ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

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第四部

ギルドマスターのお話

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 ギルドはかなりの人でごった返していた。
 緊急クエストを受注し、迷宮で魔石を手に入れたのであろう冒険者たちが、買い取り窓口に殺到している。
 パーティを解散したり、新しいクエストを確認したりする人もいて、この様子だとけっこう待たされそうだなぁと、うんざりする。

「ヴィットーレ様!」

 ギルドの入り口近くで冒険者の整理をしていた職員が、私たちに気付いて声を上げた。
 一瞬呼ばれた名前に心当たりがなくて首を傾げる。
 あ、ヴィートのことか!
 職員の手招きする仕草に、私たちは人並みをかきわけて、どうにか職員の前にたどり着く。

「昨日はお疲れ様でした。ギルドマスターから皆さんが来たらすぐに案内するようにと命令されていますので。さあ、こちらへどうぞ」

 私たちは立派な革張りのソファが置かれた応接室へ通された。

「マスターがすぐに参りますので」

 ふかふかとした座り心地のソファに深く腰掛けて、足をプラプラさせながら、ギルドマスターが来るのを待つ。

「魔石の査定が終わったのかなぁ?」
「いい値段がついてるといいな……。だが、買取の話であればわざわざギルドマスターが出てこなくても済むことだ」

 ヴィートが浮かない顔で呟いた。
 クラウディオとルフィも黙り込み、みんな深刻そうな表情をしている。
 あれ? なんにも心配してなかったのって、私だけ?
 やがてギルドマスターであるヴィヴィアーナさんが現れた。

「すまんな。待たせたか?」

 女性にしては大柄な身体をきびきびと動かして、私たちの前にあった一人用のソファに腰を下ろす。

「それほど待ってはいない。それで、お忙しいギルドマスターがわざわざなんの用だ?」

 厳しい表情を変えないヴィートに、ヴィヴィアーナは苦笑した。

「ならばさっさと用事を済ませようか。まず、魔石と地長竜ファフニールの査定は終わった。大発生の根源となっていた迷宮の主の討伐報酬と合わせて、このあと私の部下から渡すことになっている。それから、お前たちのギルドランクを昇格させる。どちらかというとこちらが本題だ」

 ヴィヴィアーナはそう言って、私たちが話を理解する時間を与えるように黙った。

「ギルドランクの昇格だって?」

 ルフィは目を白黒させている。

「それで?」

 少し驚いていた様子のヴィートだったが、すぐに冷静さを取り戻し、ヴィヴィアーナを見据えた。

「ヴィットーレは星四つのため、これ以上の昇格には他のギルドマスターの承認が必要だ。紹介状を渡すので、他のギルドでギルドマスター渡してくれ。二箇所以上のギルドマスターから承認されれば昇格となる」

 星五つになるのって結構大変なんだぁ、と私は他人事のように聞いている。実際他人事なのだけれど。

「次に、クラウディオ。三つから四つに昇格だ。師匠メンターとしての実績も申し分ない。それからルフィーノ、星二つから三つに昇格だ」

 星三つまでは割りと簡単に昇格できると、以前クラウディオに教えてもらった。

「そして、ルチアについては異例のことだが……星一つから三つに昇格となる」
「はあ?」
「えぇ?」

 突然のヴィヴィアーナの爆弾発言に、みんなが色めき立つ。
 一気にランクが二つも上がるなんてあるんだろうか?
 私の疑問を代弁するかのように、それまで黙ったままだったクラウディオが口を開いた。

「当然、理由を、聞かせて、もらえるのだろうな?」

 ヴィヴィアーナは当然だとうなずく。

「ギルドとしてもこれは異例の決断だ。大発生を治めたのが星一つの初心者を含むパーティでは、他の冒険者に対して説明がつかない。しかも上級魔法を使える貴重な魔法使いだ。星一つのままにしておくのはよろしくない。ギルドが冒険者に対して正当な評価を与えていないことになってしまう。よって、今回の判断となった」

 私はギルドマスターの説明にごくりとつばを飲み込んだ。
 ギルドランクが上がるのはうれしいけど、単純には喜べなさそうだ。ちょっと、大事になってない?

「迷宮の主を倒したことで、お前たちの名が周囲に知れ渡るのも時間の問題だ。少しでもギルドランクが上のほうがなめられることは少ないだろう。余計なを生まないための措置でもある」
ってどういう事?」

 どうして私たちが迷宮の主を倒したことが余計な問題を生むことになるのか、意味がわからない。

「自分よりもランクが下、つまり弱い奴が迷宮の主を倒したなんて信じられないって奴はどこにでもいる。つまるところはただの嫉妬だな」

 ふん、とルフィが鼻息荒く言い捨てた。

「嫉妬は悪い面ばかりでもないさ。その感情が自分を次の段階ステージへと進化させる原動力ともなる」

 ヴィヴィアーナの言葉をヴィートがさえぎる。

「そんな説教めいた台詞はどうでもいい。それより、俺たちが迷宮の主を倒したというのは、伏せておくことはできないだろうか?」
「なぜだ? 迷宮の主を討伐したとなればかなりの名誉だろう?」

 ヴィヴィアーナ私たちの願いが気に入らなかったらしく、鼻白はなじろんでいる。

「そんなもの私たちは求めていないことぐらい、ギルドマスターならわかっているだろう」

 ヴィートとヴィヴィアーナはにらみ合ったまま会話が続く。

「お前たちのパーティが迷宮から出てきたところを目撃しているものは少ない。伏せておくことが可能か否かで問われれば、可能と答える」
「ならばそれで頼む」

 どうしてヴィートがそんなことをギルドマスターに頼むのか、私にはわからなかった。たぶんさっきヴィヴィアーナが言っていた問題と関係するのだろう。
 だけど二人の会話に口を挟める雰囲気ではないので、私はおとなしく口をつぐんでいることにする。

「まともな冒険者ならそんなことは引き受けないだろう。その分は討伐報酬から差っ引くからな。その辺についてはあとで苦情を言ってきても受け付けないぞ?」
「かまわない」

 ヴィートが重々しくうなずく。

「まったく、手間を増やしてくれることだ」

 ヴィヴィアーナはため息を隠そうともせずにそう言うと、ソファから立ち上がった。

「話は以上だ。ああ……、それからルチア」

 部屋を出て行こうとしていたヴィヴィアーナが、ふいに何かを思い出した様子で足を止める。

「いい武器を扱っている店はあとで部下に案内させよう」
「ありがとうございます」

 そういえばそんなことも頼んでいた気がする。

「ではな。お前たちの旅路に幸多からんことを」

 片手を上げて去っていくヴィヴィアーナは、いかにもギルドマスターにふさわしい貫禄を放っていた。
 圧倒的な存在感が遠ざかって、私は思わず息をほっとこぼした。
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