チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

まきノ助

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第3章 魔族王国の迷子令嬢

93 ノスロンド領主軍の襲撃

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 敵も考えなしで襲っては来ません。
 A級冒険者パーティーに無策で勝てるとは思っていないのです。
 地の利、時の利を活かして作戦を練っていました。

 領主アッコロカムイの代官で虎人族長のダリハリは、太陽を背にする様に谷の上に陣取っていました。
 囚人護送車は北から南へと街道を進みますので、私達が顔に太陽の光を受けて、眩しくなるだろうと予測していたのです。


 ダリハリは部隊長達を整列させて作戦を説明しました。

「敵はA級冒険者パーティーである。対する我が兵士達はDもしくはE級冒険者相当の強さであろう。しかし、部隊としての作戦行動訓練は十分に積んでいるはずだ。接近戦を避けて谷上から弓を射て、敵が身怯すくみ乱れた所を谷を駆け下り突入するのだ。腹背にも兵を潜めて配置せよ、谷上と前後から同時に攻められればA級冒険者パーティーと言えど壊滅するはずである。以上!」

「「「はっ」」」


 領主はマリエル達を亡き者にする為に、千人もの兵隊を投入したのでした。
 彼らは街の人々に気付かれない様に、前日に領軍の宿舎をそれぞれ別々に出て、襲撃予定の谷に集合していたのです。


 〇 ▼ 〇


『いや~ん、日焼けしちゃいますぅ』

「アダモちゃんはゴーレムなんだから、日焼けしないでしょっ!」

 私達は西に傾き始めた午後の日差しを眩しそうに仰ぎ見ました。


『でも、御嬢様ぁ。年頃の女の子は日焼けを気にするものと、本に書いてありましたぁ』

「そうね……知識としては合ってるけどぅ……」


『私も可愛く成りたいのですぅ』

「あら、十分可愛いわよ。それよりもアダモちゃん、敵の襲撃があるかもしれないから、記憶喪失になる前の私の戦い方を教えて頂戴な」

『はい、御嬢様ぁ』


 アダモはマリエルに、自分の覚えてるマリエルの戦闘スタイルと、サチコに教え込まれたマリエルとの連携シュミレーションの内容を教えました。
 サチコは、アダモがマリエルの護衛としてふさわしい活躍が出来るようにと、シュミレーションをして教え込んでいたのです。
 2人は馬車の中で、襲撃された時の為の戦闘スタイルの確認を始めました。



 『タイガーケイブ』リーダーのジルベルトが、『ベアーファング』リーダーのドリーに声を掛けます。

「そろそろ、例の谷に近づいてきたぞ」

「あぁ、やっぱり襲ってくるとしたら、この先の谷が1番怪しいよな」


「乱戦になったら俺達『ベアーファング』は【凶戦士】バーサーカースキルを発動するから、あまり近づかないでくれよ」

「あぁ、例の奴だな、分かった分かった。『ベアーファング』に巻き込まれない様に、お嬢ちゃん達も少し距離を保ってくれ」

「「は~い」」


 ミレーヌが私にヒソヒソと話しかけます。

「あの人達って凄いのよ、まるで別人みたいに暴れるのだから、遠くから見ていた方がいいのよ」

「はい」


『アダモも暴れたいですぅ』

「アダモちゃんなら、彼らと一緒に暴れても大丈夫かもね」

『ヤッタ~! 御嬢様、アダモの活躍を見ててくださいねぇ』

「うん。でもあまり可哀想な事はしないであげてね、相手は魔物ではなくて亜人の兵士なんだから」

『は~い』



 ◇ ◆ ◇



 私達を乗せた馬車が、ゆっくりと谷間の街道を進んで行きます。


 マリエル達を谷間に十分に引き込んでから、代官で虎人族長のダリハリが号令しました。

「十分に引き付けて……よしっ、弓を射てぇぇぇぇぇっ!」

 15メートル程の谷上から、私達が乗っている先頭の馬車目掛けて、一斉に矢が放たれました。

 ザアアアアアアアアアアッ!


 騎乗の者は馬車に接近してくっ付きます、攻撃を両側から受けない為なのでした。
 冒険者パーティメンバーは用意してあった盾を構えます。
 しかも馬車の屋根は幌ではなく木製で、鉄枠で補強もされていました。
 矢による被害は心配ありませんでしたが……、


 シュィイイイイインッ!

 何と、私を中心に魔法陣が展開して、美しく光って回転しだしたのです。

 ヒュヒュヒュヒュヒュゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 ドームの様な【オートマルチリフレクションシールド】に跳ね返されて、全ての矢が放った兵士へと逆戻りして飛んで行き、鋭く襲い掛かりました。

 ヒャアアアアアッ!
 ウッワアアアアアッ!

