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第二部
出会いの予感
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私が魔改造してしまった袋を見つめていたビオラが、急に何かに気付いた表情で、顔を上げた。そして、ふいに水の中に姿を消してしまう。
「どうかしたのか?」
「っわ」
背後から、声をかけられて私は飛び上がった。
「クラウディオ!」
あわてて振り向いて、クラウディオの姿を目にした私は、ビオラの姿を彼に見られたかも知れないと心配になった。
「見た?」
「何を?」
どうやらクラウディオの目に、水の精霊の姿は見えなかったようだ。
彼は魔法が使えないと言っていたから、何ら不思議ではないけれど。
私はほっとしてため息をこぼした。
「そういえば、見つかったの?」
確か、クラウディオはサップの実を探していたのではなかっただろうか。
「ああ」
クラウディオは手にしていた実を見せてくれた。
赤くてとげとげしている。
ん、どこかで見た気がする。
私は見覚えのある外見に、首を傾げた。
「あ、これ、見たことある」
「どこで、見た?」
「あそこ」
私は頭上を指で示した。
クラウディオが頭上を仰ぐ。
「ああ」
水辺に生えた木の上に、ぐねぐねと蔦が絡みついている。その隙間から、赤く特徴的な実が見えていた。
「ルチア、でかした」
クラウディオは手にしていた実を袋にしまうと、背負っていた斧をつかんだ。彼の目は笑っていないけれど、口元が吊り上がっている。
斧なんて出して、どうするの?
私の疑問はすぐに解消した。
「下がって、いろ」
クラウディオはそれだけ言って、戦斧を振り回し始めた。
「ええっ?」
砲丸投げのようにぐるぐると斧を振り回していたかと思うと、そのままの勢いで蔦の絡まった木に斧を叩きつけた。
ズシーンという低い音がして、木の上からばらばらと実が落ちてくる。
なるほど。クラウディオは木を登って実を取るという選択ではなく、力づくで実を採取する方法を選んだらしい。
斧だから、間違ってはいないんだろうけれど、いや、でも……。ちょっとどうかと思うよ?
「ルチアも、拾え」
「はーい」
自分が拾った分は、私のものにしてもいいらしい。
換金できるなら、拾っておこう。
私は地面に散らばった実を拾って、先ほど魔改造してしまった袋に入れていく。
きちんと状態を保ってくれるのか、ちょうどいい実験になりそうだ。
クエストの達成に必要な素材採集を終えた私とクラウディオは、意気揚々とヴェルディの街に戻った。
ラップの葉が入った袋とギルドカード、そして魔物を倒して得た魔石をギルドの窓口に提出して、私の初クエストは本当の意味で完了した。
「ふっふっふ~」
返してもらったギルドカードと、銀貨三枚。そして、ギルドに渡したラップの葉は達成条件の十枚ではなく、二十枚。余分に採集した十枚が銀貨一枚で、魔石が銀貨一枚というわけだ。
六枚と半分しかなくなってしまった所持金が、九枚と半分まで回復した。
「おい、サップの実も、持って、いただろう?」
「あ!」
自分の受けたクエストではなかったので、完全に忘れていた。
ごそごそと背中の物入れを探って、実を取り出す。私では受けられない星三つのクエストなので、クラウディオに渡して換金してもらう。
なかなか保存状態はいいみたい。いい道具ができた。
私が拾った実は二つだけ。それなのに、銀貨六枚になった。やっぱりギルドランクが上がると報酬もいいクエストが受けられるんだなぁ。
私も早く若葉を卒業して、星をもらうんだ。そのためには、クエストを地道にこなしていくしかない。
明日も、頑張るよ~。
そして、次の日。
今日もクラウディオと一緒にクエストを受けるつもりだ。
ん~、今日は何かいい依頼がないかなー?
今日もクラウディオに持ち上げてもらって、掲示板の張り紙をチェックする。
昨夜も彼に文字を教えてもらって勉強したから、少しずつ読める文字が増えてきている。
今日は、これかな?
私は一つのクエストを選ぼうとしていた。
「お前が、最近噂になっている竜人の冒険者か?」
んん?
