総務部特命係 頓宮はるみが通ります ~ちょっとその件、私に預けてもらえます?~

一条風花

文字の大きさ
8 / 27

出番です 2

しおりを挟む
 秘書課と書かれたプレートの前で止まる。

 行くか。気合を入れて扉をノックをして押し開ける。

 秘書課は社長及び役員の秘書を担当する者が席を置いている。
 現在の在籍人数は八名。

 唯ちゃんは市田常務の秘書だ。

「失礼します。本橋さんはいらっしゃいますか?」

 一斉に複数の視線が私に集中する。
 
 快、感……。なんちゃって。

「あの……私ですが」

 戸惑いの表情を隠せない唯ちゃんが立ち上がる。

 瞼の腫れは少しだけ引いている。朝よりはましだけれど、それでも違和感はあった。

「お話があります。お時間よろしいですか?」
「えっ!?」

 事情が飲み込めないのは当然だ。
 それでも私はまくし立てる。

「私、あまり時間がないのですがっ」
「えっ、はいっ!?」

 長い髪をふわっと宙に舞わせながら、私は彼女に背を向け歩き出す。

「ま、待って」

 後ろで慌てる唯ちゃんの声がする。

 ここで下手に考える時間を与えてしまうと、秘書課みんなの前であれこれ質問されて面倒なことになる。
 一刻も早く秘書課を離れなければならない。

 追いすがる唯ちゃんには悪いけれど、彼女を無視して私はエレベーターホールへと急ぎ、『上』のボタンを押した。

 そして彼女を伴い、四十八階でエレベーターを降りたのだった。


「待ってくださいっ。ここは役員専用ラウンジです。私たちは入れません」
 
 唯ちゃんが慌てる。

 役員専用ラウンジ。
 社内なのでお姉さんの提供はないけれど、最重要機密会議などはここの個室で行われることが多い。また社外の大切なお客様との会議にも使われる。高級な喫茶室的役割であり、お酒を提供することも可能だ。

 入口ゲートで私は胸に下げたカードキーを読み取り機械にかざす。

 赤から緑のランプに変わると、カチッとロックが外れる音がした。

「あ、あの?」
「ついて来て」
 
 社長室同様、ここも景色は最高だ。遠くは横浜のランドマークタワーが見える。天気が良ければ富士山の姿を拝むことも出来る。
 
 私は一歩進む。ふかふかの絨毯にヒールの先が食い込む。

 「山田様、いらっしゃいませ」

 クロークの男性が私を迎えてくれると、すぐに「こちらへ」と歩きだす。
 
 パーティーが出来る広いラウンジを抜け、奥に進むと個室ゾーンになる。
 そのうちのひと部屋の前で男性は足を止めると、カードキーで扉を開ける。

「どうぞ」

 導かれるように、私たちは室内へと入る。

 唯ちゃんは、ただただ驚きを隠せないでいた。辺りにキョロキョロと視線を走らせ、案内してくれた男性にぎこちなくペコペコとおじきをしている。

 秘書課の誰一人としてここの個室へ入った者はいない。いいえ、秘書課どころか総務部、人事部、その他どの部署の人間も入室を許可されてはいない。

 私と私が許可した人間以外は。

 戸惑いと興味、そんな感情が入り混じった顔をしながら唯ちゃんはゆっくりと室内へ足を踏み入れる。

 この部屋は接待をするわけでは無いので、他の部屋に比べて内装は質素だ。広さは四畳半ほど。
 室内に窓はなく、黒い壁に赤いバラの絵が掛かり、ゴシック調の応接セットが部屋の中心に置かれている。

 テーブルの上に置かれたロウソクに男性が火を灯す。

 占い師が暗い部屋で占いをするように、この部屋の明かりも薄暗くしてある。
 ここでおどろおどろしい儀式をするわけでは無い。内装は私の趣味ではあるけれど、れっきとした心理学「暗闇効果」に基づいている。
 
 人間は嫌なことがあった時、暗い部屋に居ると心が休まりリラックスできると言われている。

 暗闇の中にいると、不安から誰かに側にいて欲しいと思う。するとその相手に秘匿感や一体感を抱き、秘密を打ち明けやすくなる。
 そして、闇は自分の容姿を隠してくれる安心感から、他人との距離が近くなるとも言われている。

 銀座の高級クラブやホストクラブが薄暗いのも、この暗闇効果を狙ったものだろう。
 
 確かにギンギンに明るかったら、心の秘密など話したい気分ではなくなりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...