 グサッ、ドカッ、ブッシュッ……!

 ウギャアアアアアッ!
 ヒギャアアアアアッ!


 矢を避けた兵士もいましたが、まさか矢がすぐに射返されるとは思っていなかったので、被害は甚大でした。
 私のシールドは、攻撃した者に魔力補正で的確に矢を返したので、避ける事は難しかったようです。
 ただし彼らも鎧を着ていますし、剣ではなく細い矢なので、致命傷になる者は少なかったようですが。矢傷を受けた兵士達の士気は、ダダ下がりだったのでした。


 そんな事には気が付かずに、弓矢の奇襲攻撃が成功したと思っている敵の伏兵達が、槍襖やりぶすまを作って前後から突入してきました。

 それを見て、ジルベルトが号令します。

「弓矢がんだから、外に出て馬車を背にして迎え撃とう」

「「「オゥ」」」


『ヒャッホオオオオオッ!』

「あっ、アダモちゃん。みんなと一緒に……行っちゃったぁ……」


 アダモは、前から横並びで槍襖を構えながら向かって来る兵士達に、武器を持たずに突撃して行きました。

『こちらのお方をどなたと心得こころえおるぅぅぅ!』

 ドカカカカァァァッ!

 アダモに突き掛った槍は全て折れて、アダモの回し蹴りが敵兵を次々と吹き飛ばしていきます。

 ドカッ、バキッ、ズガッ、グシャッ……、


『私の大好きなマリエル御嬢様で、あらせられるぞおおおっ!』

 ドカッ、バキッ、ズガッ、グシャッ……、

 アダモは突き出される槍ごと蹴り折って独楽こまの様に回し蹴りを繰り出します。


『ええいっ、頭が高あああい。控えおろおおおっ!』

 ドカッ、バキッ、ズガッ、グシャッ……、

 兵士達は控えるどころか、次々と地面に力なく沈んでいきました。


 ジルベルトが遠い目をしてアダモを眺めていましたが、ふと我に返り。

「前はアダモ1人で十分だ、俺達は後ろの兵士を迎え撃つぞ!」

「「「オゥ」」」

 ジルベルト達は背中から攻撃されない様に、馬車を背にして敵兵を攻撃します。


「矢と魔法で遠距離攻撃に徹するぞ!」

 槍を構えて横に広がりながら向かって来る兵士に攻撃を開始しました。
 相手の兵士達は魔法が使えないのでしょう。槍を構えてひたすら突撃してきます。


「奇襲が失敗してるのだから、あきらめて逃げれば良かったのに……可哀想だなぁ」
 と、私は呟きました。


 一方、谷上では傷の浅い兵士達が態勢を整え、こちらに下りてこようとしていました。

 それに気付いた私は、土属性魔法を唱えます。
「【土砂崩れ】!」

 シュィイイイイインッ!
 ズズズズズゥウウウウウンッ!

 谷上の兵士達が、突如地面が崩れて谷底に落ちてきました、土や石に巻き込まれて大惨事です。

 ドドドドドオオオオオオオオオオンッ!
「「「ウギャアアアアアアアアアアッ!」」」


「まぁ大変、こんなに凄いと思わなかったわ、助けに行かないと!」

 私は1人で、土砂崩れに巻き込まれた敵兵士達を助けに行きます。

「あっ、お嬢ちゃん、まだ早い、危ないぞ!」


 私をまだ無事な兵士が襲ってきますが、シールドが勝手に反撃して敵を倒してしまいました。
 私は敵の攻撃を気にせずに、大怪我をしている兵士を助け続けます。

「あっ、ありがとう、お嬢ちゃん」
「すまねぇな」


 そんな私に気付いて、ダリハリが襲い掛かかってました。

「石よ、小娘に向かって飛び穿て【石弾】ストーンバレット!」

 私を襲った【石弾】が、【オートマルチリフレクションシールド】によりダリハリに跳ね返されます。

 ドガッ!
「グワァッ!」


「邪魔しないでっ、敵将を【ブラインド】!」

 ピッキイイイイインッ!

「ゥガアアアッ! 目があああっ」


 そこへ、アダモが戻ってきて、ダリハリに延髄蹴りを入れました。

 ドッコオオオオオンッ!

 ダリハリは数メートルも吹っ飛んで、あえなく気絶してしまいました。


 ドリーが呟きます。

「おいおい、俺達はまだ【凶戦士】バーサーカーに成ってないんだが……」


 ヒュゥゥゥゥ……、

 静かに成った谷間に、風が吹き抜けていきます。
 千人の軍兵は、アッと言う間に沈黙してしまったのでした。
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