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出番です 2
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秘書課と書かれたプレートの前で止まる。
行くか。気合を入れて扉をノックをして押し開ける。
秘書課は社長及び役員の秘書を担当する者が席を置いている。
現在の在籍人数は八名。
唯ちゃんは市田常務の秘書だ。
「失礼します。本橋さんはいらっしゃいますか?」
一斉に複数の視線が私に集中する。
快、感……。なんちゃって。
「あの……私ですが」
戸惑いの表情を隠せない唯ちゃんが立ち上がる。
瞼の腫れは少しだけ引いている。朝よりはましだけれど、それでも違和感はあった。
「お話があります。お時間よろしいですか?」
「えっ!?」
事情が飲み込めないのは当然だ。
それでも私はまくし立てる。
「私、あまり時間がないのですがっ」
「えっ、はいっ!?」
長い髪をふわっと宙に舞わせながら、私は彼女に背を向け歩き出す。
「ま、待って」
後ろで慌てる唯ちゃんの声がする。
ここで下手に考える時間を与えてしまうと、秘書課みんなの前であれこれ質問されて面倒なことになる。
一刻も早く秘書課を離れなければならない。
追いすがる唯ちゃんには悪いけれど、彼女を無視して私はエレベーターホールへと急ぎ、『上』のボタンを押した。
そして彼女を伴い、四十八階でエレベーターを降りたのだった。
「待ってくださいっ。ここは役員専用ラウンジです。私たちは入れません」
唯ちゃんが慌てる。
役員専用ラウンジ。
社内なのでお姉さんの提供はないけれど、最重要機密会議などはここの個室で行われることが多い。また社外の大切なお客様との会議にも使われる。高級な喫茶室的役割であり、お酒を提供することも可能だ。
入口ゲートで私は胸に下げたカードキーを読み取り機械にかざす。
赤から緑のランプに変わると、カチッとロックが外れる音がした。
「あ、あの?」
「ついて来て」
社長室同様、ここも景色は最高だ。遠くは横浜のランドマークタワーが見える。天気が良ければ富士山の姿を拝むことも出来る。
私は一歩進む。ふかふかの絨毯にヒールの先が食い込む。
「山田様、いらっしゃいませ」
クロークの男性が私を迎えてくれると、すぐに「こちらへ」と歩きだす。
パーティーが出来る広いラウンジを抜け、奥に進むと個室ゾーンになる。
そのうちのひと部屋の前で男性は足を止めると、カードキーで扉を開ける。
「どうぞ」
導かれるように、私たちは室内へと入る。
唯ちゃんは、ただただ驚きを隠せないでいた。辺りにキョロキョロと視線を走らせ、案内してくれた男性にぎこちなくペコペコとおじきをしている。
秘書課の誰一人としてここの個室へ入った者はいない。いいえ、秘書課どころか総務部、人事部、その他どの部署の人間も入室を許可されてはいない。
私と私が許可した人間以外は。
戸惑いと興味、そんな感情が入り混じった顔をしながら唯ちゃんはゆっくりと室内へ足を踏み入れる。
この部屋は接待をするわけでは無いので、他の部屋に比べて内装は質素だ。広さは四畳半ほど。
室内に窓はなく、黒い壁に赤いバラの絵が掛かり、ゴシック調の応接セットが部屋の中心に置かれている。
テーブルの上に置かれたロウソクに男性が火を灯す。
占い師が暗い部屋で占いをするように、この部屋の明かりも薄暗くしてある。
ここでおどろおどろしい儀式をするわけでは無い。内装は私の趣味ではあるけれど、れっきとした心理学「暗闇効果」に基づいている。
人間は嫌なことがあった時、暗い部屋に居ると心が休まりリラックスできると言われている。
暗闇の中にいると、不安から誰かに側にいて欲しいと思う。するとその相手に秘匿感や一体感を抱き、秘密を打ち明けやすくなる。
そして、闇は自分の容姿を隠してくれる安心感から、他人との距離が近くなるとも言われている。
銀座の高級クラブやホストクラブが薄暗いのも、この暗闇効果を狙ったものだろう。
