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ライブの後①

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「とんでもないライブだった…。こいつらのライブ、カロリー高過ぎだろ…」

 そう言って、口から魂が抜け出てるのではないかと錯覚するほどに放心状態の稔琉。
 隣にいる里菜も、運動をした訳でもないのに興奮で息が上がっている。

 数週間前までは日本オナニー最前線というふざけた名前のバンドをやっていたVOLCANYOSは、とんでもない実力派バンドだった。
 次のバンドを見に来た客も、その次のバンドを見に来た客も。
 会場中を巻き込んで一体とさせた圧巻のパフォーマンスは、最初から最後まで濃縮されまくったライブの時間であった。

「次に出るバンドが可哀想だねぇ」

 そんな言葉を呟く者が出るのも仕方がない。

 今日は新人バンド限定の企画ライブである。
 デモテープを提出する必要はなく、ライブハウス側は一番若いからという理由で一番手にVOLCANYOSを持ってきたのだ。
 多少ライブの経験があったとしても、ちょっと上手い学生バンド程度の出演者しか集まらないだろうと高を括っていたら、突然にとんでもない怪物が現れてしまった。

 これは確認を怠ったライブハウス側のミスなどではなく、VOLCANYOSがあまりにも規格外過ぎたのが原因なので、誰も悪くはない。
 例えリハーサルの時点で拙いと気付いたとしても、既に出演順を発表している状況では変更など効かない。
 そんなことをすれば突然の出演時間の変更で、見に来た客からクレームを受けることになるだろう。

 そもそも一番手のリハーサルは最後にやるので、気付いた時には時すでに遅しだったのだが。
 だた、ステージに繋がる前室で次の出番を待つバンドが、プレッシャーで吐きそうになっているのが、あまりにも可哀想なだけの話である。

 まさか新人バンドのライブで、どう見ても年下の少年少女が圧倒的な演奏を披露するだなんて思ってはいなかったし、そのすぐ後にライブをすることになるなんて心構えは出来ていない。
 あんなライブを目にしてしまったら、学生の素人バンドなど見る気も聴く気も起きないだろう。
 いや、逆にほのぼのと微笑ましく見て、“普通はこんなもんだよな”と応援してくれるかもしれないが。

 VOLCANYOSのライブが終わって、ちらほらと店を出る人々がいる。
 彼ら彼女らはVOLCANYOS目当てだったか、あまりの高カロリーなライブを味わって満足した客だろうか。
 もしくはライブの熱にあてられて外の空気を吸いに行ったか。

 数分経ってBGMが70年代の伝説的ロックバンドの音源に切り替わった時、前室からVOLCANYOSのメンバーが出てきた。
 それを待ち構えていたかのように、ライブを見た多くの客から声を掛けられている。
 凄かったとか熱かったとか。早速VOLCANYOSのSNSアカウントをフォローしたとか。
 芸能人でもないのにサインや握手を求められてもいて、それだけ彼らの演奏が観客に大きな衝撃を与えたのが理解出来る。
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