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第二部
旅の戦士
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「あの、ありがとうございました」
私は戦士の手を借りてどうにか立ち上がり、深々と頭を下げた。
「間に合ったのなら、よかった」
戦士は被っていたヘルムの前面を跳ね上げて、顔を見せる。
つま先から指の先までしっかりと甲冑に覆われていたせいで気づかなかったが、ヘルムの下から現れたのは、褐色の肌だった。
鼻筋はすっきりと通っていてちょっと厳つい印象の顔だちで、紺色の髪がヘルムの隙間からわずかに覗いている。
何よりも目を奪われたのは炎にも似た真っ赤な瞳だ。
その瞳は私に父の火竜の鱗を思い起こさせて、一瞬見惚れる。
「杖は?」
「え?」
突然の青年からの声に、私はわけがわからず問い返す。
「あんたは、魔法使い、だろう?」
ゆっくりとした男の問いかけに、私は少し考えこむ。
あのタイミングで助けてくれたのだから、私が魔法を使う所は彼も見ているはずだ。
別に魔法が得意と言うわけではないけれど、下手というわけでもない……はず。この人間の姿ではドラゴンの時ほど力もないので、魔法が使えるというのは間違いではないだろう。
「はい」
「なぜ、杖を、持っていない?」
杖? 魔法を使うのに、杖なんて必要?
と、考えかけてハタと気づく。そういえば、前世で読んだファンタジーの中に出てくる魔法使いというものは、大抵杖を持っていなかっただろうか?
もしかして、杖なしで魔法を使うのって、変なの?
「えっと、その、変……ですか?」
「……ああ」
彼の返事に私の顔はさっと青ざめた。
「少なくとも、俺は、他に、見たことが、ない」
ああ、やっぱり。そんな気がしていたけれど、普通の人間が魔法を使う時には杖を使うのか。杖ってどこで手に入るんだろう?
「どこに行けば、杖が手に入りますか?」
私は名も知らぬ青年に思わず詰め寄った。
私の勢いに青年は一瞬たじろいだように見えた。
「大きな街の、武器屋なら、扱っている、だろう」
なるほど。なければ買えばいいのか。
杖が買えるものでよかった。
私はほっと息を吐いた。
自分で作らなければならないものだったら、きっと私には無理だ。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
私はもう一度青年に向かって頭を下げた。
「まあ、これも、何かの、縁だろう。冒険者は、助け合う、もんだ」
「お兄さんは、冒険者なんですか?」
私は憧れの存在を前にして、興奮を隠せなかった。
こんな時、私はファンタジーな世界に生まれたことに感謝せずにはいられない。
ゲームや映画の中だけでした見たことのなかった世界を自分が旅しているのだと思うと、どうしてもテンションが上がってくる。
「ああ。見てのとおり、旅の戦士だ。俺のことは、クラウディオと、呼んでくれ」
青年、改め、クラウディオは右手で拳を作って左胸にあてる仕草をしている。
何かの合図なんだろうか?
「すみません、名乗りもせずに。私はルチアです」
私は慌ててクラウディオに向かって名乗る。
「それで、クラウディオさんは、本当に冒険者なんですね。どうやったら冒険者になれますか? 資格とか必要ですか? どこへ行けば冒険者になれます?」
私は間を置かずにクラウディオを質問攻めにする。
びっくりしている彼の表情に、私は失敗してしまったことを悟った。
「あんた、ちょっと、落ち着け」
「……はい」
私はしゅんとしおれた。
「落ち着いて、あんたが、聞きたいことを、聞けばいい」
クラウディオは厳つい顔に微笑みをうかべた。
私はその笑顔に勇気づけられるようにして、口を開いていた。
「……私は世界中を冒険したくて、家を出てきました。私はとても、辺境の土地で生まれました。世界はとても狭くて、ずっと冒険に憧れてきたんです。私の願いがとても厚かましいことだとわかっています。でも……、クラウディオさん。どうか私に冒険者になる方法を教えてください」
「クラウディオでいい。俺も、ちょうど、街に戻る、ところだ。冒険者ギルドに、登録すれば、いい」
冒険者ギルド!? って、やっぱりあるんだ!
