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1巻
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しおりを挟むプロローグ
「ああぁっ!」
アウレリアはユーリウスの腰使いに思わず甘い悲鳴を上げた。浅く突き入れられたかと思うと、次の瞬間奥まで深く穿たれる。意識が一瞬、紗がかかったように朦朧としてくる。
「ふあ、……はぁ」
「すごく気持ちいい」
アウレリアはいつになくうわずったユーリウスの声に、いっそう内部を強く締め付けた。ユーリウスの欲望の形がはっきりと感じられる。
「あ……ん……、ユーリウスぅ」
アウレリアがねだるように声を上げると、ユーリウスはそれに応えて腰の律動を速めた。強く快感を感じる場所を攻め立てられ、意識が一気に白く塗りつぶされる。
「あ、ああっ!」
アウレリアの絶頂に合わせて、ユーリウスも欲望を解放した。
「……っく」
漏れた声に、彼も同じくらいの快感を得たことを知り、アウレリアは幸福を感じる。荒い呼吸が次第に整い、落ち着いてくると、アウレリアはユーリウスが眠っていることに気づいた。ユーリウスの肌は汗でしっとりと濡れ、高かった熱も少し下がってきた様子だ。
ユーリウスの身体の下からそっと抜け出すと、アウレリアは情事の痕跡を消し始めた。ふたりの身体を拭いて清め、深い眠りについているユーリウスをじっと見つめる。
長い間ユーリウスの姿を眺めていたが、アウレリアが下した結論は変わらなかった。
これ以上、この人の側にいることはできない。
高い熱で意識が混濁していたユーリウスは、今夜のことを覚えていないだろう。
アウレリアはそっとユーリウスの唇に己の唇を重ねた。
もう、二度とあなたをわずらわせるようなことはしない。ただ、思い出が欲しかった。これから生きていくための。
獣のように交わり合い、幾度となく絶頂に達したことを思い返す。
アウレリアにとっては初めての体験で痛みはあったが、身体は充足感に満ちていた。
もう、二度とない。これが最初で最後。
きっと彼は今夜の交わりを夢だと思うだろう。それも、すぐに忘れてしまう儚い夢。
アウレリアは涙を流しながら、幻術をかけ、己の身体を偽りの姿へ変える。
ユーリウスの従騎士に戻るために、自分の心を全て凍らせる。
「もう、二度と恋はしない。あなた以外はいらない。もっと違う形で出会えていたら……。ユーリウス……」
アウレリアはあふれそうになる涙をこらえて、最愛の人の名前を呼んだ。本来ならばこの姿でその名前を呼ぶことは許されていない。
「起きて下さい。団長、朝ですよ」
そうして、アウレリアのつかの間の夢は幻のごとく消え去った。
一 弟からの相談
弟のカールから大事な相談があると手紙をもらったのは、王都にようやく春らしい暖かな風が吹き始めた頃だった。カールは第二騎士団の副団長の従騎士として働いている。アウレリアは、弟からの相談にまたか、と思いつつも普段暮らしている魔術師団の宿舎から、同じ王都内にある自宅へ帰ってきていた。
居間へ入ると待ち構えていたように、弟がアウレリアに飛びついた。その衝撃に、彼女の長くゆるやかに波打つ黒髪がふわりと宙に舞った。
「姉さん、一生のお願い」
カールはアウレリアとよく似た大きな蒼色の瞳を、潤ませて言った。
「そのセリフを聞いたのは何度目かしら」
「ねえ、本当に一生のお願いなんだ」
自分と同じ黒髪の弟を眺めながら、アウレリアは内心ため息をつく。手紙を見たときから厄介事を持ちかけられるのはわかっていた。
「とりあえず、言ってみて」
カールはもじもじと言いにくそうに切り出した。
「あのね、俺、副団長の鎧を壊してしまったんだ。それも魔石の部分を」
「なんですって!」
アウレリアは頭を抱えた。
鎧に取り付ける魔石は、防御力を高めたり、自分の周囲に防御陣を張ったりするために必要な石だ。
魔石を作れるのは魔術師だけで、作った魔術師の実力によってその石の効果は相当左右されてしまう。騎士団の副団長の鎧の魔石ともなると、かなりの力を秘めているはずだ。
「それで?」
「姉さんお願い。内緒で魔石を直して」
カールはアウレリアにすがりついた。
「まず鎧を見なきゃ何とも言えないけど……鎧を持ち出すのは無理なんでしょう?」
「そんなの、持ち出したらばれるよ。なんとか内緒で直したい」
(そんな大層な魔石を内緒で直すなんて、無理に決まってるでしょー!)
