ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

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第一部

見た目と味が一致しません

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 本当に服と下着が手に入ってよかった。
 最悪、自分で作るしかないと思っていたから、大助かりだ。ゴムのような素材はなさそうだし、不器用な私に裁縫の技術はない。
 古着屋を出ると、母はすぐにドラゴンの姿に戻ってしまった。
 ああ、もうちょっと見ていたかったのに、残念……。
 靴を履いていなかった私は父の腕に乗せてもらって、次なる目的地である靴屋に向かった。
 当然、靴屋にもドラゴン用の入り口はなかったが、屋台のようなオープンな作りのお店だったので母が人間の姿に変身する必要はなかった。
 靴屋というよりは皮細工の店という感じで、靴以外にもベルトや小物入れ、帽子などが売られている。
 私はそれほど時間をかけることなくショートブーツを選びだした。
 見当をつけて試着してみると、軟らかくなめされた皮はぴったりと私の小さな足を包み込んでいる。
 足首の辺りに折り返しがあり、ちょっとかわいいところが気に入った。
 こちらも母が小さな魔石でお支払いを済ませた。
 さて、次は果物屋だ。
 靴を買ってもらったので、私は自分の足で歩くことにした。
 足の長さが違いすぎるので、どうしても母と父からは遅れがちになってしまうが、体力をつけるためにはきちんと自分の足で歩かないとね。
 少し汗ばむくらい歩いたところで、目的の果物屋に到着した。
 私が想像していたのは八百屋さんのような店だったのだが、どちらかというと果樹園に近い気がする。
 お店の後ろ側には果樹園が広がっている。すこしはなれた場所には、屋根がきらりと光るガラスのようなもので覆われた温室らしきものが建っていた。
 ドラゴンとの取引が多いのだろう。店の入り口はもちろんドラゴン仕様になっている。
 かなり大きな両開きの扉が開け放たれていて、私たちは店の中に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ。イーヴォ様、ミレーナ様」

 すぐに森人しんじんの店員が現れ、優雅な仕草で挨拶をしてきた。

「今日は何をお求めですか?」
「メーラと、アランチャはあるかしら?」
「メーラはすぐにご用意できます。アランチャは少々お待ちいただけますか?」
「ええ」

 店員が店の奥から運んできたのはリンゴもどきだった。
 リンゴもどきって呼んでたけど、メーラというのか。

「お嬢様にはランポーレなどいかがですか?」

 店員は木苺を差し出した。どう見てもブルーベリーのような紫色だけれど、確かに形は木苺のものだ。この果物は食べたことがない。

「ありがとう」

 見上げると母と父もうなずいてくれたので、私はもらった木苺を口の中に放り込んだ。
 ぷちりと果肉がはじける音がして、甘酸っぱい味が口の中に広がる。
 うん、これはやっぱり木苺というよりはブルーベリーっぽい。

「おいしい」

 ちょっと見た目と味にギャップがあるけれど、とても熟していて甘く、おいしかった。

「では、こちらも頂くわ」
「ありがとうございます」

 店員はいそいそと果物を麻袋につめていく。
 大きな麻袋が三つほど用意されて、母がやはり魔石で支払いを済ませた。
 うーん、これは私も魔石を手にいれておかないと、困ることになりそうだ。
 人間のいるところで生きていくために、しなければならないことがまた増えた。
 魔力を増やす特訓はしているけれど、体力もつけたほうがいいだろう。
 それから魔物を狩る練習ついでに、魔石を手に入れられたらいいな。

「さあ、ルチア。帰りましょうか」
「はーい」

 家には飛んで帰らなければならないので、人の姿では帰れない。
 服を脱ぐと、ドラゴンの姿に戻った。
 脱いだ服は麻袋にたたんでつめて、背負う。
 準備はOKだ。

「じゃあ、行くぞ」

 父の掛け声で、果物屋の前から空に向かって飛び上がる。
 木々のすき間を通り抜けて上空に出たけれど、よく考えたらまずかった気がしてきた。
 町に入るときは門をくぐって入ったのに、帰りは勝手に空から帰っても大丈夫だったのだろうか?
 父に尋ねると、あっけらかんと回答が返ってきた。

「森人はドラゴンに何かを強制したりなぞできない。門から入ったのはどういう場所なのか、ルチアに見せたかったからだ」

 ドラゴンって、自分勝手、げふんげふん……自由だね。
 あまり考えていないだけかもしれないけれど。
 そんなこんなで、私の初のお出かけは無事、終了した。

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