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異常

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 両親が共働きの伊織の家には、妹の小春がいた。
 どうやら伊織の通う高校よりも早く、中学校の始業式を終えて帰宅していたらしい。

 小春は伊織より一つ年下の14歳。クラスで一番背が低くて可愛いと評判の美少女である。
 伊織はリビングで昼食を食べていた小春にただいまを言ってから制服を着替えに自室へ戻ろうとした。
 しかし小春に呼び止められて、その場に残ることとなる。

「お兄ちゃん。小春のパンツ1枚足りないんだけど、間違えて穿いてないよね?」

 男であり体の大きさも随分と違う伊織に対して、洗濯物にパンツが紛れてしまったのではなく、穿いているのではないかというぶっ飛んだ質問を浴びせた小春。
 誰もが“そんな筈ないやろ”と思わず関西弁でツッコんでしまう質問に、伊織もノータイムで返事をした。

「いやいや、流石に可愛い妹のパンツを穿いてたら気付くだろ。いくら何でも失敬だぞ」

「そうだよね。お気に入りのパンツだったのに何処行っちゃったんだろう?」

 伊織の言葉に納得して、首を傾げた小春。
 常識的に考えるならば、母親の下着の中に紛れてしまった可能性が高いだろうか。
 少なくとも伊織が穿いているなんて可能性は、万に一つもないだろう。ある筈がない。

 伊織は話が終わったとして、さっさと部屋着に着替えようと身を翻し、自室に向けて一歩を踏み出した。
 その瞬間、股間の辺りを強烈な違和感に襲われた。

「あれ?何だか股間の辺りがきついような…」

 その場でカチャカチャとベルトを外してチャックを下ろし、ズボンも下ろしてシャツの裾を捲った伊織。
 すると小春はガタっと椅子を素早く引いて立ち上がった。

「あー!やっぱり私のパンツ穿いてるじゃん!」

 そう。伊織の下半身を体に合わぬ布面積で隠していたのは、お尻の部分にクマさんのキャラクターがついた白いパンツだった。
 どこからどう見たってサイズ感が合っていないし、これを穿いたまま平然と高校の入学式に出ていたなんて、驚愕である。

「そう言えば今朝パンツの中に紛れてたから、ワンチャン穿けるかなと思って試したんだった。すまんすまん。洗って返すよ」

「返してくれれば良いけどさぁ。ちょっと歩き方おかしくなってるし、次からは気を付けた方がいいよ」

「おう。気を付ける」

 お気に入りのパンツを穿いていた兄をゴビ砂漠のように寛大な心で許してみせた小春。
 中学3年生にして、ここまで器の大きな女の子もなかなかいないだろう。
 そんな妹の成長を嬉しく思った伊織は、新しくイチゴ柄のパンツでも買ってあげようと心に決めたのであった。
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