「だったら無理」
アウレリアはすげなく答えた。カールは泣きそうな顔をしている。
(男が十七歳にもなって泣くな……)
「魔石だけでも持ち出せない?」
「取り外そうとしたけど、弾かれた」
カールとアウレリアが生まれたフォルトナー家は、代々優秀な魔術師を輩出している名家だ。アウレリアもその秀でた魔力で魔術師団の副団長を務めるほどだが、この弟は魔力の量は十分なのになぜか使いこなすことができず、魔術師にはなれなかった。その代わり、魔力が肉体を強化する方向に向かっているようで、常人よりも反応速度や筋力が成長しやすい。それを活かすべく、騎士になろうと騎士団に入団したのだった。
「どうしろっていうの?」
「姉さんが鎧の場所まで行けばいいんじゃない?」
「ばかじゃないの?」
この弟はどこまで抜けているのか。騎士団の詰所など女人禁制で入れるわけがない。
第一騎士団のように王族近くに控えることもある騎士団には女性騎士もいるが、それ以外の騎士団はすべて男性で構成されている。さらに騎士団では風紀の乱れを嫌って、女性の立ち入りを禁止している。アウレリアが騎士団の詰所に入るなど無理なのだ。
「だから、男になって第二騎士団へ来れば鎧を見られるでしょう?」
カールは名案を思い付いたとばかりに、得意そうな笑みを浮かべている。
「まさか、わたしに男になれと……?」
「うん」
カールは無邪気に頷いた。
(ばか! いくら幻術で性別ぐらいごまかせるとはいえ……)
「どうせ、ばれないような体型だと言いたいんでしょ」
「まあ……」
カールはいささかばつが悪そうだ。
自分の貧相な胸と腰に劣等感を持っていたアウレリアは、半ばやけになって尋ねる。
「それで? 男になって騎士の真似事をすればいいわけ?」
「それが一番簡単かなって。俺の従兄弟ってことで騎士団に入れば、従騎士になれるからさ。鎧の手入れは従騎士の仕事だし、一番しっくりくるでしょう?」
「わたしにはそんな体力ないし、すぐにばれるわよ」
「そこは姉さんお得意の魔術でなんとかして?」
(そこ、上目遣いしない!)
「身体強化を掛けるにも限界があるの。第一、騎士団に入ったら簡単に辞められないでしょう?」
「一か月ほどあれば、なんとかなるんじゃない? やっぱり無理だったって言えば、従騎士のうちは割と簡単に辞められるよ」
「その一か月をどうやってひねり出せっていうのよ。これでも多忙な魔術師団の副団長なんですからね!」
「それは見合いとか、花嫁修業とか言って休暇をもらえばいいんじゃないかな?」
「もうっ! 容赦なく人の痛いところを突くわね」
つい先日アウレリアに見合い話があったのだが、絵姿を送ったとたんに先方が逃げ腰になったのだ。どうやら彼女の体型がお気に召さなかったようだ。同年代の女性と比べても細身で起伏に乏しい身体つきのうえに童顔で、本当に二十五歳かと問い合わせられたほどだ。
優秀な魔術師を数多く輩出しているフォルトナー家の長女ということで、見合い話は山ほどあるものの、なぜか破談になることが多く、アウレリアも内心、気にしていた。
「確かに、今は差し迫った紛争もないし、入団してから五年ほどまとまった休暇は取っていないから、取れるとは思うけど……」
「でしょ? だからなんとかお願いします!」
カールが必死に取りすがる。
「だからって、わたしがそこまでしなきゃならない理由が見つからないわ」
「本当にやばいんだって。この失敗が見つかったら今度こそ騎士団を首になっちゃうよ~」
カールは瞳に涙をためている。
