チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

まきノ助

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第1章 アストリア王国に転生

47 シュヴィーツ地方の異変

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 サンクトガレン城は高原の高台に建っています。
 レオポルド侯爵領に成ってから増築もされました。
 高原を西へ下って行くと、渓谷から続く川向こうはもうフランク王国です。

 国境は川だけですが国交は有りません。
 非友好国として大国が常に睨み合っているのです。

 しかし大橋が有り、冒険者ギルドや商業ギルド等の発行する査証ビザを持つ者は国境の大橋を渡る事が出来ます。
 役人や軍人は基本的に渡れませんが、事前に通告があればこちら側の騎士や兵士に付き添われて、入国交渉をする事が出来ます。
 ただし、必ずしも入国できるとは限りません。

 川の流れは急ですし、冬に成ると雪が積もり凍ります。

 
 フランク王国の東側の国境に面した高原地帯は『シュヴィーツ地方』と言われています。
 そのシュヴィーツ前領主のアランフォード辺境伯は、秘密裏にアストリア王国レオポルド辺境伯領への侵攻を目論んでいました。
 しかし、マリエルの活躍により失敗を重ねて、責任を取らされて解任されてしまったのでした。

 今は新しい領主のレドロバートが辺境伯として赴任しています。
 アランフォード前辺境伯はマリエル誘拐に失敗して、更にサンクトガレン城も失って、フランク王国で処刑されてしまったのでした。

 新任のレドロバート辺境伯は闇属性魔法を得意としているそうです。
 光属性と闇属性は相対する属性とされていますので、聖女?マリエル対策として選ばれたのかも知れないと言う話でした。

 彼は、対バリタニア王国戦や対プルトガル王国戦で闇属性魔法を駆使して功績をあげて、辺境伯へと出世したらしいのです。
 彼の得意とする戦法は、闇属性魔法で魔物を引き寄せて敵国に攻め込ませるというものだと聞かされました。


 〇 ▼ 〇


 レドロバート辺境伯は就任してからまず最初に、領地の民の愛国心や忠誠心や貢献度を調べました。
 すると、シュヴィーツ地方の民はフランク王国への忠誠心が薄くて、民族独立意識が高く、征服者であるフランク王国に、やむを得ず屈服しているだけだったのです。

 納税意識が低く、アストリア王国への対抗心も無く、あるのはフランク王国への不満ばかりだったのですが、それは当然の事でした。
 シュヴィーツ地方の民は度重たびかさなる重税と徴兵で、フランク王国の横暴に爆発寸前だったのです。
 フランク王国がバリタニア王国やプルトガル王国やアストリア王国に侵攻する度に、先陣として駆り出され、兵糧を供出し、父や兄等家族の男手が戦死して、食糧難に成っていくのでした。


「ふむ、このような状態ではシュヴィーツで徴兵してアストリア王国と国境を争うのは難しい……、闇属性魔法で魔物を引き寄せて、サンクトガレン城に攻め込ませるとしよう」

 レドロバート辺境伯は、闇属性魔法で作った魔道具の『災厄の偶像』を森深くに運び。オーガ、オーク、ゴブリンの巣の近くに設置しました。
 『災厄の偶像』は、魔物の発情と繁殖を促し、成長と進化を早める闇属性魔法を放出し続けるのです。
 普通の人間には見えない、禍々まがまがしい黒い霧が森にあふれていきました。



 およそ1年後、彼は魔物の数が増えたのを確認すると、闇属性魔法【スタンピード】で魔物達をアストリアとの国境近くに引き寄せ始めました。
 しかし、魔物達が予期せぬ悪性の疫病を持っていた為に、国境に1番近い街ヴィンタートゥールで疫病が流行してしまったのです。
 そして、その疫病で死んだ人間がゾンビに成り、住民を襲い始めました。
 なんと疫病はゾンビウイルスだったのです!
 レドロバート辺境伯もゾンビウイルスに付いては計算外で、自らもゾンビに追い駆けられて、命からがらフランク王国に逃げ去ったのです。


