Genius≒Pervert~最強バンド、伝説への序章

伊瀬カイト

文字の大きさ
7 / 20

理解不能

しおりを挟む
「何なんあいつ!何度誘っても全っ然首を縦に振らないんだが!?」

 岡稔琉は都内にある自宅の自室で、大声を上げて嘆いていた。
 ここは楽器の練習をする為に、吸音材と遮音シートを使って自分で防音室に改造した部屋である。
 なので、多少大きな声を出しても近所迷惑にはならない。…筈だ。

 因みに昔は迷信を信じて吸音材の代わりに卵の紙パックを壁に張り付け、防音した気になっていたのは稔琉の黒歴史である。

 話は逸れたが、稔琉が嘆いているのは元日本オナニー最前線のヴォーカリストだった仮性神こと亀頭伊織についてだ。

 稔琉が。会ったこともない伊織を知っていたのは妹の影響だった。
 元々は流行りの音楽にしか興味はなかった妹の里菜は、自分の影響でいつからかロックを聴き始めた。
 その妹が最近熱を上げているクソ野郎がどんな奴かと動画を見てみたら、滅茶苦茶に頭のおかしい奴らだった。

 最近の日本ではあまり聴かないゴリゴリにヘヴィなサウンドで、楽器隊の演奏は同年代とは思えない程に上手い。
 しかしそんな中でも明らかな異彩を放っていたのは、そんな楽器隊を従えて歌うフロントマンの仮性神だった。

 滅茶苦茶なMCからライブを始めて、定点からの遠目の映像で見ても、メンバーすらも呆れさせている。
 歌詞は壊滅的であり、1曲の中にどれだけ多くチンコという単語を入れられるかを誰かと高いレベルで競い合いでもしているのかと思えるくらいの下劣さ。
 それでも伊織のフロントマンとしての存在感は、他に類を見ないものだった。

 バカと天才は紙一重という言葉があるが、それよりもさらに一歩踏み込んだ“変態と天才は紙一重”を地で行く男。
 そんな異常な同学年の変態は、ある意味でどこまでもロックだった。
 ライブ・イン・コテカとか訳の分からないことを言いだしてステージの袖に捌け、角みたいなケースで股間だけを隠して出てくる奴なんて、同年代には他にいない。いてたまるか。あんなの、殆んど全裸じゃないか。

 妹から日本オナニー最前線が解散したことを聞かされた時に心を撫で下ろしたのは、もう二度と妹の口からオナニーなんて下品な言葉を聞かなくて済むと思ったからだった。

 解散をしたならば、またバンドを組むこともあるだろう。
 まあ、異常に癖が強い奴なので、運命共同体とも言えるバンドメンバーとして付き合える人間は限られるだろうが。それでもあいつならば、また新しくバンドを組んでも、ぶっ飛んだ音楽とパフォーマンスをやらかすのだろう。
 持ちし者の大失策。才能の無駄遣い。
 知り合いでもない赤の他人なので、そこに自分は縁がないだろうなと稔琉は思っていた。

 それがどうだ。
 高校に入学したら同じ学校に動画で見た仮性神がいた。
 ライブハウスのフロア後方から撮影した定点映像でしか顔を見たことはなかったが、それでも稔琉があいつだと気付けるだけの存在感があった。

 放課後に声を掛けてバンドに誘ってみたが、返事は貰えずじまいで既に2週間が経過している。
 稔琉はかなりピアスの穴を開けていて、見た目はチャラいし厳ついのでクラスでも浮いた存在である。
 本人の性質的に怖いタイプではないのだが、入学したばかりでは稔琉の人となりなんて周りは知る由もない。

 そんな稔琉とも普通に接して…ウザ絡みする伊織の存在は、稔琉が孤立しない意味ではありがたいが、一向にバンドの誘いに返事をする気配はない。
 口を開けば女子の話題ばかりで、ギャルなクラスメートの下着の色がどうだったとか、柄がどうだったとか、担任のパンツを覗きにいったら顔を踏まれたとかそんなことばかり。
 見た目の割には硬派な稔琉には全く理解出来ない人種だった。
 入学早々担任教師のスカートの中を覗こうとする奴がいるか?って話である。

「はぁ…俺にはもうわからんから里菜に聞いてみるか?」

 妹の里菜も伊織と繋がりがある訳ではなさそうだが、少なくとも自分よりは詳しいだろう。
 そう考えた稔琉は、早くも最終手段として里菜を頼ることを考えた。
 しかし、どんな反応をするか読めないので、伊織と同じ学校だったことは里菜には伝えていない。
 そこから繋がりが出来て、万が一あんなヤバい奴が義理の弟にでもなったら、死ぬほど面倒臭そうだと考えたからである。

「俺はあいつが本物だと思う。だから一緒に演ってみたい。
 あいつの話によく出るギャルって大人っぽい感じだし、年下の里菜には興味を持たないだろう。
 よし、聞いてみよう!」

 稔琉はDIY防音室となっている自室から出て隣の部屋のドアをノックした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...