確かにギンギンに明るかったら、心の秘密など話したい気分ではなくなりそうだ。
行くか。気合を入れて扉をノックをして押し開ける。
秘書課は社長及び役員の秘書を担当する者が席を置いている。
現在の在籍人数は八名。
唯ちゃんは市田常務の秘書だ。
「失礼します。本橋さんはいらっしゃいますか?」
一斉に複数の視線が私に集中する。
快、感……。なんちゃって。
「あの……私ですが」
戸惑いの表情を隠せない唯ちゃんが立ち上がる。
瞼の腫れは少しだけ引いている。朝よりはましだけれど、それでも違和感はあった。
「お話があります。お時間よろしいですか?」
「えっ!?」
事情が飲み込めないのは当然だ。
それでも私はまくし立てる。
「私、あまり時間がないのですがっ」
「えっ、はいっ!?」
長い髪をふわっと宙に舞わせながら、私は彼女に背を向け歩き出す。
「ま、待って」
後ろで慌てる唯ちゃんの声がする。
ここで下手に考える時間を与えてしまうと、秘書課みんなの前であれこれ質問されて面倒なことになる。
一刻も早く秘書課を離れなければならない。
追いすがる唯ちゃんには悪いけれど、彼女を無視して私はエレベーターホールへと急ぎ、『上』のボタンを押した。
そして彼女を伴い、四十八階でエレベーターを降りたのだった。
「待ってくださいっ。ここは役員専用ラウンジです。私たちは入れません」
唯ちゃんが慌てる。
役員専用ラウンジ。
社内なのでお姉さんの提供はないけれど、最重要機密会議などはここの個室で行われることが多い。また社外の大切なお客様との会議にも使われる。高級な喫茶室的役割であり、お酒を提供することも可能だ。
入口ゲートで私は胸に下げたカードキーを読み取り機械にかざす。
赤から緑のランプに変わると、カチッとロックが外れる音がした。
「あ、あの?」
「ついて来て」
社長室同様、ここも景色は最高だ。遠くは横浜のランドマークタワーが見える。天気が良ければ富士山の姿を拝むことも出来る。
私は一歩進む。ふかふかの絨毯にヒールの先が食い込む。
「山田様、いらっしゃいませ」
クロークの男性が私を迎えてくれると、すぐに「こちらへ」と歩きだす。
パーティーが出来る広いラウンジを抜け、奥に進むと個室ゾーンになる。
そのうちのひと部屋の前で男性は足を止めると、カードキーで扉を開ける。
「どうぞ」
導かれるように、私たちは室内へと入る。
唯ちゃんは、ただただ驚きを隠せないでいた。辺りにキョロキョロと視線を走らせ、案内してくれた男性にぎこちなくペコペコとおじきをしている。
秘書課の誰一人としてここの個室へ入った者はいない。いいえ、秘書課どころか総務部、人事部、その他どの部署の人間も入室を許可されてはいない。
私と私が許可した人間以外は。
戸惑いと興味、そんな感情が入り混じった顔をしながら唯ちゃんはゆっくりと室内へ足を踏み入れる。
この部屋は接待をするわけでは無いので、他の部屋に比べて内装は質素だ。広さは四畳半ほど。
室内に窓はなく、黒い壁に赤いバラの絵が掛かり、ゴシック調の応接セットが部屋の中心に置かれている。
テーブルの上に置かれたロウソクに男性が火を灯す。
占い師が暗い部屋で占いをするように、この部屋の明かりも薄暗くしてある。
ここでおどろおどろしい儀式をするわけでは無い。内装は私の趣味ではあるけれど、れっきとした心理学「暗闇効果」に基づいている。
人間は嫌なことがあった時、暗い部屋に居ると心が休まりリラックスできると言われている。
暗闇の中にいると、不安から誰かに側にいて欲しいと思う。するとその相手に秘匿感や一体感を抱き、秘密を打ち明けやすくなる。
そして、闇は自分の容姿を隠してくれる安心感から、他人との距離が近くなるとも言われている。
銀座の高級クラブやホストクラブが薄暗いのも、この暗闇効果を狙ったものだろう。
確かにギンギンに明るかったら、心の秘密など話したい気分ではなくなりそうだ。
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