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最終章 終焉(ナミル・魔界編)
その後
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良太が魔力の暴走をしてから1日、1週間、1ヵ月と時間が経った。良太は一命は取り留めたものの、その期間、瞼を一度も開くことはなかった。そして、その後も。死んだわけではなく、魔力が暴走した後、枯渇してしまったため、ずっと眠り続けているのだという。
あの時、大輝さんが良太の呼吸を見ようと首筋に手を当てようとした時、良太は最後のあがきなのか、自分に結界を張って眠りについた。結界を張ったせいで誰一人触ることはできない。俺を除いて。
あの黒い靄は良太が息を取り戻した時に消え、戻った先はケッシナの森だった。世界にばら撒かれた魔鏡のカケラから出現した魔物も少しして完全に消えた。良太の魔王としての力はなくなったらしい。
神殿まで連れて行くのは大変だった。どうして最後の最後まで迷惑をかけるんだ。そう怒りを交えながらも結局俺が肩に良太の手を担ぐ形で神殿にまで連れて行くしかなかった。最後、誰かが荷台を持ってきてくれたけど、それは嫌だと言うかのように荷台に結界が施され、良太を乗せることはできなかった。
神殿に連れ帰り、ベッドへと横たわらせ肌を拭いてやる。最後俺の手から流れ出た血や汗で汚れていたからだ。
俺が拭いても、身動き一つしないことから本当に深い眠りについたのだと分かった。もう良太に怯えることはないのだと分かり、安心するのに、とても寂しい気持ちにもなる。
良太はずっと目覚めないので食事をとることもないのに、やせ細ることもなくただずっと眠り続けていた。
良太を神殿につれていった時、俺たちを召喚した神官の少年・トウクくんが俺の元へとやって来た。
良太が深い眠りについたことでトウクくんは目覚めたらしい。
良太が元の世界へ戻ることを希望したら俺も元の世界へ一緒に戻ることは可能だけど、良太が目覚めない今、俺は元の世界へ戻る術がないらしい。やはり俺は呼ばれるべき人間ではなかったらしい。だから、言葉も分からないままだ。
元々俺は元の世界に戻れないって思っていたから諦めていたし、こちらの世界で過ごすと覚悟していたので、すんなり受け入れることができた。それにこちらの世界には大輝さんがいるし、元から戻る気もなかった。
『あ、あの……もし辛ければ記憶を消すこともできます……』
トウクくんが小さな声で言った。大輝さんが、その意味を教えてくれる。良太があの時、実の兄弟で関係を持っていると言ったことを気遣っての言葉だった。トウクくんはその記憶を消す魔術が使えるらしい。でも、聞いた人たち全員の記憶を消すには人数が多く、また魔力が高い人たちばかりで難しいけど、俺1人なら消すことはできる。良太に関する記憶を消せば、周りの視線を気にせずに生きることができるからと提案してくれたようだ。少しその言葉を悩んだ。でも、でも、俺には……
「だ、いきさん、おれにはりょうたを、わすれる、ことは……」
嗚咽を交えて口から出た言葉の続きを言うことは憚られた。大輝さんにこんなこと言うのは間違っていると分かっている。それでも、俺が良太を忘れてしまったら、あの縋りつき忘れないでと言った良太を見捨てたことになってしまう。
「いいんだ……忘れなくていい……」
大輝さんが俺の頬に流れた涙を拭い、静かに言った。その言葉は俺に対してというよりかは、忘れられることの悲しみを知っていて良太にそれを感じて欲しくないからかもしれない。俺と良太の関係を知っている人たちもそのことを知ったからと言って、差別するような人間ではないと大輝さんが言う。
『話はすんだかい?』
後ろを振り返るとラウリア国王陛下が立っていた。
『彼は神殿で保護するよ』
『我が説明してやろう』
ペトフ大神官がやって来て、説明してくれる。この世界には長い歴史があり、この世界を守るために召喚者を犠牲にするのはどうなのかと、ずっと考えていた。だから良太は、召喚者の犠牲者として神殿で保護してくれることにしたらしい。
開いた扉の向こうにいるベッドで横たわる良太を皆で見ると、良太は今まで眠れなかった分を取り戻すかのように安らかに眠っていた。皆がその場を去っていく。散らばった魔鏡のカケラから出現した魔物は僅かですぐに消えたものの、回収作業や地鳴りで怪我や壊れたものの復興作業があるからだ。
「大輝さん、俺……良太を最後の最後までやっぱり見捨てることができませんでした……」
本当に自分が自分で愚かだと思う。良太に最後の最後まで振り回されて、拒絶すべきなのに結局は良太の求める言葉を言ってしまった。良太の想いとは違う。でも、あの時はあぁ言わないと良太が消えてしまうと思ったのだ。それでも、自分は良太に振り回されてばかりだと実感し、はぁと深いため息をつくと大輝さんが言った。
「優馬、前も言っただろ?優馬のその優しさは優馬の強みで、あいつを心配するのも兄としての気持ちだ。それよりも上書きしてもいいか?」
そう言われて、大輝さんは俺が口移しで良太に薬を飲ませたことを言っているのだと気付き、照れながら頷いた。大輝さんが顔を近づけようとして一度止まった。そして、良太の眠る部屋の扉を閉じると、もう一度こちらを向きなおした。大輝さんと見つめ合って笑い合うとそっと唇を重ねて這わせた。
