NOT THE GAME~現実世界とリンクする

伊瀬カイト

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プロローグ

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 東雲鈴音、招木猫と作ったL*NEグループ。

『そろそろログイン時間だけど、いける?』

『楽しみで30分前から待機していたよ』

『大丈夫にゃ』

『おけおけ
 予定通り20時30分でお願いします』

『了解』

『把握にゃ』

 電波時計の時間を確認。
 ヘッドセットを着けて10秒前からカウントダウン。

 3、2、1、ログイン。

 NOT THE GAMEにログインすると、昨日睡眠状態に入った道に戻った。
 基本はベッドで横になって睡眠を消化していたが、強制睡眠は睡眠時間を計っておかないとタイミングがわからない。
 招木猫はベッドどころか横になる事すらもしないそうなので、何処で睡眠を摂っても問題は無い様だ。

 強制睡眠の場合にも、起床復帰時には安全地帯の光の円は出現している。
 これならば突然魔物に襲われたり、PKプレイヤーキラーに襲われる心配はないだろう。

「成木原君、にゃんにゃんから通話が来たよ」

 東雲鈴音から声が掛かって数秒。
 俺の方にも招木猫からの着信があった。

「もしもし、こちら成木原」

「固いにゃ。友達なんだからもっと砕けた感じで構わないにゃ」

「ああ…検討する」

 電話をするなんて家族ぐらいだからな。
 同年代の友人に対して、どんな風に出るのが普通なのか、俺にはあまりわからない。

 NOT THE GAMEの通話は、最大2回線とまで繋げられる。
 これは推測だが、パーティ用とフレンド用で2回線って使い方を想定した利用だろう。
 試せていないがパーティ通話って機能が存在していて、パーティ通話はL*NEのグループ通話みたいなものだと予想される。

 通話の声を拾うマイクは存在しておらず、俺の回線に近くにいる東雲鈴音の声は乗らない。
 周囲の雑音やノイズが乗らないので、非常にクリアで聞き取りやすいが、便利である反面、不便な面も大きいと言わざるを得ない。
 この仕様のせいで、招木猫が2回線使わなければ3人で繋がらない訳だからな。

 因みにパーティ通話を使えば、この不便はクリア出来るのだろうが。
 残念ながらパーティを組めるのは同一エリアにいるプレイヤーだけらしく、隣のエリアの招木猫とは組めなかった。

「安全地帯が出ている今の内に早速確認したいんだが、合言葉は覚えているかな?」

 まず第一の仕掛け。
 合言葉を覚えているかどうか。

 もしどちらか一人でも合言葉を作った認識を持っていなければ、その時点で【その世界】には【俺】とは【別の俺】がいるのが確定する。
 どちらかに虚言を口にされればわからなくなるが、そこは全面的に信用するしかない。
 東雲鈴音も招木猫も、不必要な嘘を吐くとは思えないから大丈夫だろう。

「覚えているよ」

「覚えてるにゃ」

 一つ目の仕掛けは不発。
 やはり俺はどこの世界でも、馬鹿みたいに馬鹿な考察をして無駄な時間を過ごしているらしい。
 俺は既に並行世界がある前提で考えているが…。

「それじゃあ、一人ずつ順番に発表していこうか。答え合わせは全員が発表し終えた後にしよう。まずは俺から」

 サイコロで決めた無意味な文字の羅列だが、3文字ぐらいなら全員分覚えられる。
 俺が【ちむほ】、東雲鈴音が【けめき】、招木猫が【あおね】。

 俺だけ深淵の如き深い意味を持ってしまったのは、イカサマでも狙ったのでもなく、偶々タマタマだ。
 タマタマじゃなくて偶然だ。

「俺の【ちむほ】だ。次は東雲さんが発表してくれ」

「私は【けめき】だったよ。次はにゃんにゃんだね」

 東雲鈴音は正しい合言葉を口にした。
 これは本当に、俺の考え過ぎだったのか…。

「あたしは【あとね】にゃ」

 おや…?

「俺が認識しているのと違うな。にゃんにゃん、その合言葉は間違ってないんだよな?」

「間違いないにゃ。ナルキンこそ冗談が過ぎるにゃ。こんな時にセクハラ発言は頂けないにゃ」

「それに関してはごめんなさい?本当に出目がそれだったんだよ」

「セクハラとは…?私も成木原君は事前に決めたのと一文字だけ違ったよ。にゃんにゃんは当たっていたけれど」

「これは…並行世界で確定かな?」

 3人が認識していた合言葉は、大きく間違えてはいないものの、微妙に異なる結果だった。
 つまり【俺】が二人と共有した記憶と体験は、【東雲鈴音】の記憶と体験とも【招木猫】の記憶と体験とも異なる。
 現実世界が【それぞれを主人公とした並行世界】になっている可能性が高まった。

 拍子抜けする程にあっさりと、途轍もない事実が判明した訳だが。
 NOT THE GAMEの存在自体が『事実は小説より奇なり』を地で行っているのだ。
 これぐらいあっさりじゃないと胃靠れしちゃってやってられない。

 この手の検証はNGワードに引っ掛かる懸念も持っていたのだが、未来の話と核心に迫りさえしなければ、存外自由度は高いのかもしれない。

「NGワードにゃ。まあ、『NGワードが含まれています』って言葉が引っ掛かってるのは明らかだにゃ」

「これは私でもわかるよ。『NGワードが含まれています』だよね?」

 どうやら無事に共通認識が出来たみたいだ。
 まさかここで卑猥な発言をぶっこむ馬鹿はいないだろう。
 やるとしたら、俺だろうしな。

「それで、『NGワードが含まれています』とわかった所で、私達はどうすれば良いのかな?」

 東雲鈴音の信用を勝ち取ったらしく、俺に判断を任せてくれるみたいだが。

「特には何も?」

「はぇ…?」

 東雲鈴音の間抜けたリアクションも尤もなのだが。

『そうだにゃ。わかったところで出来る事は少ないにゃ。密に連絡を取り合って、今日みたいにログイン時間を合わせるぐらいにゃ』

「そうなんだよな」

「そう…なのか…」

 何か対策を取るとか、そういうのを期待していたのだろう。
 東雲鈴音からすれば肩透かしを食らった気分だろう。

「けれど意味はあるんだ。並行世界だと認識しているか認識していないかには、あまりにも大きな隔たりがある。そっちにいる俺も話したかもしれないが、気付かずにいれば、現実世界の乖離が大きくなって、影響も大きくなる。並行世界と意識して動くのと意識しないで動くのでは確実に行動が異なる。そして…」

 ここが非常に重要な部分。
 共通認識の意味であり、核の部分。

「今から俺達3人は、どの世界線でも並行世界を意識して動く事になる。つまり行動パターンが限定されて、3人の世界でのズレは小さくなる。手遅れになる前に修正を掛けられた。これが並行世界を共通認識出来た最大の利点だ」

 俺と東雲鈴音と招木猫。
 客観的に見ても、放っておいたらとんでもなく大きなズレを招きかねないメンバーだ。
 俺はそうでもないだろうけれども、おもしれー女1号2号はガチでどう動くか読めない。
 だから自分と二人に打ち込んだ共通認識の楔が、大きな意味を持つのは間違いないだろう。

「そういう訳だから、今日も楽しく狩りをしようぜ。正直に言って、何が起こるかわからない世界になっちまったからな。安全重視の命大事にでいこう」

「了解」

『楽しむにゃぁ』

 こうして二日目は、特に大きな事件も無く、昨日と変わらないエリア探索と魔物の狩りに終始した。
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