契約結婚のススメ

文月 蓮

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婚姻の契り ※

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 繋がった部分を中心に発動した魔法陣は、くるくると回転しながら手のひらほどの大きさまで広がった。
 繋がりあった部分が熱を帯び、ちりちりとした痛みが下腹部に走る。そこから下腹部にかけて赤みを帯びた太い線が浮かび上がり、彼女の肌の上に模様を描いていく。
 レティシアはその様子を、息を呑んで見つめた。
 それはまるで翼を大きく広げたような形をしていた。
 向かい合うアロイスの下腹部にも、同様に翼のような模様が浮かび上がる。
 それはまるで翼を分け合ったように、それぞれが片翼の形を成していた。
 模様が完成すると、魔法陣は役目を終え、わずかな光の残滓ざんしを残して消え去る。

「これが、婚姻の契りか……」

 アロイスの指がレティシアの下腹部に浮かび上がるほんのりと赤い模様をなぞる。

「あっ……」

 触れられた場所から走った甘い疼きに、レティシアは思わず埋められた彼の楔を締め付けた。きゅうっとお腹の奥が疼き、かすかな痛みが熱に塗り替えられていく。

「やっと、楽しめそうだな」

 アロイスは端麗な顔をゆがめて笑った。
 そして、彼の美しい顔からは想像もできないほど凶悪に張り詰めた楔を、ゆるゆると動かす。

「ああン……」

 思わず口から漏れた甘ったるい声に、レティシアは口を手で覆った。
 びりびりと背筋を走る感覚はひたすらに甘く、レティシアは総毛立つ。
 ぎりぎりまで引き抜かれた楔が、今度はゆっくりと侵入に転じる。
 じりじりと彼が腰を押し進めるたびに、内部が彼の形に作り替えられていくような感覚に陥る。
 じれったいほどにゆっくりとした動きに、レティシアの腰が勝手に揺れる。最奥からはとめどなく蜜が溢れ、彼の動きを助けた。

「レティ、中がうねっているぞ」
「言っちゃ、やぁ……!」

 アロイスは臆面もなく恥ずかしいことを口にする。
 レティシアは羞恥に身悶えた。

――このまま消えてなくなってしまいたい。

 けれどアロイスが腰を動かすたびに、そんな羞恥さえ吹き飛ぶほどの甘い痺れがレティシアをさいなむ。

「っふ、あ、ああン」

 レティシアの喉からは絶え間なく嬌声が零れだした。
 アロイスはとろけはじめた彼女の姿に、唇をゆがめて笑うと、彼女の膝裏に手を回した。

「っひあ、う?」
「そのまま、啼いていろ」

 ぼんやりとして視線の定まらないレティシアの様子に、アロイスは一層笑みを深くする。そのまま彼女の腰を抱え込み、強く腰を打ちつけた。

「ひぁああああっ!」

 びりびりと脳天まで快楽が駆け抜ける。大きく見開いたレティシアの目からは、涙が溢れて飛び散る。
 がつがつと腰を強く打ち付けられて、目の前に星が飛ぶ。

「や、きちゃう、やだ、やぁ……!」
「すごい、締め付けだ。これでは、私のほうがっ、持っていかれそうだ」
「やだ、なにこれ。こわい、ひぅっ」

 アロイスの息も彼女に負けず劣らず上がっていた。
 けれどレティシアにはそれに気づく余裕はない。
 身体の奥からなにかがせりあがってくる。
 レティシアは未知の感覚に恐怖し、アロイスの首にしがみついた。

「レティ、逆らうな。流れに身を任せるんだ」
「っや、ああ、あああぁー!」

 レティシアの意識が蕩ける。
 目の前が真っ白になって、勝手に喉から声が漏れる。レティシアのつま先はピンと張り詰め、背筋がしなる。

「っく」

 アロイスもまた彼女の絶頂に合わせて、己の欲望を開放した。
 どくどくと楔を脈打たせながら、白濁を最奥に注ぎこむ。
 絶頂の瞬間、レティシアの身体から生まれた魔力と、アロイスの魔力と混ざり合い、婚姻の契りで浮かび上がった下腹の文様が、赤く鮮やかに色づいた。
 翼の模様が輝いたかと思うと、すっと肌に溶け込むように姿を消す。
 きつく目をつぶっていたレティシアは、模様が消えたことには気づかない。

「っは、無事、定着したようだな」

 アロイスは荒い呼吸を繰り返しながらも、満足げな笑みを浮かべ、彼女の下腹をそっと指の腹で撫でる。
 敏感になっていたレティシアの身体は、それだけでびくびくとのたうった。

「っは、や、さわっちゃ、やだぁ……」

 ずっと身体ががくがくと震えたまま力が入らない。
 自分の身体が自分のものではないようで、怖かった。

「ふふ。これくらいで根をあげてもらっては、困るのだがな……。あなたにとっては初めてのことだし、これくらいにしておこうか」

 にやりと笑ったアロイスは、ずるりと楔を抜き去る。

「あ……」

 離れてしまったぬくもりが、レティシアは寂しさを感じてしまう。
 特別に好きな相手というわけでもないのに、どうして寂しいと思ってしまったのか、自分でも不思議だった。
 ふと、とぷりと中から零れ落ちる感覚がして、レティシアは眉をひそめる。

