【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第六章 終結(神殿編)

窮地

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「大輝さん?」

 それはいきなり訪れた。神聖なる森までもう少しあるという所で大輝さんに異変が生じた。胸を押さえてうずくまり倒れ込んだのだ。慌てて大輝さんに近づき、抱き寄せると凄い汗だ。ほんの少し前まで笑いながら一緒に歩いていたのに……。

 あたりを見渡すも、魔物はいない。ルウファを出てから魔物は現れてはいたが、今、魔物の気配はない。体調が悪かったのだろうか?脈を測ろうと右手を持った時、ある所に視線がいった。右手の手袋には良太に短剣で傷つけられ一直線に破けている箇所があった。その皮膚の色がどこかおかしい。慌ててその手袋を脱がせると、右手の甲が赤茶色に変色しているのだ。

 良太に傷つけられた時は、薄っすらと一本の赤い線で血も出ていないくらいだった。薬を塗っただけで、特にそれ以降何もなかったし、実際あれから何日も経っている。その手を濡らすように空から水滴がポツリポツリと落ちてきた。雨だ。まだ小雨だが徐々に激しくなりそうな灰色の雲。このままでは大輝さんは濡れてしまう。身長も高くて、体格の良い大輝さんを俺が抱えるのは無理だ。どうしようと考えている間も雨は強くなっていく。

(そうだ……)

 大輝さんのカバンから革布を取り出すとそれに乗せた。近くの大木の穴倉まで引きずり、もう一度傷口を確認する。一本の赤い線は薬を塗っていたので色は薄いが、その周りは赤茶色に変色し広がっている。俺の貞操保護があるせいで、手袋はほとんどとらず、気付くのに遅れてしまった。

(どこまでこの症状は続いているのだろう……)

 雨に濡れた大輝さんの服を脱がす。赤茶色に変色した肌は心臓の近くまで続いた。その色はどこか見覚えがあった。


ーークルア症だ


 ラークアンド国で見たウルファーナの時と同じ症状だ。クルア症は皮膚が赤茶色に変色する以外に、手足が曲がり麻痺するという病気だった。でも、大輝さんの症状は赤茶色に変色しているだけで手足は麻痺していないようだ。そうこうしている内に、赤茶色に侵食する部分が心臓の方へと広がった。このままでは危ない。薬の調合をしたのはあの一度きりだ。あの薬の調合はとても難しかった。

(……俺にできるんだろうか?)

 もし俺が薬の調合を、薬の量を間違えてしまえば大輝さんは死んでしまう……。大輝さんを失ってしまうんじゃないかと思うと、怖くて手が震えた。でも、目の前の大輝さんはみるみる顔色が悪くなっている。俺がやらないと……。


ーーゆうにぃは要領が悪くて、いつも人の顔色を窺って何もできない


 頭の中で良太の言葉が思い返される。いや、違う。俺は何もできなくなんかない。ルウファで男の子を助けたことを思い出す。


ーーほら?優馬は何もできなくなんかないだろ


 あの時、親子にはお礼を言われ、大輝さんは褒めてくれた。それに大輝さんは出会った頃からずっと俺のために必死に動いてくれてる。大輝さんだけじゃない。スハンや友也、トルデン王子……色々な人が俺を助けようとしてくれた。俺は……俺はそんな人たちにふさわしい人間になりたい。


ーー変わりたい

 
 俺がやるしかない。俺が大輝さんを助けるしかないんだ。頭を強く振り、不甲斐ない自分を取り去った。

「用意するのは薬草のスーリア、花のブルアモーナ、穀物のギムコの粒、魚のジムンの骨……」

 ぶつぶつと小さく呟きながら自分のカバンからそれらを取り出す。最後に三角の黄色い草の実のカルパを。それに似た四角い草の実のパッカル。スーリアと2つの黄色い草の実は、多すぎても少なすぎてもダメ。睡眠を誘発するスーリアは多いと死に至らせ、ビタミンが多いカルパは量が多いと患部が腫れ、養分を奪い取るパッカルはクルア症を進行させる。

 ブルアモーナ、ギムコ、ジムンの骨を各1つずつ手に取り、サラサラになるまですり潰す。次にスーリアを細かく切り、黄色い草の実それぞれから種を取り出す。問題はこの次だ……

(重要なのは、短剣の数ミリの場所……。大丈夫。この薬は作ってないけど、何度も練習した。何度聞いても大輝さんは怒らず説明してくれたし、最後は褒めてくれたじゃないか……)

 一呼吸して、まず最初にスーリアを短剣の刃先に少し乗せてすり鉢に、カルパとパッカルもそれぞれ慎重にとるとすり鉢にいれて均等に混ぜた。粉末にしたものとお湯を入れて丸薬にしたものをどうにかして作り上げた。まずは粉末を赤茶色に変色している場所に丹念に塗り込む。次に丸薬を飲ませないといけないのに、浅い呼吸を繰り返す大輝さんは丸薬を飲み込むことができない。

「……っ……つっ……」

 自身の口に水を含み、大輝さんに丸薬を飲ませた。ビリビリと痺れるような痛みが襲ってくる。同じように貞操保護の罰を受けた大輝さんも痛みで小さな呻き声を上げる。でも、丸薬は無事に飲み込んでくれたようだ。

(……もし大輝さんがこれで目を覚まさなければどうすれば……いや、まずは目を覚ましてもらうことを考えよう)

 穴蔵の入り口を見た。先ほどまで小降りだった雨は、いつの間にか大雨になっている。少し前、魔物が出たからいつ襲ってくるか分からない。いつまでもここにいるのは危険だ。大輝さんが怪我している今、俺が立ち向かわないと。ぎゅっと奥歯を噛みしめる。

(……でも、大雨のおかげで少しは時間が稼げるかな……)

 降り続く雨で気温が下がる。火を絶やさないようにして、大輝さんの側で様子を見守った。
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