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突然、美花に呼ばれた浜口の対戦相手だった選手がステージに上がる。
その人も夕の倍ほどある腕をしている。
「え~と、私はなぜ呼ばれたのですか?」
「それは簡単です。私が夕ちゃんの実力を見てみたいからです! 握手する感覚で二人とも力を入れてもらっても良いですか?」
純粋の力比べである。
アームレスリングも力のぶつかり合いであるが、その中には色々な技があり力より技で勝つ事もある。
だが今から始めるのは純粋の己の力のみである。
「わかりました」
「まぁ、よろしく」
夕と男性はお互いに握手をする。
純粋に技術無の力勝負である。
「それではお願いします!」
夕の手に圧力がジワジワ加わって来る。
だが、夕は痛くないのか表情が変わらない。その逆に男性は歯を食いしばりながら腕に力を入れているのが良くわかるほど筋肉が動いている。
「もう限界か?」
夕の手に掛かっている圧力を押し返す様にゆっくりと手に力を加え始めると、男性の表情の雲行きが悪くなり始める。
「イッ!? ちょっ!」
あまりの痛さに男性は膝を床に付け耐えるが、それもつかの間である。じわじわと襲い掛かる痛みに耐えられなくなる男性は悪い事をして親に捕まえられた手を振りほどこうとする子供の様に見える。
とうとう男性は両手で夕の手を振りほどこうとするが、まるで鉄の様に固く、体重をかけても夕は動く素振りも見せない。
「っと。悪いね。つい面白くなっちゃって」
「お~ いてぇ、 ホントその細身でどれだけの力を……」
美花は夕の相手である男性の行動に唖然と見ているばかりであったが、ふと我に戻る。
「疑っていたけど、本当に力持ちなのですね。夕さんの秘密もきになりますね。何をすれば筋肉質にならないで力持ちになる方法を?」
夕は美紀に近寄る。
「そんなに知りたいのなら、今夜家にでも来るかい? 君みたいな可愛い子は大歓迎だね」
顎クイをされた美花はすべてを見透かされているのでは思うほどの瞳で見つめられた男勝りの夕の爽やかな表情に頬を赤くする。
まるで恋愛ドラマの一部のシーンに見えるが、視線を下にずらせば同性である事が少し残念であるが、一部の性癖 持ちの観客はすごい勢いで黄色い声を上げながらスマホの写真を連続撮影してフォルダーに納める。
今回のイベントは想像以上の出来事が多く、最後に晶の歌った曲で観客、審査員、参加者達の心を揺さぶる歌を歌い晶の歌を聞いた人間は号泣し始め、大会をめちゃくちゃにしたのであった。
ミューズプリンス女性限定の歌職。
回復職の派生職業で、ある隠しイベントを達成する事で職業になれる。
回復はもちろん歌を歌い仲間の能力を底上げや状態異常を掛けるのを得意分野となる職業である。
歌を得意とする職業の晶が歌えば状態異常の耐性の無い人間はダイレクトに心を揺さぶられる。
春がテーマの歌を歌った晶の声を聴いた者はそれぞれの懐かしい記憶や苦い思い出などを思い出す者が多かったのだろう。
大会が終わっても泣き止む事の出来ない者も多数おり、逃げるように晶達は商品を受け取りその場を逃げるように退散した。
濃い一日も終わり、日も暮れ全員と別れた晶と夕は薄暗くなった土手沿いの道を歩いている。
「温泉はいつ行くよ?」
「ん~ 甲子園終わったら行く? その頃だと疲れてそうだし」
「確かに炎天下での応援は疲れそうだな。行く予定無かったのに……」
晶は家でプロ野球の試合とかを見るので、甲子園で学生が全力をだして戦う試合を見られることに楽しみにしているけど、夕はスポーツを見るよりかは自分がしたい派なので、あまり興味をしめさないのだ。
「まぁ夕は見るよりしたい派だもんね」
太陽も沈み街灯も無く近くにあるマンションやアパートの光が灯す薄暗い夜道を歩いている最中に晶の足が止まり、後ろを歩いていた夕が晶にぶつかる。
「急に立ち止まってどうした?」
「前から変な人? が歩いてこっちに向かって来ているよ」
晶の言葉に夕は目を細めて正面を見る。
アパートの部屋から漏れる光に照らされた者の姿は昔の武将が着ている鎧を着ており、ガシャガシャと音をたてながら二人に向かって歩いて来る。
「鎧武者?」
「何かのドッキリか?」
顔はお面でもしているのかはっきりと見えないが、目の所が隙間から赤黒い目が見える。
