ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

文字の大きさ
49 / 81
第三部

森人の血を引く者

しおりを挟む
 完全にばれている。

「竜の姫……って、私のことですか?」

 ダメもとでとぼけてみる。

「ドラゴンの強大な魔力と気配は、たやすく隠しおおせるものではありませんよ?」

 宿の主人の笑みがさらに深くなる。
 わぁ、こわい。やっぱり無理か。

「だとしたら、どうします?」

 人生経験の少ない私が、彼をだまし通すのは無理そうに思える。

森人しんじんの血を引くフェルナンドと申します。竜の姫様のお名前をおうかがいしても?」
「ルチアだよ」

 森のような深い緑色の瞳がじっと私を見つめている。フェルナンドの落ち葉のようなハニーブラウンの髪はいかにも森人らしい色だ。

「ルチア様とお呼びしてもよろしいですか?」
「どうぞ」

 ルチアがうなずくと、フェルナンドは一気に距離を縮めてきた。

「ルチア様、何かお困りではないですか?」
「困りごと? 別にないよ。どうしてそんなことを聞くの?」

 フェルナンドの質問の意図をはかりかねて、私は首をかしげた。

「ならばよいのです。偉大なる御身が卑小なる人と旅をなさっているご様子。何か弱みでも握られ、御不自由されているのではないかと、心配していた次第です」
「ええ?」

 思いもかけない言葉に、私はなかなか状況がのみ込めずにいた。
 フェルナンドの目がようやく柔らかくほころんだ。
 今度は心からの笑みを浮かべている。目尻のしわが深くなっていた。

「ならばよかった。ですが、もし何かお困りのことがございましたら、このフェルナンドに申し付けくださいませ。森人の血を引く者として、少しでも御身の助けになれば幸いです」

 すごく大げさな言い方でわかりにくいけど、困ったことがあったら助けてくれるよってことでいいんだよね?

「別に、私は人の世を旅してみたいだけ。あなたの助けは必要ない、と思う」
「御身の役に立てることができず、残念至極にございます」
「なんか、その大げさなしゃべり方、やめてもらってもいい? 今の私はただの竜人で、星一つの冒険者なの」

 フェルナンドは片方の眉を器用に上げてみせた。

「やはりお仲間にはドラゴンであることは伏せて?」
「まあね。でもこれは父と母との約束だから」

 私は肩をすくめた。

「そうですか。私はルチア様の正体については決して他に漏らしたりなどいたしませんので、ご安心ください」
「そうしてくれると、助かる」

 彼の口をつぐませるために、最悪の手段をとることも考えていたけれど、どうにか回避できそうだ。
 今の私は人を殺めることにそれほど禁忌を感じていない。前世であれば考えられなかったことだが、現世がドラゴンである私の生存本能は強い。
 攻撃を仕掛けてくる魔物に対して、躊躇ちゅうちょする気持ちは露ほどもない。自分に危害を加える可能性があれば、人であろうと森人であろうと殺すことにためらいはない。
 フェルナンドが私の真意を知っているのかはわからないが、表面上は穏やかな笑みを浮かべていた。

「それじゃあ、あなたと私は今から宿の主人と宿泊客という関係で、いいよね?」
「もちろんでございます。おやすみのところ、お邪魔してしまい申し訳ございません。ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 大げさなしゃべり方をやめてほしいと頼んだけど、彼の話し方はほとんど変わらない。もともとそんな口調なのだろう。
 頭を下げて部屋を出て行こうとしていたフェルナンドを私は呼び止めた。気になっていることがあるのだ。

「ねえ、そんなに私竜人に見えないかな?」

 私に背を向けていたフェルナンドは、すぐさまくるりと振り返り、大きくうなずいた。

「残念ながら。森人の血を引く者は、親愛なるドラゴンの気配に敏感ですから。恐らく竜人の血を引く者も同じでしょうね」
「はあ……」

 私は思わずため息をもらした。
 コルシニのような大きな都市ともなると、様々な種族が集まってくる。ドラゴンと関わりの深い種族に対して、隠し通すのは難しいのかもしれない。
 私は今後の留意事項として心の隅に書き留める。

「ですが、人の世で暮らす森人や竜人の血を引く者はそれほど多くはありません。さほど心配はいらないのでは?」
「だといいなぁ」
「ちなみに、ルチア様はおいくつですか?」
「え、十五歳だけど?」
「十五! てっきり……、いえ、とてもお若くて……いらっしゃるのですね」

 む、声が震えてるよ。フェルナンドさん。ええ、言いたいことはわかりますとも。最近、自分でも少し子供っぽくなっている気がする。前世の記憶もだいぶ遠く感じるようになってきたし、もともとこっちが私の地なのかもしれない。

「ですが、もし困ったことがありましたら、なんなりとご相談ください。卑小なるわが身ではありますが、これでもギルドランク星四つを持っていたこともございます。引退してから数年は経っておりますので、少々ブランクはありますが、お役に立てるかと」

 星四つだなんて、かなりすごいんじゃないだろうか。私は驚きに目を瞠った。
 そんな私に、フェルナンドは気障ったらしくウィンクをしてみせた。

「……まあ、困ったことがあったら、相談する……かも」

 ないと思うけどね!

「では、失礼いたしました」

 私はフェルナンドが部屋から出て行くのを見届けて、しっかりと扉を閉め、ようやくほっと一息ついた。
 おそらく彼は私がドラゴンであることを黙っていてくれるだろう。
 森人の血を引いているならば、ドラゴンに対する畏怖や、敬愛の念は本能に近いレベルで刻まれているはずだ。
 とりあえず、もう少し魔力を上手に隠す練習だね……。トホホ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...