クラウディオに持ち上げられたまま隣を向くと、金髪の騎士が、いた。
「どうかしたのか?」
「っわ」
背後から、声をかけられて私は飛び上がった。
「クラウディオ!」
あわてて振り向いて、クラウディオの姿を目にした私は、ビオラの姿を彼に見られたかも知れないと心配になった。
「見た?」
「何を?」
どうやらクラウディオの目に、水の精霊の姿は見えなかったようだ。
彼は魔法が使えないと言っていたから、何ら不思議ではないけれど。
私はほっとしてため息をこぼした。
「そういえば、見つかったの?」
確か、クラウディオはサップの実を探していたのではなかっただろうか。
「ああ」
クラウディオは手にしていた実を見せてくれた。
赤くてとげとげしている。
ん、どこかで見た気がする。
私は見覚えのある外見に、首を傾げた。
「あ、これ、見たことある」
「どこで、見た?」
「あそこ」
私は頭上を指で示した。
クラウディオが頭上を仰ぐ。
「ああ」
水辺に生えた木の上に、ぐねぐねと蔦が絡みついている。その隙間から、赤く特徴的な実が見えていた。
「ルチア、でかした」
クラウディオは手にしていた実を袋にしまうと、背負っていた斧をつかんだ。彼の目は笑っていないけれど、口元が吊り上がっている。
斧なんて出して、どうするの?
私の疑問はすぐに解消した。
「下がって、いろ」
クラウディオはそれだけ言って、戦斧を振り回し始めた。
「ええっ?」
砲丸投げのようにぐるぐると斧を振り回していたかと思うと、そのままの勢いで蔦の絡まった木に斧を叩きつけた。
ズシーンという低い音がして、木の上からばらばらと実が落ちてくる。
なるほど。クラウディオは木を登って実を取るという選択ではなく、力づくで実を採取する方法を選んだらしい。
斧だから、間違ってはいないんだろうけれど、いや、でも……。ちょっとどうかと思うよ?
「ルチアも、拾え」
「はーい」
自分が拾った分は、私のものにしてもいいらしい。
換金できるなら、拾っておこう。
私は地面に散らばった実を拾って、先ほど魔改造してしまった袋に入れていく。
きちんと状態を保ってくれるのか、ちょうどいい実験になりそうだ。
クエストの達成に必要な素材採集を終えた私とクラウディオは、意気揚々とヴェルディの街に戻った。
ラップの葉が入った袋とギルドカード、そして魔物を倒して得た魔石をギルドの窓口に提出して、私の初クエストは本当の意味で完了した。
「ふっふっふ~」
返してもらったギルドカードと、銀貨三枚。そして、ギルドに渡したラップの葉は達成条件の十枚ではなく、二十枚。余分に採集した十枚が銀貨一枚で、魔石が銀貨一枚というわけだ。
六枚と半分しかなくなってしまった所持金が、九枚と半分まで回復した。
「おい、サップの実も、持って、いただろう?」
「あ!」
自分の受けたクエストではなかったので、完全に忘れていた。
ごそごそと背中の物入れを探って、実を取り出す。私では受けられない星三つのクエストなので、クラウディオに渡して換金してもらう。
なかなか保存状態はいいみたい。いい道具ができた。
私が拾った実は二つだけ。それなのに、銀貨六枚になった。やっぱりギルドランクが上がると報酬もいいクエストが受けられるんだなぁ。
私も早く若葉を卒業して、星をもらうんだ。そのためには、クエストを地道にこなしていくしかない。
明日も、頑張るよ~。
そして、次の日。
今日もクラウディオと一緒にクエストを受けるつもりだ。
ん~、今日は何かいい依頼がないかなー?
今日もクラウディオに持ち上げてもらって、掲示板の張り紙をチェックする。
昨夜も彼に文字を教えてもらって勉強したから、少しずつ読める文字が増えてきている。
今日は、これかな?
私は一つのクエストを選ぼうとしていた。
「お前が、最近噂になっている竜人の冒険者か?」
んん?
クラウディオに持ち上げられたまま隣を向くと、金髪の騎士が、いた。
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