ハゲエルフ~薄毛率0%のエルフなのに禿げた

伊瀬カイト

文字の大きさ
19 / 29

第18話 ハゲエルフとパンタロン

しおりを挟む
 ハーゲルンが身に着ける服や下着はお手製である。

 大魔樹林たいまじゅりんにハーゲルン以外の人種族は存在しないのに加え、服や下着は毎日洗濯していれば劣化して数年も経てば擦り切れて使えなくなる。故にハーゲルンが自分自身で見繕うのが自然の流れだった。

 当然、今穿いているパンタロンもハーゲルンの手で作ったお手製である。

 パンタロン。フレアパンツやベルボトムとも呼ばれるズボンは、膝下から裾に掛けてカーブを描きながら広がっていく、主にロックミュージシャンが好むズボンである。

 ハーゲルンのパンタロンは食用にもされる薬草を乾燥させて繊維をほぐし、一本一本の繊維を丁寧に編み上げた上質な布を使っている。

 縫製にも拘り、ハーゲルンが半年も掛けて作り上げたパンタロンは、その前衛的な形も相まって、一体幾らの値が付くのか想像するのも難しい逸品だ。

 普段は作務衣風の服に身を包んでいるハーゲルンにとって、パンタロンを穿く日は、ほんのちょっぴりお洒落を楽しみたい気分なのである。

 こんな日のハーゲルンは、辺り一面ひしめき合う精霊を引き連れて、少し遠くまでピクニックに出掛けるのだ。

『ね…ねぇ…ねぇ…あっちに…何かの…気配が…するよ…』

 ねっとりとした声色でそう伝えたのは、全身を黒でコーディネートしている闇の精霊。闇の精霊は小柄だが、顔がブラックホールみたいなので若い見た目なのか老いた見た目なのか判断が付かない。

 あまり自己主張をしない闇の精霊が声を掛けたのだから、相当な事だ。

 ハーゲルンはそう考えて、闇の精霊が指差す方へ足を進めると、そこには髪を縦ロールに巻いた金髪の少女が倒れていた。少女は薄汚れているがドレスを身に着けていて、それなりに身分の高い貴族であると想像される。

「大丈夫ですか?」

 声を掛けてから近付き、ハーゲルンが少女を抱え上げる。下手をすればセクハラで訴えられるかもしれないが、人命には変えられない時があるのだ。

 幸い少女には息があり、すぐに気付いた少女が口を開く。

 グーーーー

 口を開くより前に腹の虫が鳴った。

「な…何か…食べ物を…下さいませ…」

 ハーゲルンの手元に食べ物は無い。しかし、その明晰な頭脳を駆使して機転を利かせてみせる。

「僕のパンタロンをお食べ」

 何という優しさ。まるでお腹が空いた少年少女に自らの顔を差し出すパンのお兄さんのようだ。

「ちょ…むぐ…もご…食えませんわ!」 

 善意とは、時に冷たく踏み躙られるものである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...