ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

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第三部

初キャンプと闖入者

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 その日は進めるところまで進んで、キャンプすることになった。
 コルシニとヴェルディの街の中間よりも少しコルシニ寄りの場所だ。順調に行けば明日の夕方には到着するだろう。
 あたりをぐるっと捜索して、魔物がいないことを確認する。
 寝ているときに襲われるのは嫌だしね。
 クラウディオとヴィートは手馴れた様子で、テントを取り出し、さっさと組み立て終えてしまっている。
 私は魔道具から取り出したテントと格闘していた。
 ここを引っ張って、んん? おかしいな、クラウディオたちが組み立てているのと同じようにしているつもりなのに、うまくできない。

「ここを地面に固定しておいて、引っ張るんだ」

 あまりにも不器用な私を見かねたのか、ヴィートが手を貸してくれたおかげで、何とかテントを組み立て終えることができた。
 私が一仕事を終えた気分で額に滲んだ汗を拭ったときには、二人は調理のためにその辺で集めた石でかまどを作り、薪となる枯れ枝を集め終えていた。

「ルチア、火をつけてくれるか?」
「いいよ~」

 こんなことで役に立てるなら、お安い御用だ。
 大きな石を並べた即席かまどの中に、枝が組み上げられている。
 深緋こきひ、ファイア。
 枝の下に炎が生まれる。青白い炎はすぐに枯れ枝に燃え移った。
 先日の岩鳥との戦いのあとで、私の魔力はまた増えたみたいだ。今日は何度か火属性の中級魔法を使ったけれど、魔力が足りないと感じたことはなかった。
 私は機嫌よくかまどに火をつけ終えて、近くに腰を下ろした。荷物の中から桃もどきペスカを取り出してかじる。
 ん、おいしい。ちょっとこりこりしているけど、味はちゃんと桃だ。
 青藍せいらん、ウォッシュ!
 ペスカの果汁でべたべたになった手を水属性の魔法できれいにしていると、ヴィートが何かを思いついたのか荷物から鍋を取り出して近づいてくる。

「その鍋どこに持ってたの?」
「俺の魔道具アイテムボックスだ」

 ああ、ヴィートも圧縮のかかった魔道具を持っているのか。納得。

「ルチア、ついでにここに水を入れてくれ」

 さっきからなんだかいいように使われている気がしないでもないけれど、近くに水場はなさそうだし、まいっか。

「いいよ」

 青藍せいらん、ウォーター。
 たちまちヴィートの手にした鍋が水で満たされる。

「便利だな」

 かまどに枯れ木をくべていたクラウディオが、鍋を見て感心していた。
 うう。日常生活で魔法が使えたら、そりゃ便利だけど、私的にはそういうことよりも戦闘中に使う魔法でほめられたかったよ。
 私はもう一つペスカを取り出してかじりつく。
 日が沈むまでにはもう少し時間がある。
 二人の夕飯はスープになったらしい。クラウディオは鍋の上でまな板を使わずに野菜をナイフで切り取って直接鍋に放り込んでいる。ヴィートは何か香草ハーブっぽいものと一緒に干し肉を鍋に入れていた。

「二人とも料理は得意なの?」
「これくらい、普通だろう」
「自分で作ったほうが安上がりだからな」

 クラウディオは鍋の中をくるりとかき回し、浮き出たアクをすくって捨てている。
 絶対に私より上手だと思う。
 もし二人と一緒に王都に行くことがあったら、叔父さんのお店で料理を食べてみるのも楽しそうだ。
 しばらくすると、鍋に入れたハーブのいいにおいがあたりに漂い始めた。
 二人は出来上がった料理をさっそく木の器に盛り付け、パンと一緒に食べ始める。
 保存のために硬く焼かれたパンは、前世のふんわり、もちもちのパンを知っている私としてはあまり好みではない。
 でも、周りの人は特に気にすることもなく食べているから、それが普通なのだろう。
 鍋の中身が半分くらいまで減った頃、思わぬ闖入者ちんにゅうしゃが私たちの前に現れた。

