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最終章 終焉(ナミル・魔界編)
青い満月の日
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ナミルへやって来て、少しの時間が経った。まだ開店したばかりの薬屋は毎日大忙しだ。
そんな今日は青い満月の日。ナミルと他の国が手紙でやり取りできる日だ。スハン宛てにミミズみたいな字だけど、一生懸命書いた手紙を送ることにした。薄い青色の便箋。あまり大きくないその紙に文字をしたためて、青い満月に掲げるとその相手に届く。
最初の1回はナミルの人間から送る必要があり、3ヶ月後の青い満月の日にその相手が返事を書いて掲げたら手紙が届く。俺はスハンに何て書いたらいいか分からなかった。いや、沢山書きたいことがあって、悩んだ。でも、まずは元気?ってこととスハンに教えてもらった本の修理が役に立ったよ。ありがとう。って書いた。
そこに誰かが家にやって来た。友也とトルデンだ。
「こんばんワ」
「スハンに手紙を書いたのか?」
友也が机の上に書いた手紙を見て、尋ねた。俺のミミズみたいな字なんて気にせず「スハン、きっと喜ぶぞ」と言ってくれ嬉しくなる。そんな友也の手には青い便箋が握られていた。
「あぁ、この手紙を見せようと思ってきたんだ」
俺の視線に気付いた友也が答える。スハンからの手紙だろうか?今度は、その疑問を消すようにトルデンさんが
「スハンからの手紙は来たんですけど、書いたのはユング国王陛下でその内容を伝えておこうと思って」
と言った。どうもペトフ大神官がユング国王陛下に書けと言って、スハンの便箋に書かせてもらったようだ。その送られてきた便箋の内容を大輝さんに教えてもらう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
神殿を戻してくれてありがとう。
世界は平和条約のおかげで皆、平穏に暮らせている。
壊れた魔鏡。あれは神殿で保管している。
そちらでうまくやっていけ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
友也とトルデンさんは俺たちがこのことを知りたいんじゃないかと思ってわざわざ伝えに来てくれたらしい。2人が帰った後、部屋は一気に静かになった。
「優馬?どうした?」
大輝さんが優しく俺に尋ねる。俺は良太のことを口に出すべきか悩んだ。でも、大輝さんはそんな俺が悩みを抱えていることを分かっているようで優しく手を添えた。
魔界へと行った良太に思いを馳せた。ナミルに来てから、最初の間はあまり考えないようにしていた。それに薬師として仕事を始めてから忙しくて考える暇もなかった。
それでも誕生日を迎えた時は、どうしても良太のことを心のどこかで思い出さずにはいられなかった。その時、口に出すことはなかったけど、同じ場所、同じ時間に生まれた双子の弟。その良太も同じく年を重ねたのだと。魔界へと行った良太がどうしているのか気になった。以前訪れた魔界は、魔障が凄く立つことさえもままならなかった。そんな場所に良太はずっといて大丈夫なのだろうか?良太と離れて安心して喜ぶべきなのに、心配する真逆の感情がある。良太のことを考えると、色々な気持ちが巻き起こって葛藤が起きる。
「大丈夫だ。思ったことを言ってみろ」
「……良太が……大丈夫かなって……。どうしてるのかなって気になって……。大輝さんのことを傷つけようとしたのに、ご……」
最後、謝りの言葉を言う前に大輝さんが俺の唇に手を添えた。あぁ、そうだ。謝らないって約束したんだった。
「良太のことを、考えたくないって思うのに、忘れた方が楽だって思うのに気になるんです。会いたくないし、会おうとも思わない。どこか遠くで元気でやっていてくれたらって思う反面、どうしても心配してしまうんです。それにあれだけの人を巻き込んだのにこれでいいのかって……」
そして思い返されるのは、ルウファで傭兵に連れ去られ、良太が現れた時だ。あの時、俺は恐怖に怯えることしかできなかった。フィルノーンで良太にきっぱり言うと決めたのに、良太の恐ろしさの方が勝ってしまったのだ。
良太に対する感情。離れて安堵する気持ちと、心配、怒り、そして、恐怖。良太のことを考えると感情がぐちゃぐちゃになる。
「良太のことを思うと心がぐちゃぐちゃで。不甲斐ない自分にも呆れます」
「……優馬、それは決して悪いことじゃないんだ。優馬は自分じゃなくて誰かに酷いことをするあいつに怒ってる。どれだけ自分に酷いことをされても優馬は自分のことになると我慢する。俺はあいつの良い所がひとつも分からない。優馬の兄弟だとも思いたくない。でも、だからと言って、優馬があいつを見捨てられないことを責めれない。それは優馬の優しさだから。優馬はあいつの兄であろうとして、あいつを弟として見ているから。だから、あいつを心配するのも当然なことなんだ」
心配することは悪いことじゃないって言われて心がストンと落ちた。そっか。心の中で良太に対する気持ちが整理出来た気がする。
「まぁ、俺はあいつのことが嫌いだけどな」
大輝さんにしては珍しくきっぱりと言い切った。それが面白くてクスクスと笑う。先ほどから良太のことを「あいつ」と呼んでいるのも嫌いという気持ちがひしひしと伝わってくる。その怒りと嫉妬に満ちた瞳も何故か魅力的で、胸がきゅっとなった。
