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第2章 アリタリカ帝国に留学

71 エリザとエリシャナのF級クエスト

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 私達のパーティの前では、『未踏のダンジョン』6階から10階までの魔物も強くありませんでした。私が手を出さなくても、皆が魔物を簡単に倒していったのです。


 6階はホブゴブリン・ウエアウルフが出現しました。

 7階はウエアウルフ・グールが出現しました。

 8階はグール・死霊が出現しました。

 9階は死霊・ラミアが出現しました。

 10階はラミア・バンパイアが出現しました。


 私達は10階まで殆どの魔物を一撃で倒して、何の不安も感じずにボス部屋らしき扉の前に辿り着きました。

「御嬢様から頂いたミスリル製の武器は、死霊系の魔物にも有効なので大きなダメージを与えているようですわ」

「それは良かったですわね、エリザ」

「はい」


「それではボス部屋に入る前に、体力と魔力と健康状態を再確認して下さいね」

「「「はい」」」


 私達は誰も居ない10階最奥のボス部屋らしき空間にパーティ全員で入ります。
 ガラ~ンとした部屋の中央近くに進むと、勝手に扉が閉まりました。

 ギギギギィィィッ、バタンッ!


 中央に魔方陣が浮かび上がり魔物が現われます。

 ズズズズズゥゥゥゥゥゥンッ!


 10階のボス部屋にシャドウナイトが出現しました!

「エイッ!」
「ヤアァァァッ!」
 ボワッ、ドォォォンッ!

 エリザ、エリシャナ、サッチャンがシャドウナイトに対して攻撃を繰り出します。


「食らえええっ、俺のロングソードの一撃だあああっ!」

 ケンちゃんが大きな声と共に、シャドウナイトの魔核にミスリル製のロングソードを突き刺しました。


『グギャアアアアアッ!』

 10階のボス部屋のシャドウナイトをあっけなく倒しました。


「皆さんお疲れ様でした」

「「「おつかれさまでしたぁ!」」」


「今回も簡単でしたが、今日はこれで帰りましょう。改めて、11階へ行く準備をしてから又来ましょうね」

「「「は~い」」」

 マリエルのパーティはケンちゃんの【転移門】で地上に戻りました。





 次の日、エリザとエリシャナは再び冒険者ギルドを訪れました。『未踏のダンジョン』11階の情報を仕入れるためです。
 ついでにF級冒険者としての義務も果たさなければ成りません。何もしなければ、やがて資格を剥奪されてしまうからです。

「エリザお姉様、マリエル御嬢様が学院で勉強してる間に、F級冒険者の課題クエストを受けて実績を積みましょう」

「そうですね。情報収集も必要ですがクエストも受けましょう。クエストを進める中で情報も得られるかも知れませんしね」

 2人はクエストボードで依頼表を眺めます。


『未踏のダンジョン11階のビートルを倒しビートルの角を10本納品する事』


「エリザお姉様、これで良いのではないですか? ついでに11階の情報も得られますよ」

「2人だけで大丈夫でしょうか? 私達は土属性の低級魔法しか使えませんし、治癒魔法が使えないのですよ」


「御嬢様が作ったポーションを持って行けば、治癒魔法が使えなくても良いと思いますけど?」

「そうですね。御嬢様のポーションは下手な治癒魔法より強力ですからね。お屋敷に帰ってポーションを用意してからダンジョンに行きましょう」



 2人は転移用の魔道具でローザンヌのグリュエーレ城に転移して、倉庫にむかいました。
 転移用の魔道具はマリエルからマリエル騎士団全員に支給されています。
 何処にでも行ける訳ではありません。設定されている数箇所の場所にしか行けないのです。この魔道具も結構希少価値が有るもので、マリエルが作った物でした。

「お姉様、一応治癒系のポーションを一通りバッグに入れて置きますね」

「エリシャナ、これは御嬢様が以前に使っていたマジックバッグです。荷物が沢山入りますから、これに入れて持って行きましょう」

「赤いランドセルですか……それを私が背負っていくのですか?」

「嫌ですか? 恥かしいのですか?」

「えぇ、ちょっと恥かしいです。お子様用ですよね」


「金貨200枚以上する高級魔道具なんですから我慢しなさいね。高級ブランドバッグより遥かに高価なんですから」

「はい……分かりました」(ショボン)

 騎士学校で教育を受けたエリシャナは、姉であり先輩でもあるエリザに口答えをする事が出来ませんでした。


「それと、この黄色の帽子も被るのです。低学年生は登下校の必需品だそうです」

「お、お姉様、本気ですか? 私は19歳ですよ。それは10歳児用です」


「防御力+3の効果が付与されているのです。それとこの給食袋も持ってください。食べ物が腐らないのです」

「うぐっ、それも低学年生用じゃないですかっ!」


「でも時空魔法で時間停止が付与されているのです。これも金貨100枚以上の価値があるのですよ。御嬢様が使わなくなって勿体無いから、こういう時にでも使わないと『宝の持ち腐れ』になってしまいます」

「そ、そうですか。仕方ありませんね」

 エリシャナはキュッと下唇を噛みました。


 マリエルが低学年時に着用していた魔道具で、エリザはエリシャナをコーディネイトします。

「まぁ、エリシャナ。結構似合ってますよ、可愛いです」

「お姉様……これって変なプレイじゃないですよね?」

「何を言ってるの! 実用性が高くて可愛いのですから文句言わないのよ」

「……はい」


 赤いランドセルに黄色の通学帽と給食袋を持ったエリシャナが、エリザに隠れるようにダンジョン入口に並びました。

 ふと視線を感じて、エリシャナは後ろを振り向きます。
 すると、後ろにいた男が急いで横を向いて視線を逸らしました。

(くうううっ、恥ずかしいいいっ! 高価な装備ですから、希少価値があるのですから)

 俯き、顔を赤くしながら、エリシャナは自分自身に何度もそう言い聞かせました。
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