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1.遺物と異物
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通路に出ると、オーリオに連れられたシルヴァ公国からの使者の一陣が向かってきている。
「すみません。こちらの方でしたね。この建物に来るのは久々でね。・・・・・・おっノカくんにアラタくん」
オーリオは片手を挙げる。二人の表情を見て、尋問が上手くいった事を悟ったのだろう。
使者とノカが向き合う。頭ひとつ分の背の違いは余裕であった。
「ようこそ、〈勇者〉生誕の国へ」
ノカは精一杯の皮肉を込めて言った。
「このような人権侵害紛いな行為は許されませんよ」
使者の表情に変化は無い。まるで、全ての事に無関心なように。
「貴方が今日連れ戻すはずであった、タイグリーさんのお腹の中から〈勇者〉の指が見つかりました」
使者の表情に変化は無い。まるで、仮面を被っているかのように。
「あの人は貴方の国とどのような関係にあるのですか?」
「ただの国民ですよ。税を納めてもらう代わりに、生存を保障しています」
「一国民がそんな事しないでしょう」
「・・・・・・今日の身柄の引き受けはできそうにありませんね」
使者の一陣は踵を返す。
「待ってください!」
「彼らが私の国と共謀した事実はありません。密輸を画策した以上、身柄はそちらの司法に委ねます」
一陣はそう言い残して去っていった。
◆
〈勇者〉の指を奪還してから一週間経過した。
指の密輸に関わったとされている二人への取り調べは順調に進んでいた。しかし、物証が無く、シルヴァ公国も全ての証言と疑惑を否定している。これ以上、国自体を追及することは不可能だろう、と言うのが警察・情報局双方の一致した見解だった。
指は国の研究施設へと送られた。ノカは子供のようにごねて、所有権を主張したが、こっそり指のデータをとることで我慢した。
アラタは〈パンドラ〉にある自分のデスクに着く。事件後の事務処理なども、ここ数日は落ち着き、デスク周りの環境をかなり整えることができた。特に、一緒くたにされていたさまざまな資料や文書を分別する取っ掛かりができたことは大きな進捗であった。
その一方で〈勇者〉の肉片に関しては、指を奪還して以降進捗は無い。取り調べも遠い過去のようだった。
カプセルを開き、ノカが指を手にした瞬間、アラタは確かにこの仕事に昂りを感じていた。インテリジェンスの世界で国のために最前線で戦いたい、それはアラタの今の本音であった。
「おはようございます。アラタさん」
ノカが部屋に入ってきた。眼帯に、切り揃えた髪、黒いワンピース、全て相変わらずの格好であった。
「おはよう、先輩・・・・・・」
「どうしました? ジロジロ見て」
ノカは半身を切って腕を抱える。いじめないでのポーズだった。
「ずっと気になってたんだが、その格好はどうしてだ?」
「この格好ですか?」
彼女はスカートを摘み上げる。少しだけ持ち上がった裾から白い足首が覗く。
「別に意味なんかないですよ」
「は?」
「可愛いだけです」
ノカは小首を傾げる。
「やっぱり駄目だ。この部署はぬる過ぎる」
「ちょっとぉ、今どき、服装で規律を図るなんてナンセンスですよ」
「だったら民間に下れ、ここは国家の中枢だ」
「きー、そんな意地悪言いますか?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
いつの間にかオーリオも部屋に入っていた。両手に下げた紙袋は、詰め込まれた資料で今にも崩壊しそうであった。
「新しい事件を持ってきたよ」
二人の顔は同時にオーリオを向く。
◆
白衣を着た男は部屋に立ってる。
薄暗い部屋、四方に広く続いており部屋の壁ははっきりとしていない。部屋の中央には直径1メートル程度、部屋の床から天井までを貫く円柱形の透明な容器がある。
青い透明な液体で満たされており、その中には薄くて赤いモノが何枚か浮いている。近くで見るとそれが脳をスライスしたものだと分かる。
断面からは相互に細い糸のようなものが伸びている。明らかに人工的な黒いコード数本は上に伸び、容器と繋がっている。
容器の周辺にはコードからの信号を読み取る複数の計器が備え付けられ、男の目線はそちらに向いていた。
不意に部屋が明るくなる。
女が扉を開け部屋に入ってきた。こちらも白衣を纏っている。
「また、暗いところで研究して」
「明るいと見えるモノが多くて集中できなくてな」
「進捗は?」
「順調ではない。二つと無いサンプルだから、慎重になってるところさ」
「そういえば、国の方から新しいサンプルが届いたよ。次は指だって」
「指? 判別できるくらい大きいのか?」
「そうみたいね」
男は笑みを浮かべる。右側の唇だけが釣り上がる、アンバランスな笑みだった。
