ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

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第二部

私の武器は?

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「杖が、欲しいと、言っていた、だろう?」
「あっ!」

 そうだ。完全に忘れていた。
 初めてクラウディオに会ったとき、どうして杖を使わないのだと言われて困ったことを思い出す。
 ドラゴンが杖を用いて魔法を使うなんて、聞いたことはなかったけれど、人の世界では魔法は杖を使うものらしい。
 必要ない気もしたけど、これから人のいる場所で魔法を使うことがあるのならば、杖を使っておいた方がいいだろう。

「忘れてました。ごめんなさい」
「気にするな」

 クラウディオが私の頭をくしゃりと撫でた。
 撫でられるのは好きだけど、どうも子供扱いされているようで、ちょっと気に入らない。

「こっちだ」

 私はクラウディオに手を引かれるまま、黙って彼のあとに続いた。
 今朝から無計画に街のなかをあちこちと移動したおかげで、少しは道も覚えてきた。
 このヴェルディの街は森の中にある街に相応しく、至る所に緑がある。というか、森を一部切り開いて作った街のようだ。
 そのため道はぐねぐねと曲がり、あちこちに木が生えているせいで、まっすぐ見通せないので、どんな街なのかちょっとわかりにくい。
 木漏れ日が降り注ぐ道をたどり、私たちは武器屋に到着した。
 昨日この街に着いたときに、ちらりとクラウディオが教えてくれた店だった。
 扉を開けると、様々な武器がずらりと並んでいる。
 ぱっと見ただけでも、剣、斧、槍、弓、ナイフなどが並んでいる。
 あれ、杖は?
 私の想像している魔法使いが使う杖らしきものは店内に見当たらない。

「おい」

 クラウディオはまっすぐ店の奥に進み、店員に声をかけた。

「はい、何でしょう?」
「杖を、見せてくれ」

 途端に店員の表情は怪訝そうなものに変わる。

「お客様がお使いに?」

 クラウディオは背中に斧を背負っている。杖を必要としているようには見えなかったのだろう。
 ちなみにクラウディオの武器は正式には戦斧せんぷというのだと、教えてもらった。投げ斧としても使えるようなものよりもかなり大きめだ。
 分厚い刃がついていて、重心が先端近くにあるので、振り回して使うのに向いているそうだ。
 いくらクラウディオが大柄な体格だとはいえ、重そうな甲冑を着込み、更に重そうな戦斧を振り回せるのだから、どれほど体力があるのだろうと、私はうらやましくなる。

「いや、こいつだ」

 店員の注意がこちらに向いたのを感じて、私は顔を上げた。
 基本的にみんな私よりも背が高いので、顔を上げないと視線が合わない。ドラゴンの姿ですごしていたときは、そんなに気にならなかったのにな。

「なるほど。お嬢様がお使いに……。では、こちらへどうぞ」

 店員は戸棚を探って鍵を取り出すと、店の奥の方に歩いていく。鍵のかかった棚を開けて、数本の杖を取り出した。
 鍵がかかった場所に入っているなんて、ちょっと高い物なんじゃないかと不安になる。

「攻撃と回復、どちらが得手ですか?」

 ん?
 そういえば私は回復魔法って使ったことがないかもしれない。
 ドラゴンの場合、頑丈な鱗のおかげでめったに怪我もしないし、これまで回復魔法を使う必要がなかったので、どちらが得意かと聞かれてもわからない。
 使えるかと聞かれれば、たぶん使えると思うけれど。
 私は首を傾げた。

「使う杖によって、向き不向きがあるのです。攻撃を主体として戦うのであれば、こちらのワンドがおすすめです」

 店員が示したのはオーケストラの指揮に使うタクトみたいな短い棒だ。持ち手の下の方に、チャームのような飾りがついているくらいで、とてもシンプルな杖だ。

「回復や補助魔法を使うのであれば、こちらのロッドの方がよいでしょう」

 まっすぐで長い棒の先に、青く光を放つ珠が取り付けられている。こっちの方がかっこいいな。

「どうする?」

 とクラウディオに問われたのだが、正直悩む。もし回復魔法を主として戦うのなら、誰かと一緒でなければ難しい気がする。自分ひとりでも戦えるようにと考えるならば、ここはワンド一択だろう。

「ワンド……かな」
「こちらは銀貨十枚となっております」

 手持ちの銀貨は十六枚と半分。買えないことはないけれど、手持ちが心もとなくなる。

「ちなみに、こちらのロッドは銀貨十五枚です」

 高っ!
 目を大きく見開いた私に、店員がくすりと笑った。

「回復魔法の使い手は少ないですからね。もともと魔法使い自体も少ないですが」

 え、魔法使いって少ないの?
 私はクラウディオの顔を見上げた。

「使い手が、少ないから、武器も少なく、高額だ」

 なるほど。だから、杖だけは鍵のかかる棚にしまわれていたんだ。

「こっちの斧は、いくらだ?」

 クラウディオは並べられている武器の中から、斧を指した。

「あれは、銀貨五枚ですね」

 ワンドの半分の値段を聞いて、やはり杖がとても高価な武器なのだと確信する。

「もっと安いワンドはないんですか?」

 別にワンドがなくても、魔法は使えるのだ。それらしく見えれば問題ないのではないかという気がしてくる。

「これ以上安いものは、当店では扱っておりません」
「そうですか……」

 私は悩んでいた。

「試してみて、決めたら、どうだ?」
「試す?」
「それがいいかもしれませんね」

 不思議そうな顔をする私とは対照的に、店員の顔はにこにことしている。

「店の裏の空き地に訓練用の的があります。ご試用いただいてから、購入するかどうかお決めいただいても構いませんよ」
「じゃあ、お願いします」

 私はワクワクとしながら、店員に案内され、店の裏に向かった。
 店員の言った通り、ちょっとした空き地になっていて、案山子のような木の人形が立っている。

「どうぞ」

 私は店員に手渡されたワンドを構えた。
 こうかな?
 右手にワンドを持ち、身体の前に手を伸ばす。
 深く息を吸って、気持ちを落ち着ける。
 深緋こきひ、ファイアボール!
 ワンドの先から生まれた火の玉が一直線に木の人形に向かって進む。
 大きい!
 いつものファイアボールよりも、倍ぐらいの大きさで、飛翔する速度も倍くらい早い気がする。
 私は杖の威力に茫然としつつ、後ろで見守ってくれていたクラウディオを振り返った。

「なかなか、いいな」

 いい、なんてもんじゃないよ?
 明らかにいつも使う魔法とは威力も速度も増していた。杖を使っただけで、ここまで違うのかと驚く。

「お嬢様!」

 店員の焦った声に、彼が指している方に目をれば、ファイアボールの当たった木の人形が燃えていた。

「あ、やばっ!」
 青藍せいらん、ウォーターフロー!
 私は慌てて水魔法を発動させ、木の人形にぶつける。
 いつも噴水ほどの威力しかなかったウォーターフローなのに、すごい勢いで水が吹き上がり、水柱ができていた。
 魔法を発動させたあとの手ごたえも、普段とは段違いだ。消費する魔力もかなり少ない気がする。
 だんだん楽しくなってきた私は、調子に乗って風魔法を発動させる。
 翡翠ひすい、ウィンドカッター!
 スパーン、と音をたてて、木の人形がばらばらになった。

「お、お嬢様……」
「ん?」

 私は震えた声で呼びかけられて目をると、店員がドン引きしていることに気づいた。 木の人形も壊しちゃったし、ここで買わないとは言えないよね。

「これ、……買います」

 私のお財布はいっそう軽くなった。
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