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ライブの後②
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「すげー良かったぜ!」
そう言ってリョウとダンに、背後から肩を組んだのは伊織である。
バンドが解散して伊織だけが弾かれたような形だったので、不仲なのかと想像していた稔琉は、その楽しそうな光景が意外だった。
伊織がVOLCANYOSに対する賛辞を、まるで自分が言われたかのようにリアクションする悪ふざけを始め、部外者なのに女の子をナンパし始めたことで集まっていた者達が離れていく。
何と空気を読まない男なのだろうか。
そうは言っても、当のVOLCANYOSのメンバーはホッとした様子なので結果オーライなのだろう。
リョウとダンは伊織に肩を組まれてテーブルに連れていかれ、マオはドリンクを注文しにカウンターに向かう。
そこで稔琉がマオに話掛けた。
「あの!凄かったっす」
素直な賛辞をマオに伝える稔琉。
思わず中途半端な敬語になってしまったのは、あの途轍もない演奏を披露したVOLCANYOSの対してのリスペクトからだった。
同学年とわかっている相手に自然と敬語を使うのは、どうにも負けた気になって情けない気持ちになるが、大きな目標として尊敬の念を抱いてしまったのだから仕方がない。
マオは稔琉の声に気付いて振り向いた。
ステージ上で受ける照明はかなり熱いはずだ。
そのステージの上で、ほぼMC無しの激しいライブをやったというのにマオは涼しい顔をしていて、青く染めた髪も乱れた様子はないことに稔琉は驚いた。
マオは僅かに笑みを浮かべてから口を開いた。
「ありがとう。最前列で見てた人だよね。そっちの女の子もいつもありがとう。まあ、君の本命はいおちんだろうけど。楽しんで貰えた?」
そう言って稔琉に礼を言ってから、マオは里菜に目を向けた。
里菜は稔琉の背中に隠れるようにして少しだけ顔を出し、ブンブンと縦に首を振る。
どうやら憧れの人から話掛けられて、喋れなくなっているらしい。
「あー、すいません。家族とは普通に喋るんですけど人見知りで」
「そうだったんだ。家族ってことは兄弟なの?いつも来てくれる可愛い女の子が彼氏連れてきたってメンバー内でちょっと話題になってたんだけど」
マオにそう言われて稔琉は返事をしようとすると、既に里菜が猛烈な勢いで横に首を振っていた。
どうやら絶対に稔琉が彼氏だなんて思われたくないらしく、必ず誤解を解いきたいという強固な意志を感じる。
「ま…まあ、お客さんを連れてきてくれてありがとうね」
その様子に少々戸惑いつつも、同年代とは思えない落ち着いた対応を見せるマオ。
既に稔琉の心はVOLCANYOSライブを見て満足してしまっているが、ここにきた本来の目的を果たすことにした。
マオはステージ上で見るよりも随分と話しやすそうだし、伊織をバンドに誘う上で的確な助言を貰えるかもしれないと直感したからだ。
「あの。実は俺、亀頭伊織とバンドを組みたいと思っているんですが、ずっとはぐらかされてて。
どうしたらあいつをその気にさせられますかね?」
そう言った稔琉に対し、マオは表情を変えて物色するように稔琉を頭から足までじっくりと見た。
そして稔琉の手を取って掌を触り始めた。
「ふんふん。なるほどなるほど。
ちょっと外で話そうか。その前に一杯だけドリンク飲んでくるから待ってて」
「あの…」
ドリンクを飲んでくると言ったマオに、里菜が震える手でドリンクチケットを差し出した。
「いいの?」
差し出されたチケットを受け取って少し驚いた様子のマオと首を縦に振り続ける里菜。
「ありがとう!」
マオは礼を言ってから里菜の頭を撫でて、カウンターでドリンクと引き換えると、それを一気に飲み干した。
「ふぅ、生き返ったー!それじゃあ外に出よう」
VOLCANYOSの次の出演者がセッティングを終える頃、稔琉と里菜はマオに続いてライブハウスを出た。
そう言ってリョウとダンに、背後から肩を組んだのは伊織である。
バンドが解散して伊織だけが弾かれたような形だったので、不仲なのかと想像していた稔琉は、その楽しそうな光景が意外だった。
伊織がVOLCANYOSに対する賛辞を、まるで自分が言われたかのようにリアクションする悪ふざけを始め、部外者なのに女の子をナンパし始めたことで集まっていた者達が離れていく。
何と空気を読まない男なのだろうか。
そうは言っても、当のVOLCANYOSのメンバーはホッとした様子なので結果オーライなのだろう。
リョウとダンは伊織に肩を組まれてテーブルに連れていかれ、マオはドリンクを注文しにカウンターに向かう。
そこで稔琉がマオに話掛けた。
「あの!凄かったっす」
素直な賛辞をマオに伝える稔琉。
思わず中途半端な敬語になってしまったのは、あの途轍もない演奏を披露したVOLCANYOSの対してのリスペクトからだった。
同学年とわかっている相手に自然と敬語を使うのは、どうにも負けた気になって情けない気持ちになるが、大きな目標として尊敬の念を抱いてしまったのだから仕方がない。
マオは稔琉の声に気付いて振り向いた。
ステージ上で受ける照明はかなり熱いはずだ。
そのステージの上で、ほぼMC無しの激しいライブをやったというのにマオは涼しい顔をしていて、青く染めた髪も乱れた様子はないことに稔琉は驚いた。
マオは僅かに笑みを浮かべてから口を開いた。
「ありがとう。最前列で見てた人だよね。そっちの女の子もいつもありがとう。まあ、君の本命はいおちんだろうけど。楽しんで貰えた?」
そう言って稔琉に礼を言ってから、マオは里菜に目を向けた。
里菜は稔琉の背中に隠れるようにして少しだけ顔を出し、ブンブンと縦に首を振る。
どうやら憧れの人から話掛けられて、喋れなくなっているらしい。
「あー、すいません。家族とは普通に喋るんですけど人見知りで」
「そうだったんだ。家族ってことは兄弟なの?いつも来てくれる可愛い女の子が彼氏連れてきたってメンバー内でちょっと話題になってたんだけど」
マオにそう言われて稔琉は返事をしようとすると、既に里菜が猛烈な勢いで横に首を振っていた。
どうやら絶対に稔琉が彼氏だなんて思われたくないらしく、必ず誤解を解いきたいという強固な意志を感じる。
「ま…まあ、お客さんを連れてきてくれてありがとうね」
その様子に少々戸惑いつつも、同年代とは思えない落ち着いた対応を見せるマオ。
既に稔琉の心はVOLCANYOSライブを見て満足してしまっているが、ここにきた本来の目的を果たすことにした。
マオはステージ上で見るよりも随分と話しやすそうだし、伊織をバンドに誘う上で的確な助言を貰えるかもしれないと直感したからだ。
「あの。実は俺、亀頭伊織とバンドを組みたいと思っているんですが、ずっとはぐらかされてて。
どうしたらあいつをその気にさせられますかね?」
そう言った稔琉に対し、マオは表情を変えて物色するように稔琉を頭から足までじっくりと見た。
そして稔琉の手を取って掌を触り始めた。
「ふんふん。なるほどなるほど。
ちょっと外で話そうか。その前に一杯だけドリンク飲んでくるから待ってて」
「あの…」
ドリンクを飲んでくると言ったマオに、里菜が震える手でドリンクチケットを差し出した。
「いいの?」
差し出されたチケットを受け取って少し驚いた様子のマオと首を縦に振り続ける里菜。
「ありがとう!」
マオは礼を言ってから里菜の頭を撫でて、カウンターでドリンクと引き換えると、それを一気に飲み干した。
「ふぅ、生き返ったー!それじゃあ外に出よう」
VOLCANYOSの次の出演者がセッティングを終える頃、稔琉と里菜はマオに続いてライブハウスを出た。
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