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第六章 終結(神殿編)
朱殷色の魔法石
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ペトフ大神官は唇についた蜜をペロッとピンク色の舌で舐めるとまた同じ白い植物を手に取った。
”『ある時、我の血を1滴混ぜた祝杯を人に飲ませることによって我の力が受け継ぐことができるのだと分かり、その時の王は神官という名目で人を神殿に呼び寄せた。だが、神の遣いと言われるこの力。心根が悪い者は死に至る。神官になれば死に至るという悪い噂が立たぬよう多くの規定を設けたようじゃが』”
その話を聞いて、あの部屋でペトフ大神官の胸に刺さった短剣から血が床へと落ちたのに跡形もなく消えたのを思い出した。そのことを尋ねると、ペトフ大神官の血は神官の儀式の日に祭壇の盃へと落ちるようになっていたらしい。でも、1滴の血が多くても少なくてもいけないと分かった過去の王は、不要な血をペトフ大神官の身体に戻し、循環するようにしようとしたみたいだが、それはうまくいかなかったようだ。
”『1滴の血が入った祝杯、それ以外に流れる血は何処か分からぬ場所へと流れ続けた。我の血はもうほぼないに等しい。まぁ、そのおかげで召喚できる人数に限りができたのだから良かった。我の血が尽きてしまえば力を引き継ぐ者を生み出せぬからな』”
先ほどから頭にザザッと言う雑音がたまに入る。それはペトフ大神官の力が揺れている時に発生するのだと分かった。
「子供たちのその異常は治るのでしょうか?」
”『今の状態ではまだ治すことができぬ。この土地を、この神殿を神の国・タルラーク国へ返して欲しい。さすれば自ずと子供らの異常は治るじゃろう』”
「どうやって神殿を返せば?」
”『魔法石を持っておるじゃろ?それを返還して欲しいのじゃ。ただし所有権を持っている国……グルファン王国の王がタルラーク国の王へと返還する必要がある』”
大輝さんと渋い色をした赤い魔法石を2人で見つめる。そして、頷き合った。横に座っている大輝さんが俺の手を握る。
「俺たちがこの魔法石を届けてきます」
ペトフ大神官の方を向いて答えた。ペトフ大神官は静かに”『ありがとう』”と答えた。
「……あの、トウクくんもこの神殿をタルラーク国へ返還したら目が覚めるのでしょうか?」
”『……それは分からぬ。まだ神の加護が下りていない者たちの力は我に戻るじゃろう。だが、そのトウクという者は神の加護が下りてしまっておるからのう……。返還されれば分かるはずじゃ』”
そう言われ俺は肩を落とすと、大輝さんが俺の手に力をぎゅっと込めた。見上げると「まずはこの魔法石をラウリアに渡しに行こう」と言った。
(……そうだ。まずはこの神殿をタルラーク国に返さないと……)
俺が落ち込んでいたってしょうがない。まずは動けることからしないと。そう思い改め、大輝さんに頷き返した。その時、ペトフ大神官の手から赤い木の実が滑り落ちた。俺が拾うよりも先にペトフ大神官はすぐに拾い上げ、口に放り込もうとしてまた落とした。そこでペトフ大神官の手がかすかに震えていることに気付いた。
”『おぬしと会話できるのにはちょっと限界があるかもしれぬ。この世界に巻き込んでしまって申し訳ぬのう』”
「いえ、そんな……」
神の遣いと言われるペトフ大神官に謝られてしまって俺は何と答えて良いか分からなかった。そう悩んでいるうちにペトフ大神官の口からはこちらの世界の言葉が流れるのに、俺の頭には何も聞こえなくなった。ペトフ大神官はウイアンくんに何か言い、ウイアンくんとスハンと共にこの部屋を出て行った。
『ーーーー.ーーーーー.ーーー?』
『ーー.ーーーーーー』
最後に出て行こうとしたペトフ大神官に大輝さんが駆け寄り何か聞いている。でも、ペトフ大神官は申し訳なさそうな顔をして首を振るだけだった。
翌朝、スハンとミンちゃん、ウイアンくん、ペトフ大神官、それにカルアスくんとチスくんまで来てくれて神殿の扉のところまで見送りに来てくれた。最後までペトフ大神官はケラケラと豪快に笑う人だった。大輝さんがスハンと少し話をしている間、ペトフ大神官が近寄ってきて俺の手を握ってニコニコと微笑んでくれる。頭の中に聞こえた会話はちょっとやんちゃなイメージだけど、こうやって何も言わずに微笑まれると、まるで天使のような微笑みで身も心も癒される気持ちになる。
スハンと話し終えた大輝さんがこちらへとやって来る。スハンとミンちゃんが俺にニコッと笑い、俺も笑い返した。そうして皆に見送られながら俺たちは神殿を後にした。
「大輝さん、どうやってこの魔法石をラウリア王子に届けたらいいでしょうか?」
神殿を出て少ししてから俺は大輝さんに尋ねた。
「王位継承の儀式を行える太陽の日がもう少しである。その儀式はグルファン王国の城からルウファへと向かう途中の場所、祭典の場で行われる。そこへ向かおう」
「はい!」
魔法石を無事に届けられるか心配はある。でも、今の俺には大輝さんがいる。それに今日の心地よい天気と先ほどのペトフ大神官の天使のような微笑みがその不安を振り払ってくれて頑張って届けようと思えた。
「今日はいい天気ですね!あ、大輝さんプルーメルがあります!」
少し先の茂みに久しぶりのプルーメルを見つけて、自然と固い地面を蹴り上げた。久しぶりにプルーメルの蜜を飲みたい。
「優馬、あまり離れすぎるな」
思わず走り出していた俺に大輝さんが笑いながら言った。俺は少し恥ずかしくなって振り返ると、大輝さんに手を差し出した。
”『ある時、我の血を1滴混ぜた祝杯を人に飲ませることによって我の力が受け継ぐことができるのだと分かり、その時の王は神官という名目で人を神殿に呼び寄せた。だが、神の遣いと言われるこの力。心根が悪い者は死に至る。神官になれば死に至るという悪い噂が立たぬよう多くの規定を設けたようじゃが』”
その話を聞いて、あの部屋でペトフ大神官の胸に刺さった短剣から血が床へと落ちたのに跡形もなく消えたのを思い出した。そのことを尋ねると、ペトフ大神官の血は神官の儀式の日に祭壇の盃へと落ちるようになっていたらしい。でも、1滴の血が多くても少なくてもいけないと分かった過去の王は、不要な血をペトフ大神官の身体に戻し、循環するようにしようとしたみたいだが、それはうまくいかなかったようだ。
”『1滴の血が入った祝杯、それ以外に流れる血は何処か分からぬ場所へと流れ続けた。我の血はもうほぼないに等しい。まぁ、そのおかげで召喚できる人数に限りができたのだから良かった。我の血が尽きてしまえば力を引き継ぐ者を生み出せぬからな』”
先ほどから頭にザザッと言う雑音がたまに入る。それはペトフ大神官の力が揺れている時に発生するのだと分かった。
「子供たちのその異常は治るのでしょうか?」
”『今の状態ではまだ治すことができぬ。この土地を、この神殿を神の国・タルラーク国へ返して欲しい。さすれば自ずと子供らの異常は治るじゃろう』”
「どうやって神殿を返せば?」
”『魔法石を持っておるじゃろ?それを返還して欲しいのじゃ。ただし所有権を持っている国……グルファン王国の王がタルラーク国の王へと返還する必要がある』”
大輝さんと渋い色をした赤い魔法石を2人で見つめる。そして、頷き合った。横に座っている大輝さんが俺の手を握る。
「俺たちがこの魔法石を届けてきます」
ペトフ大神官の方を向いて答えた。ペトフ大神官は静かに”『ありがとう』”と答えた。
「……あの、トウクくんもこの神殿をタルラーク国へ返還したら目が覚めるのでしょうか?」
”『……それは分からぬ。まだ神の加護が下りていない者たちの力は我に戻るじゃろう。だが、そのトウクという者は神の加護が下りてしまっておるからのう……。返還されれば分かるはずじゃ』”
そう言われ俺は肩を落とすと、大輝さんが俺の手に力をぎゅっと込めた。見上げると「まずはこの魔法石をラウリアに渡しに行こう」と言った。
(……そうだ。まずはこの神殿をタルラーク国に返さないと……)
俺が落ち込んでいたってしょうがない。まずは動けることからしないと。そう思い改め、大輝さんに頷き返した。その時、ペトフ大神官の手から赤い木の実が滑り落ちた。俺が拾うよりも先にペトフ大神官はすぐに拾い上げ、口に放り込もうとしてまた落とした。そこでペトフ大神官の手がかすかに震えていることに気付いた。
”『おぬしと会話できるのにはちょっと限界があるかもしれぬ。この世界に巻き込んでしまって申し訳ぬのう』”
「いえ、そんな……」
神の遣いと言われるペトフ大神官に謝られてしまって俺は何と答えて良いか分からなかった。そう悩んでいるうちにペトフ大神官の口からはこちらの世界の言葉が流れるのに、俺の頭には何も聞こえなくなった。ペトフ大神官はウイアンくんに何か言い、ウイアンくんとスハンと共にこの部屋を出て行った。
『ーーーー.ーーーーー.ーーー?』
『ーー.ーーーーーー』
最後に出て行こうとしたペトフ大神官に大輝さんが駆け寄り何か聞いている。でも、ペトフ大神官は申し訳なさそうな顔をして首を振るだけだった。
翌朝、スハンとミンちゃん、ウイアンくん、ペトフ大神官、それにカルアスくんとチスくんまで来てくれて神殿の扉のところまで見送りに来てくれた。最後までペトフ大神官はケラケラと豪快に笑う人だった。大輝さんがスハンと少し話をしている間、ペトフ大神官が近寄ってきて俺の手を握ってニコニコと微笑んでくれる。頭の中に聞こえた会話はちょっとやんちゃなイメージだけど、こうやって何も言わずに微笑まれると、まるで天使のような微笑みで身も心も癒される気持ちになる。
スハンと話し終えた大輝さんがこちらへとやって来る。スハンとミンちゃんが俺にニコッと笑い、俺も笑い返した。そうして皆に見送られながら俺たちは神殿を後にした。
「大輝さん、どうやってこの魔法石をラウリア王子に届けたらいいでしょうか?」
神殿を出て少ししてから俺は大輝さんに尋ねた。
「王位継承の儀式を行える太陽の日がもう少しである。その儀式はグルファン王国の城からルウファへと向かう途中の場所、祭典の場で行われる。そこへ向かおう」
「はい!」
魔法石を無事に届けられるか心配はある。でも、今の俺には大輝さんがいる。それに今日の心地よい天気と先ほどのペトフ大神官の天使のような微笑みがその不安を振り払ってくれて頑張って届けようと思えた。
「今日はいい天気ですね!あ、大輝さんプルーメルがあります!」
少し先の茂みに久しぶりのプルーメルを見つけて、自然と固い地面を蹴り上げた。久しぶりにプルーメルの蜜を飲みたい。
「優馬、あまり離れすぎるな」
思わず走り出していた俺に大輝さんが笑いながら言った。俺は少し恥ずかしくなって振り返ると、大輝さんに手を差し出した。
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