「俺、もっと強くなります。良太に振り回されないように」
2人で手を繋いで、窓から青い満月を眺めた。
そんな今日は青い満月の日。ナミルと他の国が手紙でやり取りできる日だ。スハン宛てにミミズみたいな字だけど、一生懸命書いた手紙を送ることにした。薄い青色の便箋。あまり大きくないその紙に文字をしたためて、青い満月に掲げるとその相手に届く。
最初の1回はナミルの人間から送る必要があり、3ヶ月後の青い満月の日にその相手が返事を書いて掲げたら手紙が届く。俺はスハンに何て書いたらいいか分からなかった。いや、沢山書きたいことがあって、悩んだ。でも、まずは元気?ってこととスハンに教えてもらった本の修理が役に立ったよ。ありがとう。って書いた。
そこに誰かが家にやって来た。友也とトルデンだ。
「こんばんワ」
「スハンに手紙を書いたのか?」
友也が机の上に書いた手紙を見て、尋ねた。俺のミミズみたいな字なんて気にせず「スハン、きっと喜ぶぞ」と言ってくれ嬉しくなる。そんな友也の手には青い便箋が握られていた。
「あぁ、この手紙を見せようと思ってきたんだ」
俺の視線に気付いた友也が答える。スハンからの手紙だろうか?今度は、その疑問を消すようにトルデンさんが
「スハンからの手紙は来たんですけど、書いたのはユング国王陛下でその内容を伝えておこうと思って」
と言った。どうもペトフ大神官がユング国王陛下に書けと言って、スハンの便箋に書かせてもらったようだ。その送られてきた便箋の内容を大輝さんに教えてもらう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
神殿を戻してくれてありがとう。
世界は平和条約のおかげで皆、平穏に暮らせている。
壊れた魔鏡。あれは神殿で保管している。
そちらでうまくやっていけ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
友也とトルデンさんは俺たちがこのことを知りたいんじゃないかと思ってわざわざ伝えに来てくれたらしい。2人が帰った後、部屋は一気に静かになった。
「優馬?どうした?」
大輝さんが優しく俺に尋ねる。俺は良太のことを口に出すべきか悩んだ。でも、大輝さんはそんな俺が悩みを抱えていることを分かっているようで優しく手を添えた。
魔界へと行った良太に思いを馳せた。ナミルに来てから、最初の間はあまり考えないようにしていた。それに薬師として仕事を始めてから忙しくて考える暇もなかった。
それでも誕生日を迎えた時は、どうしても良太のことを心のどこかで思い出さずにはいられなかった。その時、口に出すことはなかったけど、同じ場所、同じ時間に生まれた双子の弟。その良太も同じく年を重ねたのだと。魔界へと行った良太がどうしているのか気になった。以前訪れた魔界は、魔障が凄く立つことさえもままならなかった。そんな場所に良太はずっといて大丈夫なのだろうか?良太と離れて安心して喜ぶべきなのに、心配する真逆の感情がある。良太のことを考えると、色々な気持ちが巻き起こって葛藤が起きる。
「大丈夫だ。思ったことを言ってみろ」
「……良太が……大丈夫かなって……。どうしてるのかなって気になって……。大輝さんのことを傷つけようとしたのに、ご……」
最後、謝りの言葉を言う前に大輝さんが俺の唇に手を添えた。あぁ、そうだ。謝らないって約束したんだった。
「良太のことを、考えたくないって思うのに、忘れた方が楽だって思うのに気になるんです。会いたくないし、会おうとも思わない。どこか遠くで元気でやっていてくれたらって思う反面、どうしても心配してしまうんです。それにあれだけの人を巻き込んだのにこれでいいのかって……」
そして思い返されるのは、ルウファで傭兵に連れ去られ、良太が現れた時だ。あの時、俺は恐怖に怯えることしかできなかった。フィルノーンで良太にきっぱり言うと決めたのに、良太の恐ろしさの方が勝ってしまったのだ。
良太に対する感情。離れて安堵する気持ちと、心配、怒り、そして、恐怖。良太のことを考えると感情がぐちゃぐちゃになる。
「良太のことを思うと心がぐちゃぐちゃで。不甲斐ない自分にも呆れます」
「……優馬、それは決して悪いことじゃないんだ。優馬は自分じゃなくて誰かに酷いことをするあいつに怒ってる。どれだけ自分に酷いことをされても優馬は自分のことになると我慢する。俺はあいつの良い所がひとつも分からない。優馬の兄弟だとも思いたくない。でも、だからと言って、優馬があいつを見捨てられないことを責めれない。それは優馬の優しさだから。優馬はあいつの兄であろうとして、あいつを弟として見ているから。だから、あいつを心配するのも当然なことなんだ」
心配することは悪いことじゃないって言われて心がストンと落ちた。そっか。心の中で良太に対する気持ちが整理出来た気がする。
「まぁ、俺はあいつのことが嫌いだけどな」
大輝さんにしては珍しくきっぱりと言い切った。それが面白くてクスクスと笑う。先ほどから良太のことを「あいつ」と呼んでいるのも嫌いという気持ちがひしひしと伝わってくる。その怒りと嫉妬に満ちた瞳も何故か魅力的で、胸がきゅっとなった。
「俺、もっと強くなります。良太に振り回されないように」
2人で手を繋いで、窓から青い満月を眺めた。
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