総務部特命係 頓宮はるみが通ります ~ちょっとその件、私に預けてもらえます?~

一条風花

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出番です 3

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 口数少なく案内をしてくれた男性は、「ごゆっくり」そう言い残して部屋を出て行った。

「座って」
「は、はい」

 私に勧められるまま彼女はソファーにゆっくり腰を下ろす。


「あなたに聞きたいことがあるの」
「私に……ですか?」

 警戒するような声だ。
 
「あなたが主役のSNSの件なんだけど」

 唯ちゃんの体が一瞬でギュッと硬くなるのが見てとれた。

「あの、あなたは誰ですか?あなたは私を知っているようですけど」
 
 突然現れた人間を警戒するのは動物としての本能。
 声のトーンを少し上げ、唯ちゃんの不安を和らげるように笑顔を作る。

「私は総務部特命係 社内調査員 山田みはる」

 首から下げた社員証を見せる。

「特命係?」

 唯ちゃんが首をかしげるのは当然のことだった。
 特命係は会社の組織表には載っていないし、連絡先もない。なにせ所属は私ひとりなのだから。

「そうね。社内において社員の生活を守る仕事。とでも言っておきましょうか」
「はぁ?」

 分かったんだか分からなかったんだか、曖昧な返事を返される。

 まぁ、あまり表立って仕事をしていないし、表に立てないのでその方がいいけれど。あくまで裏の仕事なのだから。

「それでSNSの話なんだけど」

 自慢の細く長い足を組みかえて、唯ちゃんを見据える。

 彼女はガックリと肩を落とした。

「山田さんもご存知なんですね」

 目にはまたもや、涙をため始めている。

 傷ついた乙女心は、犯人を見つけ出し訂正させたくらいでは癒されそうにない。

「あなたを傷つけるデマを誰かが流したわけだけど、これは充分に犯罪よ。それ相応の処分をしなければならない。それに私には頭にくることがあるの」
「山田さんが、頭にくること?」
「そう。デマを流した人間は柳の下のドジョウまで狙ってる」
「柳の下のドジョウ?」

 私はデマの犯人を山下草子やましたそうことだと目星をつけている。

「まだ推測段階なのだけど、あなたをおとしめたうえに、大切な人まで奪おうとしている」
「私の大切な人……清水さんですか?」

 これぞ暗闇効果。
 あっさり清水君の名前を出した。

 まぁ、私は最初から知っているんだけどね。

 無言でうなずくと、私はさっき地下駐車場で耳にした女子社員の名前を出した。

「山下さんて知ってる?」
「山下さん。あの広報部のですか?」

 実は山下さんの情報は既に調べていた。

 満天堂に山下姓の人間は三人。
 今回の疑惑女子と、残りは二人とも男性。
 つまり、ターゲットはひとり。

 山下草子そうこ
 唯ちゃんと同期入社。桜花女子大学出身。学生時代はイベントサークルに所属。
 一浪しているため、ゆいちゃんより年齢は一歳年上。
 満天堂入社後、広報部所属。

 気が強そうで服装も派手。クラブ大好き。
 いわゆるパリピってやつ。

 でも嫌いじゃないんだな、この手のタイプ。なにせ私もどちらかと言えば派手なほうだし、クラブも嫌いじゃない。
 加えて草子なんて昭和丸出しのネーミング。同族感半端ない。
  
 性格が良ければ友達になるんだけど、私の見た感じでは良くはない。だって、清水君にド直球投げる子だもの。

「まさか山田さんは、今回のデマは山下さんが流したと、おっしゃるんですか?」
「まだ調査段階なんだけど、可能性はあるの」

 驚いたように唯ちゃんは身を乗り出してきた。
 自分の同期が?信じられない。そんな顔をしている。

「私、山下さんとはあまり話しをしたことないし、そんなことされる理由が分かりません」

 おどおどした様子の彼女に私は爆弾を投下する。

「山下さん、どうも清水君が好きらしいの」
「えええっ、そ、そうなんですかっ!?」
「清水君のことは、私も良く知っているわ。長身のイケメンだし、仕事も出来るスポーツマン」
「はい、その通りです。だから私、彼に選んでもらえて凄く嬉しかった。やっかみから悪口を言われることもあったけど、そんなの全然気にならなかった。彼と一緒にいられるだけで幸せだから」

 ここで社内の人気者に選ばれた優越感を出してくる子は多い。けれど、唯ちゃんはそんなことは無かった。
 
 やっぱりいい子なのだわ、唯ちゃん。

「山下さんは清水さんを好き。清水さんとつき合っている私が邪魔……」

 ゆいちゃんは頭の中で事態を整理しているようだ。

「私たちを別れさせたい。SNSのせいで清水さんは私と別れたがってる……」

 再び、唯ちゃんの目には溢れんばかりの涙が。

「……山田さん」
「ん何?」
「彼、初めての人なんです」

 は?
 初めての人……。つまりその、男女間のそういうこと……だよね。

 突然の告白に驚いてしまった。
 これも暗闇効果のなせる技なのだろうか。だとしたらちょっと効きすぎてるかも。

「う、うん」
「だから、別れたくないんです。私、大学時代結構モテたんです」

 でしょうね。

「でも、大事にとっておいたんです。結婚する人にしか捧げないって」
「そうなんだ」

 案外古風な考え方をするのか、この子。

「好きなんです、清水さんのこと。愛してるんですっ」

 初めての男は忘れられないって言うしね。

「嫌っ、山下さんなんかに取られたくないっ。絶対無理だからっ」

 頭をクシャクシャと掻き出し、「いやーっ」と叫んだかと思えば、突然立ち上がりそしてまた座る。

「だって清水さんは結婚しようって言ってくれたから!だから私っ」

 気持ちはよくわかる。
 けれど、興奮気味のゆいちゃんを落ち着かせなければならない。

「本橋さんっ」
 
 隣に座り、腕を掴む。
 興奮した彼女は声を上げて泣くばかり。
 
 私はスマホでお茶を注文した。そしてそれは程なくして運ばれて来た。

「ローズティーよ。気分が落ち着くわ」
「・・・すみません。取り乱しちゃって」
「平気よ。大切な人が奪われそうなのに、冷静でいられるほうがおかしいもの」

 コクンと頷きながら、彼女はゆっくりとお茶を飲む。

「あなたと清水さんの交際は、オープンにしていたの?」
「いいえ。信頼できる同期二人と社食のはるみさんにしか話していません」

 やっぱり私以外にも話していた。
 けれどそこに山下さんの名前は無かった。

 あれ?

「信頼できる同期って?」
「営業部 営業二課の池入いけいりひなのと、海外販売部 国際貿易課の飯島泉いいじまいずみです」

 
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