 シュヴィーツ地方と言われる広大な高原地帯には、ヴィンタートゥール、ルツェルン、フリプール、べルーンと言う4つの大きな街があります。

 フランク王国では本国に疫病が広がらない様に、フランク王国とシュヴィーツ地方の間に検問所と壁を作り、隔離政策を取ってシュヴィーツの住民を見捨てました。
 フランク王国側で完全に隔離すれば、アストリア王国側に魔物とゾンビが向かうのではないかと楽観的な憶測をしたのです。

「アストリア王国へ魔物とゾンビが向かわなくても良い。反抗的なシュヴィーツ地方の民など全滅しても構わぬのだ。その後はフランク王国から民を入植させれば良いではないか」

 レドロバート辺境伯は側近達にそう言いました。


 〇 ▼ 〇


 雪が降り川が凍り始めた頃、サンクトガレン城からもシュヴィーツ地方の異変が見えました。

 サンクトガレンの城からは、遠くにシュヴィーツ地方のヴィンタートゥールの街が見下ろせるのです。
 ミミリル王女の父で兎人族の王であるラジャルに、物見の兵から報告が入りました。

「王様、ヴィンタートゥールの街に異常が見られます。火事や暴動が発生しているようです」


 サンクトガレン城はアストリア王国に帰属したので、フランク王国内に干渉出来ません。迷宮の場所や魔物の分布に付いてはハッキリ分かりませんでした。

「密偵を出して情報を集めてきなさい」

「畏まりました」


 ダンジョンの魔物はダンジョン核により湧きますが、地上での大量発生は繁殖による所が殆どだそうです。
 しかし、その様な場合は人里離れた場所で発生するのが通常だという事です。何故かと言うと、街に近ければ魔物が増える前に冒険者や狩人に狩られてしまうからだということでした。
 

 密偵が戻って来てラジャル王に報告します。

「街にゴブリン、オーク、オーガが侵入して、襲われた人間がゾンビに成っています。そしてゴブリン、オーク、オーガが無人になった家を住処すみかにしています。ゾンビは人肉を求めて街から外へ出て、アストリア王国にもフランク王国にも向かって来ていますが。既にフランク王国は完全隔離の防御姿勢を取っていました」

「ゾンビは魔物を襲わないのか?」

「はい、ゾンビは生きた人族を襲い、魔物には興味を示していません」

「そうか……」


 シュヴィーツの住民が魔物やゾンビから逃れて、凍っている国境の川を無断で渡り、サンクトガレンの城下街にのがれてきました。
 更にその住民を魔物やゾンビが追い駆けて来ています。


 王女ミミちゃんは無線ブローチでマリエルに緊急連絡を入れました。

「マリエル様、魔物や疫病から助けてくださいませ。光属性魔法の使い手がここには居ないのです」

「は~い、急いで行きますから待っててねぇ」



 又、別の密偵が戻って来てラジャル王に報告しました。

「ゾンビがシュヴィーツ地方の各街を襲っています。魔物が疫病と共に街から街へ移動して、死んだ動物もゾンビになり次の街へ向かっているのです。人も獣も、死んだもの全てがゾンビ化している様です」


 何処の地域でも、領境にはよく盗賊が出ると言われています。
 レオポルド侯爵領もアストリアとフランクの国境に接している為、盗賊が出没しますし棲家もあるようでした。
 私達は住民を守る事は出来ますが、盗賊は勝手気儘に行動する為に、ゾンビウイルスに伝染してしまったとしても把握する事ができないのです。
 その盗賊達も次々とゾンビに成り、街中に侵入してパンデミックを加速させてしまったのでした。


【後書】
 話の中の地勢図はヨーロッパ地図を参考にしています。
 アストリア王国はオーストリア、シュヴィーツ地方はスイス、フランク王国はフランス辺りです。
 この小説はフィクションですので、実在の国家、団体、政治、宗教とは一切関係ありません。
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