「優馬、これからは優馬の人生を歩もう」
大輝さんが囁いた。良太が眠りについた今、俺は振り回されることはなくなったのだ。
家族として良太を心配し、想う気持ちはある。でも、これからは俺の人生を歩みたい。
あの時、大輝さんが良太の呼吸を見ようと首筋に手を当てようとした時、良太は最後のあがきなのか、自分に結界を張って眠りについた。結界を張ったせいで誰一人触ることはできない。俺を除いて。
あの黒い靄は良太が息を取り戻した時に消え、戻った先はケッシナの森だった。世界にばら撒かれた魔鏡のカケラから出現した魔物も少しして完全に消えた。良太の魔王としての力はなくなったらしい。
神殿まで連れて行くのは大変だった。どうして最後の最後まで迷惑をかけるんだ。そう怒りを交えながらも結局俺が肩に良太の手を担ぐ形で神殿にまで連れて行くしかなかった。最後、誰かが荷台を持ってきてくれたけど、それは嫌だと言うかのように荷台に結界が施され、良太を乗せることはできなかった。
神殿に連れ帰り、ベッドへと横たわらせ肌を拭いてやる。最後俺の手から流れ出た血や汗で汚れていたからだ。
俺が拭いても、身動き一つしないことから本当に深い眠りについたのだと分かった。もう良太に怯えることはないのだと分かり、安心するのに、とても寂しい気持ちにもなる。
良太はずっと目覚めないので食事をとることもないのに、やせ細ることもなくただずっと眠り続けていた。
良太を神殿につれていった時、俺たちを召喚した神官の少年・トウクくんが俺の元へとやって来た。
良太が深い眠りについたことでトウクくんは目覚めたらしい。
良太が元の世界へ戻ることを希望したら俺も元の世界へ一緒に戻ることは可能だけど、良太が目覚めない今、俺は元の世界へ戻る術がないらしい。やはり俺は呼ばれるべき人間ではなかったらしい。だから、言葉も分からないままだ。
元々俺は元の世界に戻れないって思っていたから諦めていたし、こちらの世界で過ごすと覚悟していたので、すんなり受け入れることができた。それにこちらの世界には大輝さんがいるし、元から戻る気もなかった。
『あ、あの……もし辛ければ記憶を消すこともできます……』
トウクくんが小さな声で言った。大輝さんが、その意味を教えてくれる。良太があの時、実の兄弟で関係を持っていると言ったことを気遣っての言葉だった。トウクくんはその記憶を消す魔術が使えるらしい。でも、聞いた人たち全員の記憶を消すには人数が多く、また魔力が高い人たちばかりで難しいけど、俺1人なら消すことはできる。良太に関する記憶を消せば、周りの視線を気にせずに生きることができるからと提案してくれたようだ。少しその言葉を悩んだ。でも、でも、俺には……
「だ、いきさん、おれにはりょうたを、わすれる、ことは……」
嗚咽を交えて口から出た言葉の続きを言うことは憚られた。大輝さんにこんなこと言うのは間違っていると分かっている。それでも、俺が良太を忘れてしまったら、あの縋りつき忘れないでと言った良太を見捨てたことになってしまう。
「いいんだ……忘れなくていい……」
大輝さんが俺の頬に流れた涙を拭い、静かに言った。その言葉は俺に対してというよりかは、忘れられることの悲しみを知っていて良太にそれを感じて欲しくないからかもしれない。俺と良太の関係を知っている人たちもそのことを知ったからと言って、差別するような人間ではないと大輝さんが言う。
『話はすんだかい?』
後ろを振り返るとラウリア国王陛下が立っていた。
『彼は神殿で保護するよ』
『我が説明してやろう』
ペトフ大神官がやって来て、説明してくれる。この世界には長い歴史があり、この世界を守るために召喚者を犠牲にするのはどうなのかと、ずっと考えていた。だから良太は、召喚者の犠牲者として神殿で保護してくれることにしたらしい。
開いた扉の向こうにいるベッドで横たわる良太を皆で見ると、良太は今まで眠れなかった分を取り戻すかのように安らかに眠っていた。皆がその場を去っていく。散らばった魔鏡のカケラから出現した魔物は僅かですぐに消えたものの、回収作業や地鳴りで怪我や壊れたものの復興作業があるからだ。
「大輝さん、俺……良太を最後の最後までやっぱり見捨てることができませんでした……」
本当に自分が自分で愚かだと思う。良太に最後の最後まで振り回されて、拒絶すべきなのに結局は良太の求める言葉を言ってしまった。良太の想いとは違う。でも、あの時はあぁ言わないと良太が消えてしまうと思ったのだ。それでも、自分は良太に振り回されてばかりだと実感し、はぁと深いため息をつくと大輝さんが言った。
「優馬、前も言っただろ?優馬のその優しさは優馬の強みで、あいつを心配するのも兄としての気持ちだ。それよりも上書きしてもいいか?」
そう言われて、大輝さんは俺が口移しで良太に薬を飲ませたことを言っているのだと気付き、照れながら頷いた。大輝さんが顔を近づけようとして一度止まった。そして、良太の眠る部屋の扉を閉じると、もう一度こちらを向きなおした。大輝さんと見つめ合って笑い合うとそっと唇を重ねて這わせた。
「優馬、これからは優馬の人生を歩もう」
大輝さんが囁いた。良太が眠りについた今、俺は振り回されることはなくなったのだ。
家族として良太を心配し、想う気持ちはある。でも、これからは俺の人生を歩みたい。
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