16 / 81
幕間 一
いとし子
しおりを挟む
私と愛する夫イーヴォとの間に、ようやく女の子を授かることができた。
ドラゴンは三対七くらいの比率でメスのほうが少ない。
個体数が減りつつあるドラゴンの未来のためにも、私はぜひとも女の子を産みたかったのだ。
ドラゴンの子供は少ないので、子が生まれると周囲のみんなが過剰にかわいがってしまう傾向がある。
上の息子たちがタマゴから孵ったときは、夫の両親や、私の両親が押しかけてきて大変だった。
子供たちがぐったりとするまでかまい倒される姿を見ていたので、ルチアのときは来訪をご遠慮いただいた。
両親たちはかわいい孫娘の姿を一目見たいとごねていたが、ルチアが生まれたときは、このまま育つのだろうかと危ぶまれるほど弱弱しかった。
生まれたルチアの姿を目にした上の息子たちはこぞって世話を焼こうとする。ともすれば過剰に。
こんな状態のルチアを両親たちに見せたら、ルチアが死んでしまうのではないかと心配になった私たちは、ある決心をした。ルチアが両親たち、兄弟たちにかわいがられても大丈夫なほどに成長するまでは、離れて暮らすことを。
かわいい息子たちに会えない日々は寂しかったけれど、これもルチアのためだと涙を飲んで耐えた。
そうして、私たちの心配どおりルチアの成長は遅かった。
すぐに体調は悪くなるし、なんどもこのまま死んでしまうのではないかとはらはらさせられた。
上の息子たちのときは半年もすれば、言葉を話すようになり、意思疎通も楽になったのだが、ルチアはそこまで成長するのに一年ほどかかってしまった。
そしてルチアは、とてもおてんばだった。
驚いたことに、あの子は次々と四属性すべての精霊と契約してしまった。
普通ならば生まれてから二、三年もしなければ、精霊と契約することはできないはずなのに、言葉もまともにしゃべらないうちから契約をしてしまった。
いくら四種族の竜の血を引くとはいえ、すべての精霊と契約するというのはただ事ではない。
おそらくルチアは普通のドラゴンよりも、寿命が長い分ゆっくりと成長しているのだ。
人の寿命はおよそ六十年。ドラゴンである私たちはその十倍はゆうに生きる。
寿命の長い竜人や森人でも二百年ほどであることを考えると、驚異的な寿命の長さだ。
ゆえに私たちの成長は緩やかだ。
十年ほどで成竜となり、親の元を巣立っていく。
マウロはあと一年ほど、ティーとも三年ほどで巣立ちの時期を迎えるだろう。
けれども成長の遅いルチアが成竜となり、巣立つにはあと十年ほどはかかるだろう。
とりあえずルチアの身体もずいぶんと丈夫になったので、子供たちの待つ家に帰ることにした。
久しぶりに会った息子たちは祖父母の元でずいぶんと成長していた。
ちょっとやんちゃな長男マウロは、風竜の性質そのままに好奇心旺盛で、はらはらと心配させられるときもあるけれど、愛すべきわが子だ。
すこしおとなしい次男のティートは地竜らしく、年齢の割には落ち着いている。猪突猛進なところのある兄の姿を見ていたせいか、よく考えてから行動することが多い。
脳筋の多い夫の家系ではなく、私の父や母に似たのかもしれない。
なにはともあれ、私たち家族が再び一緒に暮らせることになったことを喜ぼう。
ルチアは毎日兄たちと家の近くを飛び回って、元気に遊んでいる。
ドラゴンのメスは子供を産むまでは、魔力も力もそれほど強くない。けれど一旦子供を授かると、子を守らなければという意識が働くのか、魔力も力も桁違いに強くなる。
それなのに、ルチアはすぐに強くなりたいのだと、魔力を増やす練習をしている。
確かに四属性すべての精霊と契約できるのだから、かなりの魔力を持っていることは間違いない。けれど、その魔力はすべて精霊の成長に使われてしまうために、彼女自身が使える魔力はそれほど多くない。
