【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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番外編 小話

初めて名前を呼ばれた日 ラウリアside

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※本編タイトル『エンフィル第三王子』の時の話。


 フグラセン国の蒸し暑いジャングルの中、大きな穴蔵から出てきた僕を追いかけて良太も穴蔵から出てきた。
 良太は中を監視するためか穴蔵から離れることはなく、目の前にいる僕ではなく穴蔵の中の2人をじっと見ている。
 
『何であの男はここにやって来たんだ?』 

 良太のいうあの男というのはエンフィルのことだ。確かに僕もいきなりあんな形でエンフィルが現れるとは思っていなかった。そして、良太はエンフィルの存在が煩わしいのか苛立ち気に僕に尋ねてくる。

『フグラセンへ来ると連絡したから心配してくれたのかも』

 実のところ、僕もどうしてエンフィルがフグラセン国にわざわざやって来たのかは分からない。
 でも、こうやって良太が僕のことを追いかけてきてくれるなら悪い気はしないな……。
 そんな僕の気持ちを知らない良太はさっさと穴蔵へと戻ろうとしてしまった。
 僕は咄嗟に呼びかける。
  
『待って、良太。話があるんだ……。その……僕とのことを真剣に考えてくれる気はあるかい?』
『は?あるわけ……』

 良太は『あるわけないだろう』といつものようにそっけなく言おうとしたものの、僕の様子がいつもと違うことに気づいたのか、態度を少し改めた。

 良太はようやく穴蔵から僕の方へと視線を寄越し、僕ときちんと向き合った。
 その良太の表情はいつものように冷たい視線もなければ、哀れみもない。

『ごめん、ラウリアとのことは僕には考えられない』
『はは……初めて名前を呼んでもらえたのに、それがフられる時のセリフだなんて……』

 これがいつものように対応がめんどくさくて適当に返事したとかって方が僕も救われるのに……。
 良太の少し茶色い瞳は真剣で、良太が僕にそんな表情を見せるのは初めてだ。
 大好きな人に名前を呼ばれて嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくないや……。

 良太は僕が少なからず動揺しているのを感じ取っているのか、先ほどの言葉を言った後はただ黙って僕を見ていた。いつもなら僕のことなんてほっておいてさっさと穴蔵に戻るだろうに、良太は優しいね。

 そんな優しい良太に僕は微笑んで『中に戻ろう』と言った。
 きっぱりと良太にフラれたはずなのに、それでも僕はまだ良太のことが好きだ。
 
(良太が僕のことを好きじゃないって分かってる……)

 でも、僕は諦めが悪いんだ。
 僕の前を歩く良太の背中を見つめながら僕も穴蔵の中へと続いて入った。



※この後の話から良太視点でのラウリアは、王子呼びからラウリア呼びになって、一個人として認識するようになってるはず。
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