確かにカールはこれまで何度か失態をおかしていた。それほど大きな失敗ではなかったこと、そして従騎士としての有能さと、持ち前の明るい性格で周囲から愛されていたことも大きく影響して、大事にはなっていなかった。とはいえ、さすがに魔石を破壊してしまったとなると見逃してはもらえないだろう。
言い出したら聞かない弟の性格に、アウレリアは諦めのため息をつく。結局なんだかんだ言いつつ年の離れた弟が可愛いのだ。
「わかったわよ。直せばいいんでしょ? 直せば」
「さすが姉さん。きっと助けてくれると思った」
本当に変わり身が早い。さっきまで泣いていたと思ったら、もう笑っている。
「本当にこれきりよ」
「わかってるって」
(なんて軽い返事。絶対にこいつ、わかってない)
「じゃあ、明後日から第二騎士団の詰所に来てね。準備しとくから。姉さんは休暇の申請よろしくね」
カールはそう言うと、手をひらひらと振りながら父母の待つダイニングへ姿を消した。
「もうっ、待ちなさい。話は終わってないわよ」
アウレリアは急いでカールのあとを追った。
二 潜入
翌日、上司であるラインハルト・オイゲン魔術師団長に相談したところ、あっさりと休暇申請の書類にサインをくれた。
ラインハルトはアウレリアが入団したときから団長を務める古株の魔術師だ。豊かに波打つ栗色の髪を、魔術師らしくそのまま後ろに垂らしている。深い緑色の瞳は理知的な光を湛えており、魔術師の長に相応しい威厳を醸し出していた。
「消化すべき休暇も溜まっているし、ちょうどいいんじゃないか? しっかり花嫁修業を頑張れよ」
と応援までしてくれる始末だ。
(なんだかあっけない。でもこれで少しは潜入準備ができそう)
アウレリアは慌てて家に帰り、準備を始めた。しかしカールのお古の服を引っ張り出しているうちに、時間はあっという間に過ぎてしまう。結局、ほとんど準備ができないまま、アウレリアは第二騎士団に入団することになったのだった。
(一体ここはどこなの?)
アウレリアは完全に迷っていた。弟であるカールのために第二騎士団に潜入したはいいけれど、初めて足を踏み入れる騎士団詰所の造りなどわかるわけがない。
アウレリアは魔術と幻術を併用して、骨格と身体つきを男性らしく変化させていた。背の高さまでは変えられなかったが、十分少年として通用するはずだ。
(面会室はいったいどこ?)
アウレリアは苛立ちをおさえきれず、前髪をかきむしった。カールが待ち合わせ場所に指定した第二騎士団詰所の面会室を探して、さまよい歩いているが、さっぱり見つからない。
実は彼女は重度の方向音痴なのだ。慣れた場所ならなんとかなるが、全く知らない場所だとそれが顕著に表れる。
アウレリアがここだと思った扉を開けると、中では金髪の青年が着替えをしている最中だった。
慌てて扉を閉めようとしたが、素早く扉に詰め寄った青年の手によってその動作は阻まれる。
「な、なんでしょうか?」
(何? もう女だってばれたの?)
魔術で変化させている低めの声で、ひやひやしながらもなんとか答える。
「見ない顔だな」
低く鋭い声がアウレリアの鼓膜を震わせた。
青年は長くまっすぐな金髪を首の後ろで編み、一つにまとめている。その髪はまるで太陽のように艶々と輝いていた。
青年の整った冷たい容貌に、アウレリアは一瞬見とれてしまった。
彼は上半身裸のまま戸口に寄り掛かり、顔を近づけて彼女の瞳を覗きこむ。アウレリアの目前に青年の美しく澄んだ水色の瞳が迫り、彼女の深い蒼色の瞳と交差する。青年の瞳には険しい色が含まれていた。
(ち、近いよー。なんでこんなに近くで見つめてくるの?)