外国のドッキリで夜道を歩く人を驚かす動画があり、ピエロの格好した男性が脅かすという企画を見た事がある二人は、そういった企画をしているのだろうと思い、純粋に驚く所を見せるべきか悩んでいた。
だが、あまり空気を読まない夕は晶より前に歩き始めると鎧武者と距離を詰める。
「何かの企画ですか?」
「……」
すでに何かの企画だと思った夕は無警戒に近づいて企画を壊す勢いで声を掛けるが、相手は無反応である。
夕はすでに暗くなった場所でカメラを探し始めると鎧武者は何かに反応すると、ゆったりとしたペースで腰に差している刀に手を置くと素早い勢いで抜き払うと刀身が夕を襲う。
完全にカメラを探す事で無警戒であったが、月夜に照らされた事で光った刀身が迫っている事に気がつき持ち前の身体能力でどうにか躱す。
刀を抜く速度は人間が出せる居合の速度を超えていた。
上半身を後ろに倒して躱した事で夕の顔の上を刀身が通過する時に風を切る轟音をあげていた。
「あぶな!!」
上半身を起こして驚く。
「イタッ!」
なぜか一秒ほど遅れて晶の声が聞こえた事に夕は晶に駆け寄ると、血は出ていないが晶の着ている服に刃物で切られた跡が禍々しく残っている。
鎧武者の神速の攻撃で斬撃が晶に飛んで行ったのであった。
「あれ絶対に人間じゃないでしょ!? 生身の私だったらこの世とおさらばしているよ!」
すでに自分が人間では無いみたいな言い方をする晶であるがなまじ間違いでは無いだろう。
「おぉっ、それだけ元気そうなら怪我の心配もないか?」
晶を心配そうに見るが、晶はおもむろに杖を取り出し詠唱をはじめると、晶の体の周りに光が集まり始める。
「ターンアンデット!」
白銀の杖を地面に打ちつけると綺麗な金属音が周囲に溶け込むと、鎧武者の地面から円形の光が夜空に向かって伸びる。
「オオォォオォォォオオォ!!」
悲痛な叫び声がこだまする。
地面の魔法陣が収まり、先ほどまで居た鎧武者の姿は無く、夢だったのかと思わせるほどである。
まるでゲームの世界に迷い込んだのかと思われるほどの出来事であるが、そもそも自分達の性別が変わっている事が一番の不思議な現象だという事は気がついていないだろう。
その人も夕の倍ほどある腕をしている。
「え~と、私はなぜ呼ばれたのですか?」
「それは簡単です。私が夕ちゃんの実力を見てみたいからです! 握手する感覚で二人とも力を入れてもらっても良いですか?」
純粋の力比べである。
アームレスリングも力のぶつかり合いであるが、その中には色々な技があり力より技で勝つ事もある。
だが今から始めるのは純粋の己の力のみである。
「わかりました」
「まぁ、よろしく」
夕と男性はお互いに握手をする。
純粋に技術無の力勝負である。
「それではお願いします!」
夕の手に圧力がジワジワ加わって来る。
だが、夕は痛くないのか表情が変わらない。その逆に男性は歯を食いしばりながら腕に力を入れているのが良くわかるほど筋肉が動いている。
「もう限界か?」
夕の手に掛かっている圧力を押し返す様にゆっくりと手に力を加え始めると、男性の表情の雲行きが悪くなり始める。
「イッ!? ちょっ!」
あまりの痛さに男性は膝を床に付け耐えるが、それもつかの間である。じわじわと襲い掛かる痛みに耐えられなくなる男性は悪い事をして親に捕まえられた手を振りほどこうとする子供の様に見える。
とうとう男性は両手で夕の手を振りほどこうとするが、まるで鉄の様に固く、体重をかけても夕は動く素振りも見せない。
「っと。悪いね。つい面白くなっちゃって」
「お~ いてぇ、 ホントその細身でどれだけの力を……」
美花は夕の相手である男性の行動に唖然と見ているばかりであったが、ふと我に戻る。
「疑っていたけど、本当に力持ちなのですね。夕さんの秘密もきになりますね。何をすれば筋肉質にならないで力持ちになる方法を?」
夕は美紀に近寄る。
「そんなに知りたいのなら、今夜家にでも来るかい? 君みたいな可愛い子は大歓迎だね」
顎クイをされた美花はすべてを見透かされているのでは思うほどの瞳で見つめられた男勝りの夕の爽やかな表情に頬を赤くする。
まるで恋愛ドラマの一部のシーンに見えるが、視線を下にずらせば同性である事が少し残念であるが、一部の性癖 持ちの観客はすごい勢いで黄色い声を上げながらスマホの写真を連続撮影してフォルダーに納める。