私は戦士の手を借りてどうにか立ち上がり、深々と頭を下げた。
「間に合ったのなら、よかった」
戦士は被っていたヘルムの前面を跳ね上げて、顔を見せる。
つま先から指の先までしっかりと甲冑に覆われていたせいで気づかなかったが、ヘルムの下から現れたのは、褐色の肌だった。
鼻筋はすっきりと通っていてちょっと厳つい印象の顔だちで、紺色の髪がヘルムの隙間からわずかに覗いている。
何よりも目を奪われたのは炎にも似た真っ赤な瞳だ。
その瞳は私に父の火竜の鱗を思い起こさせて、一瞬見惚れる。
「杖は?」
「え?」
突然の青年からの声に、私はわけがわからず問い返す。
「あんたは、魔法使い、だろう?」
ゆっくりとした男の問いかけに、私は少し考えこむ。
あのタイミングで助けてくれたのだから、私が魔法を使う所は彼も見ているはずだ。
別に魔法が得意と言うわけではないけれど、下手というわけでもない……はず。この人間の姿ではドラゴンの時ほど力もないので、魔法が使えるというのは間違いではないだろう。
「はい」
「なぜ、杖を、持っていない?」
杖? 魔法を使うのに、杖なんて必要?
と、考えかけてハタと気づく。そういえば、前世で読んだファンタジーの中に出てくる魔法使いというものは、大抵杖を持っていなかっただろうか?
もしかして、杖なしで魔法を使うのって、変なの?
「えっと、その、変……ですか?」
「……ああ」
彼の返事に私の顔はさっと青ざめた。
「少なくとも、俺は、他に、見たことが、ない」
ああ、やっぱり。そんな気がしていたけれど、普通の人間が魔法を使う時には杖を使うのか。杖ってどこで手に入るんだろう?
「どこに行けば、杖が手に入りますか?」
私は名も知らぬ青年に思わず詰め寄った。
私の勢いに青年は一瞬たじろいだように見えた。
「大きな街の、武器屋なら、扱っている、だろう」
なるほど。なければ買えばいいのか。
杖が買えるものでよかった。
私はほっと息を吐いた。
自分で作らなければならないものだったら、きっと私には無理だ。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
私はもう一度青年に向かって頭を下げた。
「まあ、これも、何かの、縁だろう。冒険者は、助け合う、もんだ」
「お兄さんは、冒険者なんですか?」
私は憧れの存在を前にして、興奮を隠せなかった。
こんな時、私はファンタジーな世界に生まれたことに感謝せずにはいられない。
ゲームや映画の中だけでした見たことのなかった世界を自分が旅しているのだと思うと、どうしてもテンションが上がってくる。
「ああ。見てのとおり、旅の戦士だ。俺のことは、クラウディオと、呼んでくれ」
青年、改め、クラウディオは右手で拳を作って左胸にあてる仕草をしている。
何かの合図なんだろうか?
「すみません、名乗りもせずに。私はルチアです」
私は慌ててクラウディオに向かって名乗る。
「それで、クラウディオさんは、本当に冒険者なんですね。どうやったら冒険者になれますか? 資格とか必要ですか? どこへ行けば冒険者になれます?」
私は間を置かずにクラウディオを質問攻めにする。
びっくりしている彼の表情に、私は失敗してしまったことを悟った。
「あんた、ちょっと、落ち着け」
「……はい」
私はしゅんとしおれた。
「落ち着いて、あんたが、聞きたいことを、聞けばいい」
クラウディオは厳つい顔に微笑みをうかべた。
私はその笑顔に勇気づけられるようにして、口を開いていた。
「……私は世界中を冒険したくて、家を出てきました。私はとても、辺境の土地で生まれました。世界はとても狭くて、ずっと冒険に憧れてきたんです。私の願いがとても厚かましいことだとわかっています。でも……、クラウディオさん。どうか私に冒険者になる方法を教えてください」
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冒険者ギルド!? って、やっぱりあるんだ!
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