「はら、へったぁ」

 よれっとした風体の少年が一人、ふらふらと焚き火に鍋に近づいてくる。
 薄汚れたマントを身につけている彼の目はとても大きく、かわいらしい顔をしている。声の低さから男の子だとわかるけれど、まるで女の子のように私には見えた。

「何か食べ物をわけてくれねぇ?」

 ぐぅと鳴ったおなかの音が聞こえた。
 あっけにとられている私をよそに、クラウディオとヴィートは視線で会話を交わしてうなずいた。
 クラウディオが手にしていた器にスープの残りを盛り付けて、少年に渡す。

「ありがとっ」

 少年はスプーンを手に、がつがつと器の中身をものすごい勢いで口の中に送り込んでいく。

「あせらなくても、まだある。身体に、よくない」
「んっ、でも、はら、へってて、んで、さぁ」

 少年は答えつつも、食べることはやめない。

「わかった。いいから、だまって、食え」

 クラウディオはあきれたように口を閉ざし、鍋を脇に避けてやかんを荷物から取り出した。

「ルチア、頼む」
「はいはーい」

 水だよね。
 青藍せいらん、ウォーター。
 水が満たされたやかんを、クラウディオが火にかける。
 ヴィートは何も言わないけれど、いつでも剣に手を伸ばせる体勢でいる。

「ぷはっ。ふゃー、うまかった。ありがとな、助かった」

 少年は料理を食べ終えると、急にしおらしくなって頭を下げた。

「名を名乗れ。あと、どうして、こんなとこに、一人で、いる?」
「俺はルフィーノ。星二つの魔法使いをしてる。えっと、どうしてこんなとこにいるかって言うとー、……仲間からはぐれたから?」

 ルフィーノと名乗ったこの男の子、ちょっとチャラい。
 食事をして落ち着いたのか、はぁ、とため息をつきながらおなかをさすっている姿は、それほど悪い人間には見えなかった。

「もっと、詳しく」
「えっとー、俺クエスト受注中で、パーティ組んでたんだよね。双剣士と弓使いと三人で。で、俺が回復職寄りの魔法使いでさ」

 ルフィーノは唇を尖らせつつ、説明を続ける。

「それは、パーティとして、あまり、バランスが、よくないな」

 そうなの?
 パーティでの戦い方がよくわかってない私は、どの辺がよくないのかわからずに首を傾げた。
 私の疑問に気付いたヴィートが口を開いた。

「普通、パーティを組むときは、盾持ちタンクと近接攻撃、遠隔攻撃、回復役ヒーラーの四人くらいが理想的だ。防御、攻撃、回復のバランスがいいからな」
「そうなんだ」

 だから迷宮ダンジョンを攻略するために、ヒーラーをパーティに入れたいって言ってたのか。今のところ私たちのパーティには回復役ヒーラーがいないので、ヴィートとクラウディオの怪我は傷薬とかを使って治しているみたい。
 私が納得したところで、ルフィーノが話を続ける。

大猪ワイルド・ボアの討伐クエストだったんだけどさ。最初は何とか倒せたんだけど、戦っているうちに回復が間に合わなくて、俺が魔力切れになっちゃって、たぶん意識を失ったんだ」

 魔力切れってつらいよね。わかる。

「で、気付いたら俺ひとりで、パーティメンバーはいなかった。俺の持ってた荷物も、全部なくて、ロッドしか残ってなくて……」

 話しているうちに、少年の顔はどんどんとうつむきがちになり、時折鼻をすすっている。

「とりあえず、コルシニに戻ろうと思って、ずっと歩いてたんだ。そしたら、いいにおいがしてきて……、あんたたちを見つけたんだ」

 少年の頬をぽろりと涙があふれて伝った。

「回復魔法だけは使えるから……、でも、さすがに腹へりだけはどうしようもなくてさぁ」
「まあ、生きててよかったな」
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