今回のイベントは想像以上の出来事が多く、最後に晶の歌った曲で観客、審査員、参加者達の心を揺さぶる歌を歌い晶の歌を聞いた人間は号泣し始め、大会をめちゃくちゃにしたのであった。
ミューズプリンス女性限定の歌職。
回復職の派生職業で、ある隠しイベントを達成する事で職業になれる。
回復はもちろん歌を歌い仲間の能力を底上げや状態異常を掛けるのを得意分野となる職業である。
歌を得意とする職業の晶が歌えば状態異常の耐性の無い人間はダイレクトに心を揺さぶられる。
春がテーマの歌を歌った晶の声を聴いた者はそれぞれの懐かしい記憶や苦い思い出などを思い出す者が多かったのだろう。
大会が終わっても泣き止む事の出来ない者も多数おり、逃げるように晶達は商品を受け取りその場を逃げるように退散した。
濃い一日も終わり、日も暮れ全員と別れた晶と夕は薄暗くなった土手沿いの道を歩いている。
「温泉はいつ行くよ?」
「ん~ 甲子園終わったら行く? その頃だと疲れてそうだし」
「確かに炎天下での応援は疲れそうだな。行く予定無かったのに……」
晶は家でプロ野球の試合とかを見るので、甲子園で学生が全力をだして戦う試合を見られることに楽しみにしているけど、夕はスポーツを見るよりかは自分がしたい派なので、あまり興味をしめさないのだ。
「まぁ夕は見るよりしたい派だもんね」
太陽も沈み街灯も無く近くにあるマンションやアパートの光が灯す薄暗い夜道を歩いている最中に晶の足が止まり、後ろを歩いていた夕が晶にぶつかる。
「急に立ち止まってどうした?」
「前から変な人? が歩いてこっちに向かって来ているよ」
晶の言葉に夕は目を細めて正面を見る。
アパートの部屋から漏れる光に照らされた者の姿は昔の武将が着ている鎧を着ており、ガシャガシャと音をたてながら二人に向かって歩いて来る。
「鎧武者?」
「何かのドッキリか?」
顔はお面でもしているのかはっきりと見えないが、目の所が隙間から赤黒い目が見える。
外国のドッキリで夜道を歩く人を驚かす動画があり、ピエロの格好した男性が脅かすという企画を見た事がある二人は、そういった企画をしているのだろうと思い、純粋に驚く所を見せるべきか悩んでいた。
だが、あまり空気を読まない夕は晶より前に歩き始めると鎧武者と距離を詰める。
「何かの企画ですか?」
「……」
すでに何かの企画だと思った夕は無警戒に近づいて企画を壊す勢いで声を掛けるが、相手は無反応である。
夕はすでに暗くなった場所でカメラを探し始めると鎧武者は何かに反応すると、ゆったりとしたペースで腰に差している刀に手を置くと素早い勢いで抜き払うと刀身が夕を襲う。
完全にカメラを探す事で無警戒であったが、月夜に照らされた事で光った刀身が迫っている事に気がつき持ち前の身体能力でどうにか躱す。
刀を抜く速度は人間が出せる居合の速度を超えていた。
上半身を後ろに倒して躱した事で夕の顔の上を刀身が通過する時に風を切る轟音をあげていた。
「あぶな!!」
上半身を起こして驚く。
「イタッ!」
なぜか一秒ほど遅れて晶の声が聞こえた事に夕は晶に駆け寄ると、血は出ていないが晶の着ている服に刃物で切られた跡が禍々しく残っている。
鎧武者の神速の攻撃で斬撃が晶に飛んで行ったのであった。
「あれ絶対に人間じゃないでしょ!? 生身の私だったらこの世とおさらばしているよ!」
すでに自分が人間では無いみたいな言い方をする晶であるがなまじ間違いでは無いだろう。
「おぉっ、それだけ元気そうなら怪我の心配もないか?」
晶を心配そうに見るが、晶はおもむろに杖を取り出し詠唱をはじめると、晶の体の周りに光が集まり始める。
「ターンアンデット!」
白銀の杖を地面に打ちつけると綺麗な金属音が周囲に溶け込むと、鎧武者の地面から円形の光が夜空に向かって伸びる。
「オオォォオォォォオオォ!!」
悲痛な叫び声がこだまする。
地面の魔法陣が収まり、先ほどまで居た鎧武者の姿は無く、夢だったのかと思わせるほどである。
まるでゲームの世界に迷い込んだのかと思われるほどの出来事であるが、そもそも自分達の性別が変わっている事が一番の不思議な現象だという事は気がついていないだろう。
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