部屋の端には円柱形の容器が幾つも並んでおり、それぞれに人の形をした何かが浮かんでいた。
「すみません。こちらの方でしたね。この建物に来るのは久々でね。・・・・・・おっノカくんにアラタくん」
オーリオは片手を挙げる。二人の表情を見て、尋問が上手くいった事を悟ったのだろう。
使者とノカが向き合う。頭ひとつ分の背の違いは余裕であった。
「ようこそ、〈勇者〉生誕の国へ」
ノカは精一杯の皮肉を込めて言った。
「このような人権侵害紛いな行為は許されませんよ」
使者の表情に変化は無い。まるで、全ての事に無関心なように。
「貴方が今日連れ戻すはずであった、タイグリーさんのお腹の中から〈勇者〉の指が見つかりました」
使者の表情に変化は無い。まるで、仮面を被っているかのように。
「あの人は貴方の国とどのような関係にあるのですか?」
「ただの国民ですよ。税を納めてもらう代わりに、生存を保障しています」
「一国民がそんな事しないでしょう」
「・・・・・・今日の身柄の引き受けはできそうにありませんね」
使者の一陣は踵を返す。
「待ってください!」
「彼らが私の国と共謀した事実はありません。密輸を画策した以上、身柄はそちらの司法に委ねます」
一陣はそう言い残して去っていった。
◆
〈勇者〉の指を奪還してから一週間経過した。
指の密輸に関わったとされている二人への取り調べは順調に進んでいた。しかし、物証が無く、シルヴァ公国も全ての証言と疑惑を否定している。これ以上、国自体を追及することは不可能だろう、と言うのが警察・情報局双方の一致した見解だった。
指は国の研究施設へと送られた。ノカは子供のようにごねて、所有権を主張したが、こっそり指のデータをとることで我慢した。
アラタは〈パンドラ〉にある自分のデスクに着く。事件後の事務処理なども、ここ数日は落ち着き、デスク周りの環境をかなり整えることができた。特に、一緒くたにされていたさまざまな資料や文書を分別する取っ掛かりができたことは大きな進捗であった。
その一方で〈勇者〉の肉片に関しては、指を奪還して以降進捗は無い。取り調べも遠い過去のようだった。
カプセルを開き、ノカが指を手にした瞬間、アラタは確かにこの仕事に昂りを感じていた。インテリジェンスの世界で国のために最前線で戦いたい、それはアラタの今の本音であった。
「おはようございます。アラタさん」
ノカが部屋に入ってきた。眼帯に、切り揃えた髪、黒いワンピース、全て相変わらずの格好であった。
「おはよう、先輩・・・・・・」
「どうしました? ジロジロ見て」
ノカは半身を切って腕を抱える。いじめないでのポーズだった。
「ずっと気になってたんだが、その格好はどうしてだ?」
「この格好ですか?」
彼女はスカートを摘み上げる。少しだけ持ち上がった裾から白い足首が覗く。
「別に意味なんかないですよ」
「は?」
「可愛いだけです」
ノカは小首を傾げる。
「やっぱり駄目だ。この部署はぬる過ぎる」
「ちょっとぉ、今どき、服装で規律を図るなんてナンセンスですよ」
「だったら民間に下れ、ここは国家の中枢だ」
「きー、そんな意地悪言いますか?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
いつの間にかオーリオも部屋に入っていた。両手に下げた紙袋は、詰め込まれた資料で今にも崩壊しそうであった。
「新しい事件を持ってきたよ」
二人の顔は同時にオーリオを向く。
◆
白衣を着た男は部屋に立ってる。
薄暗い部屋、四方に広く続いており部屋の壁ははっきりとしていない。部屋の中央には直径1メートル程度、部屋の床から天井までを貫く円柱形の透明な容器がある。
青い透明な液体で満たされており、その中には薄くて赤いモノが何枚か浮いている。近くで見るとそれが脳をスライスしたものだと分かる。
断面からは相互に細い糸のようなものが伸びている。明らかに人工的な黒いコード数本は上に伸び、容器と繋がっている。
容器の周辺にはコードからの信号を読み取る複数の計器が備え付けられ、男の目線はそちらに向いていた。
不意に部屋が明るくなる。
女が扉を開け部屋に入ってきた。こちらも白衣を纏っている。
「また、暗いところで研究して」
「明るいと見えるモノが多くて集中できなくてな」
「進捗は?」
「順調ではない。二つと無いサンプルだから、慎重になってるところさ」
「そういえば、国の方から新しいサンプルが届いたよ。次は指だって」
「指? 判別できるくらい大きいのか?」
「そうみたいね」
男は笑みを浮かべる。右側の唇だけが釣り上がる、アンバランスな笑みだった。
部屋の端には円柱形の容器が幾つも並んでおり、それぞれに人の形をした何かが浮かんでいた。
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