「あ、あの、今日から従騎士として入団予定のアーベル・フォルトナーです」
事前に弟と打ち合わせていた内容を告げる。
いきなりの危機に、先ほどから心臓の鼓動がバクバクとうるさい。
「そういえば、今日から新人がひとり入るって話だったな……。なんでこんなところにいる?」
「あ、あの迷ってしまいまして……、できれば面会室の場所を教えてほしいのですが……」
おずおずと切り出すと、呆れたような声が返ってきた。
「お前、面会室は入ってすぐのところにあっただろう? ここは団長室だぞ。どうやったら間違えるんだ」
「団長室……ってことはあなたが団長ですか?」
(団長ですって!? 切れ者と評判の、第二騎士団団長ユーリウス・リーゼンフェルト様なの?)
弟から聞かされていた要注意人物のトップにあった名前だ。
「ああ、団長のユーリウス・リーゼンフェルトだ。面会室ならそこの角を右に曲がってまっすぐ行ったところ。詰所入り口のすぐ右だ」
ユーリウスはそれだけ言うと、バタンと扉を閉めてしまった。取り残されたアウレリアは言われた通りに歩いて行く。
(はーびっくりした。しかも、なんで裸なのよっ)
上半身裸の男性を間近に見てしまったことで、心臓の鼓動が早まっていた。
魔術師は男性でも身体をさらすことなどないし、年の離れた弟とはほとんど一緒に過ごす機会がなかったため、アウレリアには男性に対する免疫がほとんどなかった。
ほどなく入り口が見えてきた。ちょうど面会室からカールが飛び出してくる。
「ああ、よかった。探していたんだよ」
カールが心配そうにアウレリアを抱きしめた。
「ごめん。迷っちゃって……」
「わかりやすいように面会室にしたのに……なんで迷うかな」
カールの呆れた声にアウレリアはうつむいてしまう。
そんなことを言われても、迷ってしまったものは仕方がない。
「見つかったのか?」
柔らかな声が頭上から響いてくる。思わずアウレリアが顔を上げると、面会室から赤毛の青年が顔を覗かせていた。
「はい、副団長」
カールがきびきびと答える。
「面談があるから、こっちへ」
アウレリアはカールに促されるまま、面会室へ足を踏み入れる。ソファには先ほどの声の主が座っていた。
「今日から従騎士として入団予定のアーベル・フォルトナーです」
アウレリアが挨拶をすると、副団長はふたりに座るように促す。副団長の向かいのソファに腰かけ、顔を上げると鋭い眼光がアウレリアを観察していた。
柔らかな笑みを湛えた顔とは裏腹に、若葉のごとき緑色の瞳には、アウレリアを値踏みするような鋭い光が宿っている。
(この人なんだか怖い。切れ者って感じね)
「ふーん。君がね……。わたしは副団長を務めているディートハルト・フリーデルだ。カールから従兄弟と聞いているが、確かによく似ているね」
「あ、はい。よく言われます」
それはそうだ。本当は姉弟なのだから。
「家柄に問題はないか……、本来なら相性がいいかも見るんだけど。今、従騎士を持っていないのが、この騎士団では団長だけなんだ」
「え?」
(なんですと!)
アウレリアは驚きに固まった。慌てて隣のカールを睨むと、目を逸らしている。
(こいつ! 知ってたな。あとで絞めてやる)
「団長……というと、ユーリウス・リーゼンフェルト様でしょうか?」
「ああ、知ってる?」
ディートハルトは片方の眉を上げながら、笑みを作った。
「まあ、有名ですから……」
実際、ユーリウスのことはアウレリアの上司、ラインハルトからよく話を聞かされていた。曰く、無愛想で無口だが、実力は折り紙つき。第一騎士団の団長を務めてもおかしくないほどの腕の持ち主だが、その性格が災いして第二騎士団にとどめ置かれている……とか。
「ですが、ぼ、僕に務まるでしょうか?」
慣れない「僕」という言葉につっかえながら、アウレリアは不安にかられてディートハルトに尋ねる。
「そうだね。あいつも、昨日話したときはあまり乗り気じゃなかったんだよね。……まあ案外会ってみたら、いいって言うかもしれないし、会いに行こうか」
「はい。……ですが、団長なら先ほどお見かけしました。僕が迷ってしまって、団長室を開けてしまって……」
「ちょ、ね、あ、アーベル! 団長に会ったの?」
隣でカールが騒ぎ出す。
(こいつ、いま姉さんって呼びかけようとしたな……。あとで本当にお仕置き決定!)
