NOT THE GAME~現実世界とリンクする

伊瀬カイト

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プロローグ

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「私は構わないよ。どうせやるなら友達同士で楽しめたら恐悦至極だからね」

 その四字熟語は大袈裟過ぎない?

「あたしもリンリンが良いなら、それで良いにゃ。どうせ平日は夜のログインになるからにゃ」

 まあ、学生の場合昼間は学校があるからゲームする時間は似たり寄ったりになるのはある。

「私は消灯時間が23時だから、19時から20時半だと都合が良いかな」

「18歳の高校3年生が夜11時に寝るって正気か…?」

「リンリンは門限も18時だからにゃ」

「成人に門限って既に絶滅した文化じゃなかったのか…?」

「案ずるな成木原君。18歳になってから門限を30分伸ばせないかと交渉中だ」

「どうせなら2時間ぐらいは要求すべきでは?」

 高3の女子高生に門限を設けるなら20時ぐらいが妥当に思える。

「却下だにゃ」

「親御さんでもないのに言い切るのか…」

 お前にどんな権限が…?
 なんて思わなくもないけれど、見ていると姉と妹みたいな空気感はある。
『娘をよろしく』ぐらい言われていてもおかしくはないか?

「所であたしとリンリンは放課後カラオケに行くけれど、ナルキンも一緒にどうにゃ?ログインの時間を合わせるだけじゃなくて、一緒に動いてた方がナルキンが気にしてるズレも少なくなるにゃ」

「それは名案だ!成木原君、是非一緒に遊ぼう!」

 招木猫の言う事は一理あるのだが。

 カラオケ…カラオケか…。
 同学年のワンツー…もしかしたら学校単位で見てもワンツーとカラオケに行くなんて、他の男子にすれば垂涎のシチュエーションだろうが…。

 さて、どうするかな…。

「駄目だろうか?」

「何を悩んでいるにゃ?カラオケ嫌いなのかにゃ?」

「いや、遊ぶのもカラオケもやぶさかでないんだが、並行世界の俺は行く行かないのどちらを選択するだろうと考えて…」

 ここの選択を間違えると、かなりのズレが生じる危険性があるだろうからな。

「考え過ぎにゃ。だったらあたしとりんりんで両腕固めて強引に引っ張ってくにゃ」

「にゃんにゃん、その案…乗った!」

「その両手に華は男子の殺意しか生み出さないから止めて?自分の意志でついてくから」

 放課後。

「ちょっと買いたい物があるから百均寄っていいか?」

「パーティーグッズかい?私も笛を買おうかな。必ずカラオケで盛り上がる筈だ」

「吹くと先が伸びるやつにゃ?3年に1回吹きたくなるぐらい大好きにゃ」

「それは大好きと言わなくないか?最早好きでもないし無関心だろう」

 買い物を済ませてカラオケ店へ。
『長身トップモデル級美女』東雲鈴音と『低身長小動物系美少女』招木猫の組み合わせは兎角目立つ。
 誰もが彼女達に視線を奪われ、その視線が俺に向くとガッカリされる。
 世間の目とは、何と理不尽なものであるのか。

 どうでもいいけどね。

 受付では俺が店員とやり取りしてるのに、一度も目が合わなかった。
 女性だったが、完全に東雲鈴音に見惚れてて、時々招木猫に目線を落として癒されていた。
 俺みたいなフツメンは眼中にすら入らないのだ。

 どうでもいいけどね。

 あんまり冷たくされると涙が出ちゃう…だって私、男の子だもん。

 ガチでどうでもいいけどね。

「私にとって初めて友達二人と楽しむカラオケと言う事で、早速皆でこれを被ろう」

「本当に買ったんだ、サンタ帽子。というかよく売ってたな。今って真夏だぜ?」

「あたしは髪型崩れるからパスにゃ」

「ええ!?そんな殺生な!」

 サンタ帽子とかいう陽気一辺倒なアイテムを手にガックリと肩を落とす東雲鈴音。
 百均では一緒になって楽しそうに買う物を選んでいたのに…何て冷たい奴なんだ。
 いや、招木猫はこういう気分屋だって認識してたから、寧ろ東雲鈴音に対してのお姉ちゃんぶった対応の方が違和感だったのだけれども。

 こんなの、東雲鈴音が泣いちゃうだろ。
 くっ…何だかんだと理由を付けて、どうにかサンタ帽子を回避しようと目論んでいたのに…。
 だって思春期真っ只中の陰キャ寄り男子高校生にとって、ご陽気にサンタ帽子を被るだなんて黒歴史の書にしか刻まれない。

 被りたくない…絶対に被らない…。
 だが俺まで断れば、本当に東雲鈴音が泣いちゃいそうだ…。

 くそ…くっそぉぉぉ!