「破瓜の証というのは、なかなか征服欲をそそられるものだな」

 アロイスの指が血の混じった白濁をすくい上げる。

「……っ」

 レティシアは慌てて足を閉じ、シーツを引き寄せて身体を隠す。恥ずかしさに顔が上げられない。

――早く自分のベッドに戻ってくれればいいのに……。

 これでは後始末もままならない。
 顔を伏せていると、アロイスが彼女の顔をのぞき込んだ。

「身体を拭くのと、湯を使うのと、どちらがいい?」
「あ……拭くほうで」
「わかった」

 アロイスが部屋から遠ざかる気配に、レティシアはメイドに用意をさせるのだろうと、ほっと息を吐いた。
 がくがくと震える足でベッドから降り、シーツを身体に巻き付けた格好で鏡の前に移動する。
 レティシアは『婚姻の契り』が自分にどのような影響を与えているのか、気になって仕方がなかった。
 模様が浮かび上がった辺りを鏡に映してみるが、もうそこにはなにもない。触れてみても、わずかに魔力の残滓を感じるくらいで、魔力的な繋がりが生まれたとは信じがたい。

「……不思議」

 レティシアが鏡に映る自分のお腹を眺めながらそこをなぞっていると、不意に視線を感じて顔をあげる。
 鏡の中には布と桶を手にしたアロイスが映っていた。

「あ……」

 まさか見られるとは思っていなかったレティシアは、どうしていいかわからず固まる。
 ガウンをまとっただけのアロイスが彼女に近づいてくる。

「どうした?」

 アロイスはレティシアの顔にかかっていた金色の髪をそっとすくってうしろに撫で付けた。それはまるで愛しい人に対するように、優しい手つきだった。

「いいえ、なんでも」

 レティシアは首を横に振って彼の手から遠ざかる。
 かすかに彼が眉をひそめたことには気づかないふりをした。

「少し足を広げて」

 アロイスは濡らした布を手に彼女の身体を拭こうとした。

「自分でできますから」
「これくらい、させてくれてもいいだろう」

 布を渡そうとしない彼に、レティシアは諦めて身を任せた。

――こんなはずではなかったのに……。

 アロイスが丁寧に足のあいだを拭っている様子を見下ろしながら、レティシアは彼との契約結婚を後悔しはじめていた。
 彼との交わりはもっと事務的なものだろうと、どうして思い込んでいたのだろう。
 やさしく触れられて、宝物のように扱われて、これではまるで恋人のような扱いではないか。
 これ以上彼と触れ合うのが怖い。溺れて、二度と以前の自分に戻れなくなってしまう。
 レティシアはぶるりと震えた。

「寒いのか? ほら、きれいになった。ベッドに戻るぞ」
「きゃっ、え!?」

 声をかけても動こうとしない彼女に、業を煮やしたアロイスは強引に抱き上げた。
 アロイスの足がレティシアのベッドではなく、続き部屋に向かっていることに気づいたレティシアは、抗議の声を上げた。

「あの、どうして?」
「あなたのベッドは濡れて使い物にならないだろう。今夜は私のベッドで眠ればいい」
「え、でも……」
「まだ口答えできる元気があるなら、もう一度してもいいんだぞ?」
「それは……さすがに」

 『婚姻の契り』のおかげなのか、違和感はほとんどない。それでも足はがくがくと震えそうなほど頼りなく、彼の体力についていける気がしなかった。

「なら、黙っていればいい」

 アロイスはレティシアを軽々と抱き上げて運ぶ。足で扉を器用に蹴り開け、続き部屋を通り過ぎて、彼の寝室へと移動した。
 暗くてあまりよくわからなかったが、彼の部屋はレティシアの倍くらいの広さはありそうだ。
 アロイスが大きなベッドの脇に彼女を下ろす。
 ベッドカバーを剥ぎ取って、彼女を再び抱き上げると、シーツのあいだに身体を横たえた。
 そのまま隣に彼がもぐりこんできたので、レティシアは慌てて彼との距離をとろうとベッドの中を這って移動する。

「ふふ、あれだけ抱かれておいて今更だ。今夜はもう寝たほうがいい」
「あ、アロイス様っ!?」

 背後からいきなり抱き寄せられて、レティシアは慌てふためいた。

「これからはふたりで過ごすんだ。早く慣れて欲しいものだな」
「いや、あの……、ちょっと?」

 彼女を抱き寄せた腕は太く引き締まっている。そんな腕にがっちりと抱きしめられていて、とてもレティシアの力では抜け出せそうにない。

「あの、離してもらえませんか?」
「黙って寝るんだ」

 それ以降はレティシアが話しかけても、アロイスは返事を返してはくれなかった。
 抱きしめられた胸は温かく、静かになると彼の規則正しい鼓動の音が聞こえてくる。
 レティシアの強張っていた身体から力が抜け、眠りに落ちたのはそれからすぐのことだった。
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