「うん。親切に道を教えてくれた」
「あいつが親切とは、めずらしいな。……まあそういうことなら、決めてしまっても大丈夫だろう」
ディートハルトは顎先に手をあて、考え込んでいたが、大きく頷いた。
「じゃあ、とりあえず君は団長付きの従騎士ということで入隊を許可します。わからないことはカールに聞きなさい。カール、頼んだ」
「はい、副団長」
こうしてアーベルことアウレリアの第二騎士団入隊はあっさりと許可された。
その後カールに案内してもらいながら宿舎に向かう。部屋もカールと相部屋になったため、性別がばれる心配は減った。部屋には浴室とトイレも備え付けられている。
アウレリアは自分の寝台に荷物を置くと、カールに詰め寄った。
「なんで団長付きになること、黙ってたの?」
「姉さん、ちゃんと男らしく話してよ」
カールはたじたじになりながらも、なんとか話をそらそうとする。
「じゃあ、カールも名前で呼ぶのに慣れて」
「わ、わかってるよ。アーベル」
「どうだか?」
「ここでは俺が先輩なんだからね」
「わかってます。先輩。それで?」
未だ怒りの収まらないアウレリアは、むくれながら先を促す。
「だって、団長付きになるって言ったら、絶対断ってたでしょう?」
「当たり前!」
「でしょ? だから言えなかったんだよ~。ごめんね」
「もう……。入団しちゃったんだから、今更いいよ」
「じゃあ、とりあえず団長に挨拶にいこうか」
「そうだね」
ようやく姉の怒りが収まったことに、カールはほっとしたように同意する。
アウレリアはカールのあとに続いて詰所へ戻る。カールは先ほどアウレリアが通った道を辿り、団長室に案内した。
「団長、失礼します」
カールが扉をノックすると、入室を許可する声が聞こえてくる。
「入れ」
「失礼します」
カールが扉を開けて団長室に入る。アウレリアも慌ててあとに続いた。
「今日から従騎士として入団することになったアーベル・フォルトナーを連れて参りました」
「先ほどはすみませんでした。改めまして、アーベル・フォルトナーです。これからご指導のほどよろしくお願いします」
アウレリアが元気よくお辞儀をすると、ユーリウスが口を開いた。
「お前に従騎士が務まるかわからんが、足手まといにならないようにしろ」
「は、はい」
「仕事の内容はカールに聞け」
ユーリウスの口調はそっけない。
「はい」
わたしってあんまり歓迎されていない?
ふたりは顔を見合わせると、団長室を退室した。
「とりあえず、中を案内しようか。あと仕事も教えるよ」
「うん。やっぱり、第二騎士団の団長が無愛想って噂は本当だったんだ」
カールとアウレリアは歩きながら話し始めた。
「まあ、そうだね。つい最近まで団長にも従騎士がいたんだけど、叙任をうけて第一騎士団へ異動したんだ。だから今はちょうどいないんだよ」
「ふうん」
アウレリアは自分の見慣れない、編み込まれた髪をもてあそびながら頷いた。
魔術師が髪を結うことはほとんどないが、騎士は首を守るために首の後ろで編むのだ。
「まずは大体の造りを覚えておくといいよ。まず建物は北側の食堂と教練室、あとは右翼と左翼に分かれてる。入り口は南側だ。左翼は上級士官用の執務室。右翼は一般兵の控室がある。一般兵は小隊ごとに控室があるけど、普段は訓練場か教練室のどっちかにいる。左翼と右翼の間にある中庭が訓練場になっている。アーベル?」
カールが不安げにアウレリアの目を覗きこむ。
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