ある日、夫の弟が家に遊びに来た。
義弟のラウルは、一族の中でもかなりの変わり者だ。
ドラゴンなのに人の姿になって、人の世界で暮らしているのだ。
もともとドラゴンは身体の小さな他の種族にあわせて、人の姿を取ることはたまにあった。けれどもラウルのように、常に人の姿で彼らと共に暮らそうと思うドラゴンはめったにいない。
私たちに敬意を抱き、何かと便宜を図ってくれる竜人や森人たちならばともかく、わけのわからない理論を振りかざし、私たちを素材として狩りにくる人間とは、とても仲良くしようとは思えない。
しかもラウルは大きな街でレストランとかいう料理屋を経営している。
基本的に素材をそのまま頂くドラゴンにとって、わざわざ食べ物をこねくり回して料理するというのがなんとも理解しがたい。
そんなところだけはちょっといただけないラウルだが、甥っ子たちのことはとてもかわいがってくれている。
そんな彼が人の姿のままでルチアに会ったところ、ルチアが突然人間に変化できるようになってしまった。
あの子の兄たちでさえ変化する能力はまだ身につけていないというのに。
なんとかわいいのだろう!
人の姿に変身したルチアは、それはもうかわいらしかった。人の姿を見てもこれまでかわいいとは思ったことがなかったけれど、ルチアだけは別だ。
けれど同時にとても心配になる。
薄い皮膚は突けばすぐに破れてしまいそうなほどやわらかく、頼りない。
しかも人の姿で冒険がしたいと言い出したときは、仰天した。
親ばかかもしれないが、ルチアは神に愛されているのではないかと思う。
でなければこれほどまでに早く変身する力を身につけ、四種族もの精霊と契約することなどできるはずがない。
私たちにできることは、ルチアが独り立ちできるまで、できる限りの手助けをし、成長を見守ることだけだ。
どうか神様、私たちのかわいいルチアをお守りください。
ドラゴンは三対七くらいの比率でメスのほうが少ない。
個体数が減りつつあるドラゴンの未来のためにも、私はぜひとも女の子を産みたかったのだ。
ドラゴンの子供は少ないので、子が生まれると周囲のみんなが過剰にかわいがってしまう傾向がある。
上の息子たちがタマゴから孵ったときは、夫の両親や、私の両親が押しかけてきて大変だった。
子供たちがぐったりとするまでかまい倒される姿を見ていたので、ルチアのときは来訪をご遠慮いただいた。
両親たちはかわいい孫娘の姿を一目見たいとごねていたが、ルチアが生まれたときは、このまま育つのだろうかと危ぶまれるほど弱弱しかった。
生まれたルチアの姿を目にした上の息子たちはこぞって世話を焼こうとする。ともすれば過剰に。
こんな状態のルチアを両親たちに見せたら、ルチアが死んでしまうのではないかと心配になった私たちは、ある決心をした。ルチアが両親たち、兄弟たちにかわいがられても大丈夫なほどに成長するまでは、離れて暮らすことを。
かわいい息子たちに会えない日々は寂しかったけれど、これもルチアのためだと涙を飲んで耐えた。
そうして、私たちの心配どおりルチアの成長は遅かった。
すぐに体調は悪くなるし、なんどもこのまま死んでしまうのではないかとはらはらさせられた。
上の息子たちのときは半年もすれば、言葉を話すようになり、意思疎通も楽になったのだが、ルチアはそこまで成長するのに一年ほどかかってしまった。
そしてルチアは、とてもおてんばだった。
驚いたことに、あの子は次々と四属性すべての精霊と契約してしまった。
普通ならば生まれてから二、三年もしなければ、精霊と契約することはできないはずなのに、言葉もまともにしゃべらないうちから契約をしてしまった。
いくら四種族の竜の血を引くとはいえ、すべての精霊と契約するというのはただ事ではない。
