NOT THE GAME~現実世界とリンクする

伊瀬カイト

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プロローグ

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 スライムを探して1時間も歩いているのだが、未だスライムとは戦えていない。
 だが、この1時間で新たに判明した事実がある。

 このNOT THE GAMEは、現実の街や人物がリアルに再現され、そこにステータスの概念やファンタジー武器、魔物などが現れるifの世界。
 且つ移動自由のオープンワールドだと俺は考えていた。

 のだが、どうやらその考えは間違いだった―――。

 柊と別れて10分。
 通っている高校の近くまで歩いて来て、俺の歩みは不思議な壁によって阻まれた。
 その壁は透明で、幾ら目を凝らしたって目視出来やしない。
 けれども確実に存在して、硬くも柔らかくもない。
 叩いても感触はあるが衝撃はなく、まるで【無】を叩いてるような感覚になる。
 銃で撃ってみても、青白く変化した光弾は、壁に当たると霧散した。

 壁は左右に広がっていて、そこだけは現実世界とは街並みが異なっていた。
 壁がある場所は4車線の道路で隔てられていて、手前側2車線の向こう側2車線。
 そこで俺は壁伝いに歩いてみたのだが、壁はある地点で120度曲がっていた。
 そこからずっと壁伝いに歩いて気付いた。

 どうやら俺は、正六角形と思われる見えない壁の範囲内に隔離されている、と―――。

 壁のすぐ向こうにスライムを見付けたが、近付いても襲われる事はなかった。
 前回俺が飲み込まれた距離まで近付いても、襲われる事はなかった。
 あまりにも危険な検証だったが、今後の為に必要な検証だったし、有用な結果が得られたと考える。
 この事から、こちらのプレイヤーやNPCが壁の向こうへ行くのも、あちらのプレイヤーやNPCが壁のこちらに来るのも不可能なのだろうと仮定出来た。

「ステータスにある所属エリアってのは、この壁の内側のことだろう。現状わかっている情報を整理すると、NOT THE GAMEのプレイヤーは所属エリア内を自由に移動出来る。エリア内には現実世界に存在する人間のプレイヤーと、NPCと、魔物がいる。魔物を倒すと宝箱のある扉が出現して、補助アイテムや装備品が手に入る。こんなところか。近所にどれだけプレイヤーがいるかわからないが、魔物の数は少なそうだ。ゲームでもこんなに平和だなんて、ここは日本かよ」

 誰かの『日本だよ』ってツッコミを期待したが、残念ながらここまで誰にもエンカウントしていない。

「1時間以上プレイヤーとも魔物ともエンカウントしないMMOってクソゲーかな!?」

 なんて嘆きながら壁沿いを進んでいると、120度曲がった先に待望の魔物を発見した。
 しかし残念ながら、と言うか何と言うか。
 魔物は既に他のプレイヤー?と交戦中。
 ここで攻撃を仕掛ければ、MMO界隈でマナー違反と嫌われる横殴りになってしまう。

「ここは素通りが吉かな」

 他プレイヤーの戦闘を見るのは初めてなので、後ろ姿をじっくりとチラ見しながら歩を進める。
 プレイヤーは長い黒髪を後ろでお団子にしている長身の女性。
 藍色と黒の袴を着ていて、武器は刀。
 服装も相まって侍って感じの見た目だ。

 魔物の方は角がある兎が2体。
 動きがやけに素早くて、抜群のコンビネーションで侍を翻弄している。
 侍の方も素早く動いて、右手に刀を、左手に鞘を持って、2体同時に相手をしている。

「いや、すげーな。お上手過ぎる」

 刀を使った戦や実践なんて起こり得ない現代日本において、未知の魔物にあれだけ肉薄出来る侍がどれだけいるだろうか。
 対人戦や魔物との戦闘を実践形式で訓練できるフルダイブVRって技術が一般的になった未来であったなら可能かもしれないが。
 そんな技術が存在しない現代日本であれをやってるのに驚かされる。

 宛ら異世界転生で謎に戦える様になった主人公の如く。
 あの侍は訓練無しで魔物と戦い、一刀流でも難しそうな刀という武器を扱って。
 実力拮抗で2体の攻撃を平気で捌いているのだ。
 そんなの有名剣術道場の師範クラスでもなければありえないのではなかろうか。

 最早チラ見などではなく、野次馬ぐらいバッチリ見てしまっている。
 不審者と間違われて通報されたりしないよね?
 これって何ハラにも当たらないよね?

 兎の頭の上にはENEMYとブラザーラビットRとブラザーラビットLの文字。
 RとLはRIGHTとLEFTか?
 常に2体セットで動く魔物なのだとしたら、今の俺がソロでやり合うのは厄介そうだ。

 30秒もあれば通り過ぎれる距離を5倍も掛けて歩いていると、戦局に変化があった。
 やはり慣れない二刀流なのだろう。
 鞘を持つ左手の動きがやや拙く、兎Rの突進を捌いた際に鞘を弾き飛ばされてしまった。
 侍はすぐさま刀を両手持ちに切り替えて、もう一体の兎Lに斬りかかった。
 斬撃は命中したが傷は浅く、兎Lは即座に体勢を立て直した。
 兎Rは背後に回って、攻撃のタイミングを見計らっている。

 正面と背後からの挟み撃ち。
 状況は最悪だ。
 2体の兎は同時に動き出し、前後から侍を仕留めに掛かる。

「後ろは任せて1体に集中しろ!」

 俺、参戦。
 流石に今の状況で横殴りを咎められる事は無いだろう。
 無いよね?
 あったらPKも視野に入れなきゃだよ?

「助太刀感謝する!」

 言質は取ったので、全力でいかせて貰う―――。

 俺の武器は銃。
 銃社会に生きる陽気なアメリカ人でもなければ、バケツサイズのアイスクリームをひとりで平らげるアメリカ人でもない俺には、5m以上の距離から必中で兎のどてっぱらをぶち抜く技術なんて無い。
 何ならフレンドリーファイアをやらかしそうだし、その可能性がありながら銃の引き金を引くだけの度胸も無い。

 ならばどうするか。
 距離を詰めて0距離で兎の横っ腹に弾をぶち込んでやれば良い。

 もうめっちゃ近くにいるからね―――。

 タァン

 幸い兎は侍の背中から腹に風穴を開けようと、死の空中散歩中だった。
 0距離でフレンドリーファイアをやらかしたら…その時は全力土下座で許しを請おうと思う。

 銃での0距離攻撃は流石に効く。
 侍の背中に向かっていた兎の進行方向が逸れ、ゴロゴロと地面を転がった。
 追撃は早いに限る。

 タァンタァンタァン

 今度は兎の横っ面に…もっと詳細に言うとこめかみに0距離で3発の弾をぶち込んだ。
 俺の銃は弾丸が発射される訳では無いので、貫通したりはしかった。
 だが、手ごとスライムの核を吹き飛ばすぐらいの威力はある。
 頭が弾け飛ぶような悲惨な事態にはならなかったが、完全に動きが止まったので倒せたのだろう。

 振り返ると侍も戦闘を終えたところで、兎が力無く転がっていた。

「私ひとりではやられていただろう。助かったよ。ありがとう」

 俺の方に向き直って会釈をした侍。
 その顔にはちょっと…いや、かなり見覚えがあった。
 思えば何故初めから名前をチェックしなかったのだろう。
 そこに思い至らなかったのは、彼女の戦闘に内心熱狂していたからだろうか。

 ブラックダイヤモンドのように澄み渡る美しさのある大きな瞳。
 通った鼻筋と丸過ぎず細すぎない端麗な輪郭。
 まるで美術品の様に各パーツが配置された造形美と美しい白磁の肌。

 思春期の青少年からすれば、動画のCMでスキップを忘れてしまうぐらいにインパクトを残す彼女は―――。

「東雲さん…。おっと、まずはどういたしまして」

 東雲鈴音しののめすずね
 俺が通っている高校の同学年。
 高校3年間で1度も同じクラスになった事は無いが、彼女はかなりの有名人なので、顔も名前も一致する。
 何せ只でさえ目立つ存在であるし、学区は違うが同じ市内に住んでいるのだ。

 東雲鈴音は陽キャや不良にすら美し過ぎて近寄りがたいと言われるぐらい、全校生徒の高嶺の花。
 かく言う俺も…中学時代は友人からB専呼ばわりされた俺ですら、軽い憧れを抱く程に綺麗な顔をしている。
 好きか嫌いかで言ったら10対0で好きだ。
 但し好みかと言われれば別の話になるのだが…。

 袴姿で刀を持つ東雲鈴音は、制作費数百億円のハリウッド映画から出て来たみたいに画になる。
 この俺が思わず見惚れてしまう程だ。

「成木原君だよね。お話するのは初めてだったかな」

「あの東雲さんが俺の名前を知ってるんですか?」

 まさか天下の東雲鈴音が俺の名前を知っているとは…。
 本気で驚きしかないんだが。

「どの東雲かはわからないけれど、この東雲は知っているよ。同学年ぐらいは全員の顔と名前を覚えるのが普通だろう?」

「全員ですって…?それ本気で言ってます?」

 無駄に目立ってる陽キャと悪目立ちしている不良だけならともかく、学年の半数以上にも上る有象無象まで覚えるっておかしくないか?
 俺だって割とモブ寄りと自覚しているからこそ、名前を呼ばれて驚いたんだぞ。

「ああ。何せいつ友達が出来る好機に恵まれるかわからないからね。その時に顔も名前も知らないなんて失礼だろう。私は生憎友達が少ないんだ」

「友達ですって…?」

 何だその理由。
 友達の名前って、友達になる時に覚えれば良いものじゃなかったのか?
 そもそも顔の良さだけでドラマの主演を張れるだけの見た目をしている東雲鈴音に友達が少ないなんて…。

 ん…?

 あれ…?

 うん、そうだな…。

「招木猫さん以外といる所を見た事がない…」

「そうなのだ!私が自信を持って友人と呼べるのはにゃんにゃんだけなのだ!」

 にゃんにゃんって招木猫の事か?

 初対面の人間にもダル絡み出来るミス社交性と呼ばれながら。
 気紛れで飽きっぽく。
 浅く広過ぎる人脈を持つと言われる、何と本名で招木猫。

 俺も何度か後ろから抱き着かれてにゃーにゃー言われた事があったな。

「だが、こうして成木原君と自然な形で知り合えたのは僥倖だった。怪しいだの危険だのと言われていたNOT THE GAMEに、両親の反対を押し切って登録した甲斐があったというものだ。成木原君。どうか私と友達になって欲しい。お願いだ」

「はぁ…?」

 この人…何だこの人…。
 他に類を見ない程の美人なのに、発言が絶妙にズレている。
 SNSで気軽にコミュニケーションが取れる今日日、こんなにも友達になるのが下手くそな人っているのか?
 それとも奇人変人の類なのか?
 奇人変人の招木猫と類友って考えれば、何だか妙に納得がいくが…。

『試練の扉:難易度VERY EASYが出現しました。プレイヤー東雲鈴音とプレイヤー成木原裕哉に優先入場権が与えられます。優先入場権の制限時間は10分間です』

 どうやら抜群のタイミングで兎の息の音が止まったらしい。
 俺は今、このビッグウェーブに乗っかるしかない。

「あー、取り敢えず入ってみます?」

「どうして即決してくれないのだ!私と友達になってくれぇ!」

 変人と友達になるのは抵抗があるからな。
 一旦保留としておこう。
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