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第8話 可愛いでしょ?○○

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 里奈が絶賛錯乱中!
 正直言って、こんなにあやかしを怖がるとは思っていなかったよ。

 生首猫ちゃんでこれだと、店内の至る所に生首が転がってるバージョンだったら、終わってたね。
 危ない危ない。
 バックヤードに移動させといて良かったぜ。

「摩子ぉ。何なんだよあれ。
 リアル過ぎないか?」

 ワタシに縋り付く里奈。
 イケメン女子に頼られるのは、悪くない気分だね。

「大人しい子だから大丈夫だよ」

「大人しいとか言うなぁ!
 作り物じゃないって言ってる様なもんじゃんかよぉ!」

 作り物ではないよね。
 作られ物?謎の力で出来ちゃった物?
 あやかしって不思議だから成り立ちすらわからないよね。

「うふふふ。大人しい子達だから大丈夫よ」

「持ってるじゃん!あの人、手で持っちゃってるじゃん!」

 手で持ってると言うか、膝の上に置いて撫でてる?
 妖さんは結構生首ちゃんがお気に入りなのか、撫で撫でタイムを楽しんでる時間が多め。
 今はうさちゃんヘッドを撫で撫でしながらニンジンスティックを食べさせてる。
 髪で8割隠れてるけれども。

「妖さん、あやかしビギナーに生首は刺激が強いみたい。
 あの子呼んであげて。」

「うふふふ。わかったわ」

 いつもの様に手の動く招き猫の動きであやかしを呼ぶ妖さん。
 ビビる里奈。
 壁から現れるわんちゃん。

「ぎゃぁぁ!壁をすり抜けてる!おばけぇぇ!」

 里奈はリアクション大きいな。
 ここまで来ると、何だか可哀想になってきたよ。

「大丈夫だよ。ほら、壁はすり抜けるけど普通の可愛いわんちゃんだよ」

「壁をすり抜ける時点で普通のわんちゃんではない!」

 そいつはごもっともです。

「でもほら、普通の可愛いマルチーズだよ!
 空は飛ぶけど触るともふもふで気持ち良いよ!」

「空も飛ぶのかよ!
 摩子は普通の意味を小学生から学び直せ!」

「普通とは、変わっていないこと。
 ありふれたものであること。また、そのさま」

「辞書に書いてるような普通の説明はいらんわ!
 今、この状況が普通じゃないって言ってんの!」

 おお、里奈がちょっと持ち直して来たな。
 今ならいけるんじゃない?

「里奈!今!その興奮状態でこの子を撫でてみて!
 案外、割と意外と普通に可愛いから!」

「物凄い保険掛けてないか!?
 あれ?意外と普通?
 ちょっとひんやりしてるけど、大人しいわんちゃんって感じかも」

 よしよし。
 この子ぐらいだったら、あやかし初心者でも触っちゃえば意外といけるんだよ。
 それはワタシで実証済みだからね。

「フリードリンク付けてるし、何か飲み物飲む?
 持って来るよ」

「あ、ああ。ならコーラを頼むよ」

 あやかしカフェにはドリンクサーバーは流石に無くて、スタッフに注文してバックヤードで用意したドリンクを持って来る方式。
 現状の客入りだとドリンクサーバーの飲み物とか延々と劣化しそうだから、手間はあるけれどもこっちの方が合ってるだろうね。

 里奈が大人しいわんちゃんを撫でてる間に、ワタシはコーラを用意しにバックヤードに来たんだけど。

「ぎゃぁぁぁああ!お腹が出てるぅぅ!」

 里奈、その子はお腹が出てるんじゃなくって、お腹の中身がはみ出てるんだよ。
 なんて冷静なツッコミが届くはずもなく、ふれあいスペースに戻るとわんちゃんが気ままにフライングしてた。

 里奈は少し前のワタシの如く、見事な半目である。
 見慣れれば、ちょっとはみ出してるなぁってぐらいにしか感じなくなるんだけどね、あれ。

 うーん、どうしよう。
 このままだと折角店に来てくれた里奈があやかし嫌いになってしまうかもしれない。

「あはははは!わんちゃんがね!お空、飛んでるの!」

 店の評判を上げる為にも、どうにかして、恐怖で幼児退行してしまった里奈をあやかし沼に引きずり込まなければならない。
 ワタシもあんまり入りたいとは思っていないあやかし沼に。

 そうだ!

「里奈って猛禽類好きだったよね?
 妖さん、あの子!あの子を呼んで下さい!」

 里奈ならゴリ押しでいけるんじゃね?とか思ってたから忘れてた。
 やっぱり沼に引きずり込むなら、好きな物から入るのが理想の形かもしれない。

「ほら里奈、見て見て!
 フクロウとか好きだったよね!?
 あやかしカフェならフクロウが触り放題だよ!
 正気を!正気を取り戻せ里奈ぁぁ!」

 ワタシの呼び掛けに、半目だった瞳に光が宿る。

「フクロウは好きだ!
 この丸っこい感じが可愛いし、顔は格好良くて最高だよな!」

 よし、完全に戻ったな!

「この子なら腕に直で止まらせても痛くないんだよ!」

「それは凄いな!どれ、あたしにもやらせてくれよ!」

 やや現実逃避してる疑惑はあるけれども、腕に止まったフクロウ君を嬉しそうに撫でる里奈。
 好きな物なら生き物だろうとあやかしだろうと、そこに違いなんてないんだよね!

 そして里奈は120分ギリギリまで大人しいフクロウ君を撫でまわして。

「そろそろ時間かな。
 怖い思いも一杯したけど、案外楽しかったよ」

 そう言ってフクロウ君を両手で抱えると愛おし気に顔をじっと見て。

 あ、まずい。

「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」

「ぎゃぁぁぁああ!やっぱり化け物だぁぁぁああ!」

 ここのフクロウ君、人間の赤ちゃんの声で鳴くから物凄い不気味なんだよね。


第8話 可愛いでしょ?猛禽類
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