おそらくルチアは普通のドラゴンよりも、寿命が長い分ゆっくりと成長しているのだ。
人の寿命はおよそ六十年。ドラゴンである私たちはその十倍はゆうに生きる。
寿命の長い竜人や森人でも二百年ほどであることを考えると、驚異的な寿命の長さだ。
ゆえに私たちの成長は緩やかだ。
十年ほどで成竜となり、親の元を巣立っていく。
マウロはあと一年ほど、ティーとも三年ほどで巣立ちの時期を迎えるだろう。
けれども成長の遅いルチアが成竜となり、巣立つにはあと十年ほどはかかるだろう。
とりあえずルチアの身体もずいぶんと丈夫になったので、子供たちの待つ家に帰ることにした。
久しぶりに会った息子たちは祖父母の元でずいぶんと成長していた。
ちょっとやんちゃな長男マウロは、風竜の性質そのままに好奇心旺盛で、はらはらと心配させられるときもあるけれど、愛すべきわが子だ。
すこしおとなしい次男のティートは地竜らしく、年齢の割には落ち着いている。猪突猛進なところのある兄の姿を見ていたせいか、よく考えてから行動することが多い。
脳筋の多い夫の家系ではなく、私の父や母に似たのかもしれない。
なにはともあれ、私たち家族が再び一緒に暮らせることになったことを喜ぼう。
ルチアは毎日兄たちと家の近くを飛び回って、元気に遊んでいる。
ドラゴンのメスは子供を産むまでは、魔力も力もそれほど強くない。けれど一旦子供を授かると、子を守らなければという意識が働くのか、魔力も力も桁違いに強くなる。
それなのに、ルチアはすぐに強くなりたいのだと、魔力を増やす練習をしている。
確かに四属性すべての精霊と契約できるのだから、かなりの魔力を持っていることは間違いない。けれど、その魔力はすべて精霊の成長に使われてしまうために、彼女自身が使える魔力はそれほど多くない。
ある日、夫の弟が家に遊びに来た。
義弟のラウルは、一族の中でもかなりの変わり者だ。
ドラゴンなのに人の姿になって、人の世界で暮らしているのだ。
もともとドラゴンは身体の小さな他の種族にあわせて、人の姿を取ることはたまにあった。けれどもラウルのように、常に人の姿で彼らと共に暮らそうと思うドラゴンはめったにいない。
私たちに敬意を抱き、何かと便宜を図ってくれる竜人や森人たちならばともかく、わけのわからない理論を振りかざし、私たちを素材として狩りにくる人間とは、とても仲良くしようとは思えない。
しかもラウルは大きな街でレストランとかいう料理屋を経営している。
基本的に素材をそのまま頂くドラゴンにとって、わざわざ食べ物をこねくり回して料理するというのがなんとも理解しがたい。
そんなところだけはちょっといただけないラウルだが、甥っ子たちのことはとてもかわいがってくれている。
そんな彼が人の姿のままでルチアに会ったところ、ルチアが突然人間に変化できるようになってしまった。
あの子の兄たちでさえ変化する能力はまだ身につけていないというのに。
なんとかわいいのだろう!
人の姿に変身したルチアは、それはもうかわいらしかった。人の姿を見てもこれまでかわいいとは思ったことがなかったけれど、ルチアだけは別だ。
けれど同時にとても心配になる。
薄い皮膚は突けばすぐに破れてしまいそうなほどやわらかく、頼りない。
しかも人の姿で冒険がしたいと言い出したときは、仰天した。
親ばかかもしれないが、ルチアは神に愛されているのではないかと思う。
でなければこれほどまでに早く変身する力を身につけ、四種族もの精霊と契約することなどできるはずがない。
私たちにできることは、ルチアが独り立ちできるまで、できる限りの手助けをし、成長を見守ることだけだ。
どうか神様、私たちのかわいいルチアをお守りください。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる