが」
ノカが言った。
「お前ら何もんじゃ?」
「あの、アンテナについて聞いても良いですか?」
ノカは質問を無視して話し続ける。男の一瞬固まるのを二人は見逃さなかった。
「なんじゃ、お前ら国の者か? 俺らは何もしとらんぞ!」
「その、何かした人達を知りたいんだけど、ダメ?」
小首を傾げる。本人は交渉を円滑に進めるためのチャームのつもりであったが、あざとく逆効果であった。
「舐めとんか、ボケ! お前ら! 敵じゃあ!」
ビルに向かって男は叫ぶ、すると一、二階の窓が開き、数十人の男がビルから飛び出してきた。
「わっ、わっ、アラタさん!」
ノカは半分体をアラタの後ろに隠す。
「ちゃんと自分の言葉に責任を持てよ、先輩」
アラタはそう言いつつも、腰を落とし、戦闘態勢になった。
一人目が殴りかかる。腕で受けるつもりであったが、男の動きに違和感を感じ、アラタは寸前で避けた。
筋力にバフがかかっている。法定外の倍率だと目算する。
だからといって、アラタの敵ではなかった。正確に顎に狙いを定め、拳を撃ち抜く。男は頭が揺さぶられ、その場に崩れ落ちた。
アラタが数十人の男を沈めるのに、十分もかからなかった。ノカも数人倒すのを手伝いはしたが、大した加勢では無かった。
ノカは倒れた男たちがつけている指輪を取り上げる。
「筋力三倍増強の指輪ですよ。魔法陣的にはシルヴァ公国製ですね」
道理で見た目以上に手こずった訳だ、とアラタは勝手に納得する。彼のイメージでは五分程度で制圧する予定であった。
「おい、誰に貰ったものだ」
意識のある最後の一人にアラタは声をかける。男は壁にもたれて座っている。戦意は消失している。
「なんなんだよ、お、お前ら!」
「こんな倍率の身体強化リングは法律で認められてませんよ。ついでにあのアンテナ、さてはテロでも企ててますね」
ノカも詰め寄る。
「だ、だから、アンテナも指輪も何も知らねぇよ」
「ただ、状況的には完全にクロです。教えてください。じゃなければ捕まるのは貴方達です」
「・・・・・・くそっ! その指輪はある男に貰ったんだ」
しばらくの間の後、男は話し始めた。おそらく、相手側からも圧力をかけられているのだろう。二つを天秤にかけ、こちらの方が重いと判断されたようだ。
「ある男?」
「これは本当に知らない。ただ、指輪を渡す代わりに、あのアンテナを置かせて欲しいって持ちかけて来たんだ。俺達がこの辺りで勢力を拡大するのに、指輪はうってつけのアイテムだったから、何も文句は無かったよ」
「それはいつの話?」
「ちょうど一ヶ月前ぐらい」
〈勇者〉の指の輸送車が襲われるより前だと、ノカは頭の中で整理した。
「その男の特徴は? こいつらの顔を見たことあるか?」
アラタは今回の件に絡んで捕まえたの二名の写真を見せた。
「おお、こいつだよ」
男は運び屋の方の写真を指差した。
「そいつから他には何を頼まれた?」
「何もだよ、このアンテナに触らないでくれってだけだ」
これ以上聞いても即効性のある手掛かりは得られそうにないと、二人は判断した。
「じゃあ、アンテナの方見せてもらうわ」
屋上に建てられたアンテナは高さ2メートル程で、リングのようなものが途中に嵌められている。
動力源はなく、発進された魔力を動力として次の地点へ送信する仕組みであった。
「かなり手が込んでいるというか、指が本当に狙いなのか?」
「それだけの価値があると判断すれば、国という生き物はなんでもしますよ。でも、狙いが見えないのは同意です。これだけの規模です。相当な自信があって動いているのでしょう」
ノカはオーリオに電話をかけた。周りにアラタ以外誰もいない事を確認して、スピーカーにする。
「こんにちは、今時間大丈夫ですか?」
「どうした、ノカくん?」
「今、シルヴァ公国の大使館と繋がっているアンテナにいます。撤去してもらえますか?」
「なるほど、了解した。手配しておくよ」
「よろしくお願いします」
「それと釈放なんだけどね。明日の午前中に早まった。運び屋をエリクシアに放置する代わりに、尾行男を前倒しで回収するそうだ」
「そうですか、尋問はできますか?」
「両方ともチャンスは捩じ込んだよ」
「ありがとうございます」
「向こうから国の専用機がもう到着していてね。気が早いったらありゃしない」
「ありゃしない?」
「言わない?」
「うーん」
ノカはアラタに目配せをする。そんなくだらない事でこちらを向くな、という顔をしている。
「ともかく、そういう事だから、明日までにできることをしよう」
「はい」
通話は終了した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる