11 / 44
プロローグ
⑪
しおりを挟む
スーパーからの帰り道。
幼少期から感じてはいたが、どうやら俺と柊は相性が良いらしい。
自然と会話が途切れないし、相手の反応なんて気にせずに下手な冗談も言える。
NPCは別にして、こんなに長い時間話したのは久々だったが、喋っていて疲れない。
喋っていなくても気を使わない。
そんな関係性の相手は、近頃出会った事がなかった。
思春期特有の恥ずかしさで突き放してしまっていたが、得難い友人は存外近くにいるのもなのかもしれない。
「そんでずっと気になってたから食べてみたんだよ。あご出汁納豆チョコミントクレープ」
「えー本当に?どうだったの?」
「天にも昇る味わいだったぜ…。悪い意味でな…」
「あははっ!当たり前じゃんっ!どうして裕ちゃんは見えてる地雷を踏みに行くのよっ!」
幼馴染との買い物が思いの外楽しくて、俺はすっかりと忘れていた。
それと遭遇したのは、コンビニの前だった。
「お?おうおう、齋藤じゃねぇか。休みの日に会えるなんてツイてるぜ。ちょっとパチンコで擦っちまってよぉ。折角の休みなのに金がねんだわ。ちょっとばかし金貸してくれよ。あとコンビニで煙草買ってこい。おら、さっさとしろよぉ!おい、齋藤ぉ!」
「か、勘弁してよぉ!どうして僕が君にお金を貸さなきゃいけないのさっ!」
頭が疑念の渦に飲み込まれる。
いや、引き戻されたと言っていい。
NOT THE GAMEでも見た光景。
鬼ヤンキー鮫島に眼鏡君齋藤がヘッドロックを極められていた。
NOT THE GAMEでは、この後激昂したプレイヤーの齋藤が、NPCの鮫島を短剣で刺し殺した。
流石に同じように刃物を所持してはいないだろうが、果たしてどう展開するのか。
興味深く見守る必要があるだろうな。
立ち止まり、動向を見据える。
「裕ちゃん…」
柊に袖を引かれて我に返った。
いかんいかん。
虐めの現場を見て野次馬になるなんて、褒められた行動ではない。
柊は虐めにトラウマでもあるのか、袖を持つ手が僅かに震えている。
幼馴染の女の子が震えているのに黙って見過ごす?
そんなのは男のする事じゃないだろう。
それに、目の前で起きているのは虐めなんて生温い言葉で済ませられるものではない。
恐喝…歴とした犯罪行為だ。
頭を使え。
どうして普段は不真面目に振舞っている鮫島が、休校日に制服を着ている?
今の時間は…これだ。
「よぉ、朝はパン派でお馴染み俺の登場だ」
「裕ちゃんっ!?」
柊は下がっておいてと手で制する。
「あん?なんだ、成木原かよ」
鮫島は顔だけこちらに向けて俺を見遣る。
お楽しみを邪魔されたからなのか、かなり不機嫌そうな顔をしている。
耳、眉、鼻、唇、ピアスの穴がボコボコ開いた痛々しい顔だ。
耳ぐらいならまだわからなくもないが、どうしてこうも体に穴を開けたがるのか理解に苦しむ。
「何か文句あんのかよ」
顔をジロジロみていたからか、輪を掛けて不機嫌になった。
沸点が低過ぎて生き辛そうだな。
何だか可哀想に思えて同情心すら湧いてくる。
おっと、あまり黙っていると、ターゲットをこちらに変えそうだ。
さっさと追い払ってしまうとするか。
「鮫島、お前今日英語の補講じゃなかったか?ケイティ先生待たせると、生活指導の上田がガチギレするぜ?」
「あ?ああ?」
「スマホで時間見てみろよ」
「あああ?」
鮫島がヘッドロックを解除して、ポケットから引っ張り出したスマホを確認する。
「マジじゃねぇか!ヤッベェ!成木原、サンキュな!」
ふっ…悪は去った…。
なんて中二病の奴だったら変なポーズ決めながら言うんだろうか。
「あ、あ、あ、ありがとう」
齋藤が首を擦りながら礼を言う。
既に頭が下がっているので、頭を下げて丁寧にお礼をした様に見えなくもない。
「どういたしまして。まあ、俺の事は気にするな。それから…」
齋藤が顔を上げたタイミングを見計らって、とある言葉を掛けておく。
「俺は、お前には勇気があると思っているよ」
「えっ…?」
NOT THE GAMEの中での話とは言え、NPCだったとは言え、いじめっ子の鮫島に対して一矢報いた齋藤の勇気は称賛に値するものだった。
少なくとも、俺はそう思う。
やった事は褒められるものじゃないとしても、その勇気は誰かが称賛されるべきだ。
少なくとも、俺はそう考える。
その誰かが偶々今回は俺だった。
ただ、それだけの事だ。
「柊、帰ろう」
「う、うん!裕ちゃん凄かったねっ。勇気あるなぁ」
家まで送ると、やはり柊のおばさんが家に帰っていた。
これは偶然か?
いや、偶然で片付けるには無理がある。
だとしたら、これは…。
起こり得る未来を知った上でNOT THE GAMEに落とし込んでいる―――?
いや、まさかな。
それこそ、起こり得る筈ない現実だ。
幼少期から感じてはいたが、どうやら俺と柊は相性が良いらしい。
自然と会話が途切れないし、相手の反応なんて気にせずに下手な冗談も言える。
NPCは別にして、こんなに長い時間話したのは久々だったが、喋っていて疲れない。
喋っていなくても気を使わない。
そんな関係性の相手は、近頃出会った事がなかった。
思春期特有の恥ずかしさで突き放してしまっていたが、得難い友人は存外近くにいるのもなのかもしれない。
「そんでずっと気になってたから食べてみたんだよ。あご出汁納豆チョコミントクレープ」
「えー本当に?どうだったの?」
「天にも昇る味わいだったぜ…。悪い意味でな…」
「あははっ!当たり前じゃんっ!どうして裕ちゃんは見えてる地雷を踏みに行くのよっ!」
幼馴染との買い物が思いの外楽しくて、俺はすっかりと忘れていた。
それと遭遇したのは、コンビニの前だった。
「お?おうおう、齋藤じゃねぇか。休みの日に会えるなんてツイてるぜ。ちょっとパチンコで擦っちまってよぉ。折角の休みなのに金がねんだわ。ちょっとばかし金貸してくれよ。あとコンビニで煙草買ってこい。おら、さっさとしろよぉ!おい、齋藤ぉ!」
「か、勘弁してよぉ!どうして僕が君にお金を貸さなきゃいけないのさっ!」
頭が疑念の渦に飲み込まれる。
いや、引き戻されたと言っていい。
NOT THE GAMEでも見た光景。
鬼ヤンキー鮫島に眼鏡君齋藤がヘッドロックを極められていた。
NOT THE GAMEでは、この後激昂したプレイヤーの齋藤が、NPCの鮫島を短剣で刺し殺した。
流石に同じように刃物を所持してはいないだろうが、果たしてどう展開するのか。
興味深く見守る必要があるだろうな。
立ち止まり、動向を見据える。
「裕ちゃん…」
柊に袖を引かれて我に返った。
いかんいかん。
虐めの現場を見て野次馬になるなんて、褒められた行動ではない。
柊は虐めにトラウマでもあるのか、袖を持つ手が僅かに震えている。
幼馴染の女の子が震えているのに黙って見過ごす?
そんなのは男のする事じゃないだろう。
それに、目の前で起きているのは虐めなんて生温い言葉で済ませられるものではない。
恐喝…歴とした犯罪行為だ。
頭を使え。
どうして普段は不真面目に振舞っている鮫島が、休校日に制服を着ている?
今の時間は…これだ。
「よぉ、朝はパン派でお馴染み俺の登場だ」
「裕ちゃんっ!?」
柊は下がっておいてと手で制する。
「あん?なんだ、成木原かよ」
鮫島は顔だけこちらに向けて俺を見遣る。
お楽しみを邪魔されたからなのか、かなり不機嫌そうな顔をしている。
耳、眉、鼻、唇、ピアスの穴がボコボコ開いた痛々しい顔だ。
耳ぐらいならまだわからなくもないが、どうしてこうも体に穴を開けたがるのか理解に苦しむ。
「何か文句あんのかよ」
顔をジロジロみていたからか、輪を掛けて不機嫌になった。
沸点が低過ぎて生き辛そうだな。
何だか可哀想に思えて同情心すら湧いてくる。
おっと、あまり黙っていると、ターゲットをこちらに変えそうだ。
さっさと追い払ってしまうとするか。
「鮫島、お前今日英語の補講じゃなかったか?ケイティ先生待たせると、生活指導の上田がガチギレするぜ?」
「あ?ああ?」
「スマホで時間見てみろよ」
「あああ?」
鮫島がヘッドロックを解除して、ポケットから引っ張り出したスマホを確認する。
「マジじゃねぇか!ヤッベェ!成木原、サンキュな!」
ふっ…悪は去った…。
なんて中二病の奴だったら変なポーズ決めながら言うんだろうか。
「あ、あ、あ、ありがとう」
齋藤が首を擦りながら礼を言う。
既に頭が下がっているので、頭を下げて丁寧にお礼をした様に見えなくもない。
「どういたしまして。まあ、俺の事は気にするな。それから…」
齋藤が顔を上げたタイミングを見計らって、とある言葉を掛けておく。
「俺は、お前には勇気があると思っているよ」
「えっ…?」
NOT THE GAMEの中での話とは言え、NPCだったとは言え、いじめっ子の鮫島に対して一矢報いた齋藤の勇気は称賛に値するものだった。
少なくとも、俺はそう思う。
やった事は褒められるものじゃないとしても、その勇気は誰かが称賛されるべきだ。
少なくとも、俺はそう考える。
その誰かが偶々今回は俺だった。
ただ、それだけの事だ。
「柊、帰ろう」
「う、うん!裕ちゃん凄かったねっ。勇気あるなぁ」
家まで送ると、やはり柊のおばさんが家に帰っていた。
これは偶然か?
いや、偶然で片付けるには無理がある。
だとしたら、これは…。
起こり得る未来を知った上でNOT THE GAMEに落とし込んでいる―――?
いや、まさかな。
それこそ、起こり得る筈ない現実だ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ミックスブラッドオンライン・リメイク
マルルン
ファンタジー
ある日、幼馴染の琴音に『大学進学資金』の獲得にと勧められたのは、何と懸賞金付きのVRMMOの限定サーバへの参加だった。名前は『ミックスブラッドオンライン』と言って、混血がテーマの一風変わったシステムのゲームらしい。賞金の額は3億円と破格だが、ゲーム内には癖の強い振るい落としイベント&エリアが満載らしい。
たかがゲームにそんな賞金を懸ける新社長も変わっているが、俺の目的はどちらかと言えば沸点の低い幼馴染のご機嫌取り。そんな俺たちを待ち構えるのは、架空世界で巻き起こる破天荒な冒険の数々だった――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる