〈パンドラ〉-政府直下特殊情報局超高密度情報集積体対策室

とーかちゃん

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1.遺物と異物

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 繁華街の路地裏、見るからに年季の入ったビルが、ジュラルミンケースから放たれた魔力の最初の到達点だった。増築、改修を繰り返し、複雑なシルエットをしている。
 付近の人に聞いたところ、チンピラの溜まり場となっているようだ。

「位置的にはここだな」
「ええ、建物の上に出ているアンテナがそうなのでしょう」
 屋上から飛び出した棒のようなものの中に、一本、真新しいものがあった。
 建物の前で二人が見上げながら話していると、エントランスから男が出てきた。
「お二人さん、カップルじゃないよね? 人の家の前で何屯ってんの?」
「少し聞きたいことがあるのですが」
 ノカが言った。
「お前ら何もんじゃ?」
「あの、アンテナについて聞いても良いですか?」
 ノカは質問を無視して話し続ける。男の一瞬固まるのを二人は見逃さなかった。
「なんじゃ、お前ら国の者か? 俺らは何もしとらんぞ!」
「その、何かした人達を知りたいんだけど、ダメ?」
 小首を傾げる。本人は交渉を円滑に進めるためのチャームのつもりであったが、あざとく逆効果であった。
「舐めとんか、ボケ! お前ら! 敵じゃあ!」
 ビルに向かって男は叫ぶ、すると一、二階の窓が開き、数十人の男がビルから飛び出してきた。
「わっ、わっ、アラタさん!」
 ノカは半分体をアラタの後ろに隠す。
「ちゃんと自分の言葉に責任を持てよ、先輩」
 アラタはそう言いつつも、腰を落とし、戦闘態勢になった。

 一人目が殴りかかる。腕で受けるつもりであったが、男の動きに違和感を感じ、アラタは寸前で避けた。
 筋力にバフがかかっている。法定外の倍率だと目算する。
 だからといって、アラタの敵ではなかった。正確に顎に狙いを定め、拳を撃ち抜く。男は頭が揺さぶられ、その場に崩れ落ちた。

 アラタが数十人の男を沈めるのに、十分もかからなかった。ノカも数人倒すのを手伝いはしたが、大した加勢では無かった。
 ノカは倒れた男たちがつけている指輪を取り上げる。
「筋力三倍増強の指輪ですよ。魔法陣的にはシルヴァ公国製ですね」
 道理で見た目以上に手こずった訳だ、とアラタは勝手に納得する。彼のイメージでは五分程度で制圧する予定であった。

「おい、誰に貰ったものだ」
 意識のある最後の一人にアラタは声をかける。男は壁にもたれて座っている。戦意は消失している。
「なんなんだよ、お、お前ら!」
「こんな倍率の身体強化リングは法律で認められてませんよ。ついでにあのアンテナ、さてはテロでも企ててますね」
 ノカも詰め寄る。
「だ、だから、アンテナも指輪も何も知らねぇよ」
「ただ、状況的には完全にクロです。教えてください。じゃなければ捕まるのは貴方達です」
「・・・・・・くそっ! その指輪はある男に貰ったんだ」
 しばらくの間の後、男は話し始めた。おそらく、相手側からも圧力をかけられているのだろう。二つを天秤にかけ、こちらの方が重いと判断されたようだ。

「ある男?」
「これは本当に知らない。ただ、指輪を渡す代わりに、あのアンテナを置かせて欲しいって持ちかけて来たんだ。俺達がこの辺りで勢力を拡大するのに、指輪はうってつけのアイテムだったから、何も文句は無かったよ」
「それはいつの話?」
「ちょうど一ヶ月前ぐらい」
 〈勇者〉の指の輸送車が襲われるより前だと、ノカは頭の中で整理した。
「その男の特徴は? こいつらの顔を見たことあるか?」
 アラタは今回の件に絡んで捕まえたの二名の写真を見せた。
「おお、こいつだよ」
 男は運び屋の方の写真を指差した。
「そいつから他には何を頼まれた?」
「何もだよ、このアンテナに触らないでくれってだけだ」
 これ以上聞いても即効性のある手掛かりは得られそうにないと、二人は判断した。
「じゃあ、アンテナの方見せてもらうわ」

 屋上に建てられたアンテナは高さ2メートル程で、リングのようなものが途中に嵌められている。
 動力源はなく、発進された魔力を動力として次の地点へ送信する仕組みであった。
「かなり手が込んでいるというか、指が本当に狙いなのか?」
「それだけの価値があると判断すれば、国という生き物はなんでもしますよ。でも、狙いが見えないのは同意です。これだけの規模です。相当な自信があって動いているのでしょう」

 ノカはオーリオに電話をかけた。周りにアラタ以外誰もいない事を確認して、スピーカーにする。
「こんにちは、今時間大丈夫ですか?」
「どうした、ノカくん?」
「今、シルヴァ公国の大使館と繋がっているアンテナにいます。撤去してもらえますか?」
「なるほど、了解した。手配しておくよ」
「よろしくお願いします」
「それと釈放なんだけどね。明日の午前中に早まった。運び屋をエリクシアに放置する代わりに、尾行男を前倒しで回収するそうだ」
「そうですか、尋問はできますか?」
「両方ともチャンスは捩じ込んだよ」
「ありがとうございます」
「向こうから国の専用機がもう到着していてね。気が早いったらありゃしない」
「ありゃしない?」
「言わない?」
「うーん」
 ノカはアラタに目配せをする。そんなくだらない事でこちらを向くな、という顔をしている。
「ともかく、そういう事だから、明日までにできることをしよう」
「はい」
 通話は終了した。
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