【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第五章 逃亡

雨降る夜

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 プルーメルの蜜を食べた翌日の朝、軽い身体で目が覚めるともう大輝さんは起きていた。
 毎晩、祈りの魔法石に月の光を2人で集めているのに大輝さんはいつも俺より早起きしていて、大輝さんの体力に感嘆すると共に自身の体力のなさに悲観した。
 それでも、今日目が覚めて身体の軽さと足腰が元気になった気がして、喜びながら大輝さんに報告すると笑って「それは良かった」と言ってくれた。

 クーアラの森をようやく北に抜けると少し大きめの川があったので、そこで少し休むことにした。
 クーアラの森の中にも川はあったものの細く、身体を拭いたり、飲み水としてしか利用できなかったからだ。
 川に足を突っ込むと冷たすぎないその水温は、いつまでも入っていられそうだ。ふと遠くを見ると、黒い影が水の中に見え、大輝さんがジムンという魚だと教えてくれる。

(ジムン……?どっかで聞いたことあるな……)

「あ、ルウファで食べたことがあります!」

「あぁ、焼いたり蒸したりして食べると美味しいんだ。今日のご飯はこれで決まりだな」

 大輝さんがニッと笑った後、川のそばにあった大きめの石をジムンめがけて投げると、ジムンがぷかーっと川から浮いてきた。ジムンは大きな音とかに気絶するらしく、こうやってよく獲られているらしい。
 火の起こし方は異世界っぽいのに、魚の捕まえ方は原始的だな……と思うと面白かった。

「美味しい!」

 火を起こし、焼けたジムンを食べると、あまりの美味しさに感動した声が自然と口から出た。
 隣にいる大輝さんをチラッと見ると、大輝さんも美味しさに驚いているようだ。
 獲れたてだからだろうか?ルウファで食べた時よりもより一層美味しく感じる。
 ジムンは白身で塩なども何もかけてなくてもあっさりしていていくらでも食べられそうだ。

 腹ごしらえをした後、大輝さんが「この岩場の後ろが日陰になってるからそこで水浴びしてくるか?」と声をかけてくれた。
 クーアラの森では身体を拭いたりはしていたものの、ずっと水には浸かれていなかった。素直に頷き、着替えの服を受け取る。

 あっちと言っても離れた場所なわけでもなく、すぐ側にある大きな岩場の影だった。大輝さんは穴蔵でも身体を拭く時とかも配慮してくれる。
 普通男同士だから気にしなくてもいいのだろうけど、図書館での俺の反応や良太との関係を知っているので気遣ってくれているのだと思う……。
 
 パシャパシャと全身で水を浴びた後、拭いただけでは取れなかったであろう汚れをゴシゴシと落としていた時、岩場の向こう側から音がした。大輝さんがいるほうだ。

ーーゴァア

 何かの鳴き声だった。慌てて服を着て、そちらへと向かうと、土の塊のような魔物が大輝さんに向かって土を吐き出していた。大輝さんが剣でそれを薙ぎ払う。

「くるなっ!」

 こちらに気づいた大輝さんが後ろを振り返り、そう叫ぶも魔物はこちらに気づき、土を吐き出そうとしてきた。

ーーどうすれば?とっさに岩場に隠れようかと思ったものの、魔物が土を吐き出す方が早いだろう……

 その時、大輝さんが庇うようにして俺の前に立ち、吐き出された土を切り裂いた。
 大輝さんは剣を握ると、その剣はうっすらと青く輝き、土の魔物が近づいたところを切り裂いた。土の魔物はどろっと溶けて土の塊となった。

「驚かせてすまない……。大丈夫か?」

「はい……守ってくれてありがとうございます……」

「ずっと魔物が出てこなかったから油断していた。あの魔物は元から少し弱っていたように思う。もしかすると近くに来ているのかもしれない」

 近くに何がとは言わなかったが、誰かが来ている可能性ということだろう。大輝さんの持っている剣を見ると先ほどはうっすら青く輝いていたのに今は光を反射する鋼色だ。

「水のトカゲ・ミウトの尻尾を使ったんだ」

 首を傾げると、ミウトというトカゲは水属性でそれを剣に使うとその剣はいっときの間、水属性になると教えてくれた。

「俺に魔力がもっとあればいいんだが……いや、あったところで俺には魔術は使えないんだが……」

「いえ、俺なんて全くないので!」

 言葉を続けて「……だから凄いです」と思ったことをそのまま口に出してしまい、恥ずかしくて最後の方は声が小さくなったが、きちんと大輝さんは聞き取ってくれて「ありがとうな」と言って笑ってくれた。

「その……どうして大輝さんは俺にここまでしてくれるんですか……?」

 魔力があまりないという大輝さん。そんな大輝さんは今もこうやって危険を顧みず身を呈して守ってくれた。どうしてここまでしてくれるのか分からず素直に聞いた。
 
 今だけじゃない。会った時から大輝さんは面倒見がいいだけでなく、俺をずっと気にかけてくれた。
 それが嬉しくて、心の拠り所だった。良太があの時、言っていたような下心なんて大輝さんにはなく、俺は一瞬でもあの時大輝さんを疑ったことを恥じた。

「ほっとけなかったんだ……でも、そう言って俺は優馬の側にいたのにすぐに気づいてやれなくて……すぐに助けてやれなくて後悔している……」

 ほっとけなかったのは弟さんのことを思い出すからですか?……そう聞きたかったけど「そうだ」と言われるのが何故か怖くて聞くことはできなかった。

「俺は……俺は、こうやって大輝さんと外を歩けて嬉しいです……」

「ありがとうな」

 大輝さんは優しく微笑み、俺の頭をわしっと撫でた後、俺たちは先に進んだ。
 その翌日、ずっと穏やかな気候だったもののこの日は大雨だった。曇り空になり始めた頃、どこか雨宿りか泊まることができる穴蔵はないかと探したが、奇しくも見つからず、雨に打たれたながら少しの間、移動するしかなかった。

 ようやく小さな穴蔵を見つけた時、俺たちは雨でビショビショだった。大輝さんが穴蔵に入り、火を起こしてくれる。

「優馬、服を脱いで乾かそう」

 そう言って、大輝さんは俺に毛布を渡してくれた。大輝さんが服を脱ぐと目を逸らそうにも小さな穴蔵なため、服を脱ぐ大輝さんはどうしても視界に入ってしまう。恥ずかしくて咄嗟に視線を地面に落とした。
 地面に視線を落とす直前、大輝さんのお腹に傷があるのが見えた。
 それは昔にできた傷ではあるようなものの綺麗に一直線に入っていて……まるでナイフで刺された跡かのようだった。

「……その傷……」

 そう聞こうとして、自身が不躾な質問をしようとしていることに恥じた。思わず下を向いたものの、大輝さんには聞こえているであろうその言葉をどうしようかと悩んだ。

「いえ……なんでも……」
「あぁ、いや、気にするな。これは刺されたんだ」

 顔をパッと上げて「え?誰に?」思わず、そう聞きそうになったものの、口を引っ込める。どこまで聞いていいのか分からなかったのだ。

「ははっ、優馬はすぐに顔に出るな。これは母に刺されたんだ……」

「えっ?」

 俺が聞きたそうな顔をしていることを指摘して笑った後、大輝さんは気にした風もなく、お母さんに刺されたことを教えてくれた。

 そして、そのまま続けて大輝さんは過去にあったことを話してくれた。
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