「東雲さん、俺も一緒に被って良いかな?なんて…」

「本当かい!?是非!一緒に被って写真を撮ろう!」

「写真…?」

「ナルキンも被るならあたしも被るにゃ。ほら、さっさと被って写真を撮るにゃ」

 視線を向けてみればペロっと舌を出してほくそ笑む招木猫。

「嵌めたな?」

「何の事にゃ?早くするにゃ」

「くぅ…はい…」

 季節外れのサンタ帽子を被ったご陽気な3ショットは東雲鈴音の待ち受け画面になった。

 恥ずいが過ぎるから止めてくれぇ!

 1人5曲ずつ歌って休憩。
 歌には少しだけ自信があったのだが、招木猫が流行りの曲をプロ並みに歌い熟してて自分が恥ずかしくなったぞ
 東雲鈴音は見た目滅茶苦茶歌が上手そうなのに、幼児向けアニメの主題歌を幼児味しか感じない歌声で歌い上げていたから評価が出来ない。
 真面目に歌えば上手そうだが、大真面目に歌ってあれだからな。

 見ていてとても愉快ではある。

「さて、一つだけやっておきたい事があるんだけど、良いかな?」

 鞄の中から百均で買っておいた物を取り出す。
 何の変哲もない4個入りのサイコロだ。

「構わないけれど、サイコロで何をするんだい?チンチロリンかな?」

「お茶碗も買って来たにゃ?」

「現代でチンチロやってる高校生見た事ある?違うわ。これを使って合言葉を決めたいんだ」

「「合言葉(にゃ)?」」

「昼休みに話したが、俺は現実世界がプレイヤー個人個人を主人公にした並行世界になってるって疑惑を抱いているんだ。これが事実か否かを判定する為に、3人個々に合言葉を決めておきたい。NOT THE GAME内で合言葉を聞いて、合っていれば疑惑がやや解消され、間違っていれば疑惑が深まるって感じかな」

 昨日から考えてた並行世界か否かの判別方法。
 現実世界にもNOT THE GAMEにも影響の少ない方法。
 且つ手軽で直ぐに実践出来ると考えたのが、これだった。

「なるほど?」

「良い考えだとは思うけれど、どの世界でも同じ合言葉に決めてたら意味ないにゃ。その辺はどうするにゃ?」

 招木猫の意見は尤もだ。

 並行世界と言っても、そこにいるのは同じ人間。
 俺と東雲鈴音の世界にいる俺は同一人物だし、招木猫の世界にいる俺も同一人物。
 これでは捻った合言葉を考えたとして、彼女達の世界の俺が同じ合言葉を考えないとも限らない。
 寧ろ乖離が少ない現段階でどれだけ捻った所で、どの俺も同じ提案をして同じ合言葉を決める可能性は高いだろう。

「そこでこのサイコロだ」

 開封してサイコロを取り出す。
 使うのは2つだけなので、残りの2つは除けておく。

 合言葉作りのルールを説明する。

 まずサイコロ2つの一方にマーカーで印を付ける。
 印が無い方が一の位、ある方が十の位とする。
 ノートに自作した平仮名表に番号を割り振っていく。
 11が【あ】、12が【い】、と順々に番号を振り、36が【や】とする。
 一人サイコロを3回ずつ振り、出目に合わせて出来た言葉が、その人の合言葉となる。
 
「これなら運の要素が多分に含まれるから、どの並行世界でも同じ結果になる可能性を下げられると思うんだ。勿論、過去の改変にトライしていない以上、同じ提案を同じタイミングでして、同じ場所、同じ力加減でサイコロを振れば、全く同じ結果が生まれる事もあるだろう。けれど、全てが同じ言動とは考え辛いんだよな。NOT THE GAMEのNPCがそうだったみたいに」

 そう、自然に考えれば、過去における【現在】の俺が【未来】の東雲鈴音と招木猫に接触しなかった以上、これは無意味な検証なのかもしれない。
 並行世界にいる全員の行動が完全に一致していたならば、同じ結果が生まれるのはありえない事でもないのだから。
 しかし何処かに小さなズレが生じている可能性はある。

 俺がまた柊と仲良くなって、連絡先の交換までしたのは、NOT THE GAMEのNPC柊と会話をして、俺の中にあった無意味な蟠りが溶けていたからだ。
 それこそ顔の広い招木猫であれば、【未来】にいたプレイヤーの過去に影響を及ぼしているかもしれない。
 たった一行のチャットでも、少しのズレは起きうるだろう。

 一致したら一致したで、今度こそ【未来】の東雲鈴音と検証してみれば良い。
 確信を得られる可能性があるのならば、早い内にした方が良い。

 日常生活で疑惑を持ち続ける不快感は、晴らしておくに限るのだから。

「理解が追い付かないけれど、是非やってみよう」

「面白そうだからやってみるにゃ」

 検証の準備は整った。
 果たしてどう転ぶのか。
 今からNOT THE GAMEにログインするのが楽しみだ。
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