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1.遺物と異物
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ノカは〈パンドラ〉のデスクに戻り、椅子に寄りかかって天井をぼーっと見ていた。彼女のいつもの思考スタイルである。
「気づけ、と言っているような証拠の残し方。なぜか見つからない、ダミーを含む他の運び屋達」
ぶつぶつと気になるポイントを口にして羅列していく。
「自爆未遂、シルヴァ公国の介入・・・・・・。アラタさんはこの事件をどう見てますか?」
「案外、人数はそんなに関わっていないのかもしれない」
アラタは言った。彼は資料を読み直している。
「というと?」
「今のところ明確に関わっているのは、先輩の捕まえた奴、俺が捕まえた奴、今のところは二人しか関わっていない。ダミーの荷物も、大使館に魔力を飛ばすアンテナも、結局は物だ」
「つまり、見かけ以上に人が多く関わっているように見せたかった、と言う事ですか?」
「俺が軍にいた頃にも、似たような事はよくやってた」
「何のために?」
「威嚇と撹乱、数が多いというだけで取れるマウントはいくらでもある」
「なるほど、実際に警察のリソースを、運び屋の捜索に裂かれていますもんね」
「ただ、そんな悪目立ちする事をなぜするのかという疑問は残る。それが、撹乱という意味なら、今捕まっている奴らを徹底的に潰さないと、手遅れになるかもしれない」
少し、妄想を重ねすぎたかもしれない、とアラタは思った。
「つまり、気合を入れて明日に臨む、という事ですね」
「まぁ、そうなる」
「ありがとうございます。やっぱり考える頭が多いと思考も広がりますね」
ノカはそう言って微笑んだ。
会話はそこで途切れ、二人は各々の思考に潜っていった。
「この部署は、俺が来るまでは二人だったのか?」
アラタはノカに声をかけた。時間は夜の十時、転属早々に連続で夜勤になるとは考えていなかった。
ノカは冷蔵庫を漁り、缶を二つ取り出して、一つをアラタに放り投げた。オレンジジュースだった。
「ええ、そうですよ」
プルトップを引きながら、ノカは答えた。アラタもそれに倣う。
「なぜ? そんな二人だけの部署なんて、聞いたことがない。というか回るとは思えない」
実際に特殊情報局内の他の部署の人間が、協力とは言えない形で捜査に関わっているではないか。
「そんな事、私に聞かれても困ります。でも、だからこそアラタさんが呼ばれたのでしょう?」
ノカは両手で缶を包むように持っている。
「そういう一人とか二人の話じゃなくてだ。何というか、〈勇者〉の肉片を管理するならそれ相応のシステムの構築というかだな、こうもっと個人に頼らないモノが必要だと思う」
考えがまとまらず、無駄に長く喋ってしまった。ノカはそれを黙って聞いていた。アラタよりも長くこの部署に在籍していて、こうした事をより深く考えていただろうに。
「でも、私にはここしかありません」
「どういう事だ?」
「言葉の通りです。私には、魔法陣に対する知識しか誇れるものがありません」
「充分だろ。その腕があれば、魔防省に入ったって活躍できる」
「アラタさんは優しいですね」
「お前が何かを隠しているのはわかる。それがこの部署と、どう関わっているかはわからない」
「私はもう話してもいいかなぁ、と思ってますよ」
「もうしばらく人を見て判断した方がいい。まだ会って数日だ」
ただ、この数日間、アラタはノカという人間に誰よりも深く接していただろう。
危なっかしい所もあるが、魔法に関する知識や技術は圧倒的で、国のために働く覚悟も持っている。
改めて彼女の顔を見る。・・・・・・頬がほんのり赤くなっている事にアラタは気づいた。
「もっと言いたくなりました。あのぉ、私の眼はぁ」
「ちょっと待て」
手でノカが話すことを制止する。彼女の手にある缶を取り上げる。アルコール飲料であった。ソフトドリンクと紛らわしいパッケージをしている。
「酔ってるな」
「えぇ? アルコールでしたぁ?」
ノカは一つあくびをする。大きく身体を反り、その反動のように机に突っ伏した。数秒後には寝息が聞こえる。
「気づけ、と言っているような証拠の残し方。なぜか見つからない、ダミーを含む他の運び屋達」
ぶつぶつと気になるポイントを口にして羅列していく。
「自爆未遂、シルヴァ公国の介入・・・・・・。アラタさんはこの事件をどう見てますか?」
「案外、人数はそんなに関わっていないのかもしれない」
アラタは言った。彼は資料を読み直している。
「というと?」
「今のところ明確に関わっているのは、先輩の捕まえた奴、俺が捕まえた奴、今のところは二人しか関わっていない。ダミーの荷物も、大使館に魔力を飛ばすアンテナも、結局は物だ」
「つまり、見かけ以上に人が多く関わっているように見せたかった、と言う事ですか?」
「俺が軍にいた頃にも、似たような事はよくやってた」
「何のために?」
「威嚇と撹乱、数が多いというだけで取れるマウントはいくらでもある」
「なるほど、実際に警察のリソースを、運び屋の捜索に裂かれていますもんね」
「ただ、そんな悪目立ちする事をなぜするのかという疑問は残る。それが、撹乱という意味なら、今捕まっている奴らを徹底的に潰さないと、手遅れになるかもしれない」
少し、妄想を重ねすぎたかもしれない、とアラタは思った。
「つまり、気合を入れて明日に臨む、という事ですね」
「まぁ、そうなる」
「ありがとうございます。やっぱり考える頭が多いと思考も広がりますね」
ノカはそう言って微笑んだ。
会話はそこで途切れ、二人は各々の思考に潜っていった。
「この部署は、俺が来るまでは二人だったのか?」
アラタはノカに声をかけた。時間は夜の十時、転属早々に連続で夜勤になるとは考えていなかった。
ノカは冷蔵庫を漁り、缶を二つ取り出して、一つをアラタに放り投げた。オレンジジュースだった。
「ええ、そうですよ」
プルトップを引きながら、ノカは答えた。アラタもそれに倣う。
「なぜ? そんな二人だけの部署なんて、聞いたことがない。というか回るとは思えない」
実際に特殊情報局内の他の部署の人間が、協力とは言えない形で捜査に関わっているではないか。
「そんな事、私に聞かれても困ります。でも、だからこそアラタさんが呼ばれたのでしょう?」
ノカは両手で缶を包むように持っている。
「そういう一人とか二人の話じゃなくてだ。何というか、〈勇者〉の肉片を管理するならそれ相応のシステムの構築というかだな、こうもっと個人に頼らないモノが必要だと思う」
考えがまとまらず、無駄に長く喋ってしまった。ノカはそれを黙って聞いていた。アラタよりも長くこの部署に在籍していて、こうした事をより深く考えていただろうに。
「でも、私にはここしかありません」
「どういう事だ?」
「言葉の通りです。私には、魔法陣に対する知識しか誇れるものがありません」
「充分だろ。その腕があれば、魔防省に入ったって活躍できる」
「アラタさんは優しいですね」
「お前が何かを隠しているのはわかる。それがこの部署と、どう関わっているかはわからない」
「私はもう話してもいいかなぁ、と思ってますよ」
「もうしばらく人を見て判断した方がいい。まだ会って数日だ」
ただ、この数日間、アラタはノカという人間に誰よりも深く接していただろう。
危なっかしい所もあるが、魔法に関する知識や技術は圧倒的で、国のために働く覚悟も持っている。
改めて彼女の顔を見る。・・・・・・頬がほんのり赤くなっている事にアラタは気づいた。
「もっと言いたくなりました。あのぉ、私の眼はぁ」
「ちょっと待て」
手でノカが話すことを制止する。彼女の手にある缶を取り上げる。アルコール飲料であった。ソフトドリンクと紛らわしいパッケージをしている。
「酔ってるな」
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