NOT THE GAME~現実世界とリンクする

伊瀬カイト

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プロローグ

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 普段は移動教室でしか訪れない化学準備室にお邪魔している。
 机を挟んで正面には東雲鈴音。
 東雲鈴音の隣には招木猫が座って、それぞれ昼食を広げている。

「まさか同じ学年のトップ2と昼ご飯を共にする事になるとは…」

 はあぁと深い溜息が漏れてしまう。
 何せ朝からこの時間まで、俺みたいなモブがどうやって東雲鈴音と仲良くなったのかと好奇の目に晒されていたのだ。
 東雲鈴音が昼食に誘いに来た時も刺す様な視線を感じた。
 化学準備室は暗幕を閉じいるので気にはならないが。

 どうやらこの2人は、いつもここで昼休みを過ごしているらしい。
 職員室で流れる様に化学準備室の鍵を借りた招木猫は、この為だけに部員5人の化学部に所属しているそうだ。
 部員数が5人を割ると愛好会に格下げされるので、数合わせの契約としては悪くない条件なのだろう。

 何にせよ腹が減ったので、さっさと食べてしまおう。

 今日の昼食はコンビニで買ったドーナツ2種。
 チョコファッションとフレンチクルーラーだ。

 栄養バランスとか知らない。
 まだ18だから、若さに任せてカロリー摂取しとけばオールOKだろう。
 糖分を摂取しておけば脳も活性化するからな。

 招木猫は俺と同じコンビニの牛カルビ弁当。
 東雲鈴音は…重箱…だと…?

「ちらし寿司…だと…?」

 学校の弁当にちらし寿司持参する奴なんて初めて見たぞ。
 ボイル海老、錦糸卵、蓮根、絹さや。
 シンプルでスタンダード。
 しっかりと手の込んだちらし寿司に見える。

「お寿司美味しそうにゃ」

「にゃんにゃんも一緒に食べてくれ。成木原君も、是非」

「いや、俺は…」

 東雲鈴音から差し出される取り皿と割り箸。
 何て準備が良いのだろうか。

「いつお裾分けする機会に恵まれるかわからないからね。お弁当はいつも多めに用意するんだ。にゃんにゃん以外の友達にお裾分け出来るだなんて、感動だよ」

 嬉しそうな良い笑顔をしやがる…。
 こんなの断る鬼のメンタル俺にはないぜ…。

「えーと、頂きます?」

「どうぞ。好きなだけ食べて欲しい」

 子供の頃以来、久々に口にしたちらし寿司は、程好い酸味で食感が楽しくて美味しかった。
 お返しにドーナツを1つあげたら『友達とお弁当を交換するのが夢だったんだ』なんて言って感涙していたぞ。
 本当に東雲鈴音の存在は調子が狂う。
 狙ってる様子がまるでないのも質が悪い。

 因みに招木猫は貰うばかりで、一口たりともお返ししようとはしない。
 こっちは何と言うか、野性的と言うか、イメージ通りと言わざるを得ない。

「そういえば、東雲さんって刀の扱いがやけに上手かったけれど、剣道でもやってたのか?」

「剣道、というか、私は東雲流剣術を修めているからね」

「東雲流剣術?聞いた事はないけれど、先祖伝来の由緒正しい流派なのか?」

「いいや、運動不足だった祖父が趣味で興した流派だよ」

「趣味で流派興したの?東雲さんがぶっ飛んでるのは、先祖伝来の血筋かな?」

「あり得るにゃ。リンリンのお祖父ちゃんは変わり者だったからにゃ。だけど膝の上に座るとお小遣いくれたにゃ」

 何その犯罪的スメルを感じさせるエピソード。
 他人の親族貶せないから言わないけれども。

「話は変わるが、NOT THE GAMEの事で成木原君に聞いておきたい事があるのだが…」

「ああ、俺もNOT THE GAMEの話はしたかったから、何でも聞いてくれ」

 寧ろ他の生徒の注目を集めてでも東雲鈴音の誘いに乗った目的はそれだ。

「何でも…?では聞くが…」

 何故だか言い辛そうに視線を逸らす東雲鈴音。
 口にするのも憚られる卑猥な単語でも繰り出す気なのか?
 NOT THE GAME関連で?
 心当たりが無さ過ぎる。

 流石にそれはないとして、襟を正して聞くべき案件なのは間違いないだろう。

「連絡先を…教えて欲しい…」

「連絡先?ん?」

 NOT THE GAMEからの関連性は?
 熱があるのかってぐらい赤みが差した頬の意味は?
 瞬間発症インフルエンザかな?

「やはり…駄目だろうか…?」

「いや、別に構わないけれど。寧ろこちらとしても知りたいと思っていたから」

「本当か!?それなら気が変わらない内に!早く!」

「お、おう?」

「リンリンのスマホに入ってる男の人ってお父さんだけだからにゃ。初めて異性に聞いて緊張したんだと思うにゃ」

「なるほど?」

 東雲鈴音の奇行に対して招木猫が解説を入れてくれるのは助かる。
 見た目には逆の役割にしか見えないんだけどな。
 気紛れて幼い印象の招木猫にお姉さんをさせる東雲鈴音のイカレっぷりが面白過ぎる。

 連絡先は招木猫とも交換しておいた。
 L*NEのアイコンが東雲鈴音はアニメキャラクター、招木猫は未設定ってのも意外かな。
 話をして中身をしれば納得する部分もあるが。

「さて、連絡先を交換した所で、NOT THE GAMEの話をしたい。のだが、実を言うと話し合いをしても無駄になるかもしれない、可能性がある」

「不思議な言い回しをするにゃ」

「私が聞きたかった話と同じ内容だろうか。現実とNOT THE GAME内の時間が合わないって話かな?」

 東雲鈴音は、再ログイン時に少しばかり話をしていたからな。

「その通りだ。現実世界とNOT THE GAMEとで時間軸が合わない。現実時間で何時にログインしても、NOT THE GAME内の時間は進んでいない。それなのに自分以外のプレイヤーも同仕様で存在している。これは現実世界とNOT THE GAMEが別の時間軸で動いていなければ説明がつかない」

「うん、そうだね」

「どういう事にゃ?」

 東雲鈴音と招木猫で、そこの情報は共有していないみたいだな。

「とどのつまりNOT THE GAMEは現実にはありえない技術を使って、もう一つの別の世界を作り出しているのかもしれないって話だ。可能性としてはそうだな…あのゲーム機で意識だけを過去の時間軸に飛ばしてプレイさせているとか。まあ、尋常ではない事が起こってるってのは間違いない。まあ、これは俺が導き出した仮説とは別物になるんだが」

「ちょっと考えられないにゃ」

「そうでもないんだよ、にゃんにゃん。実は昨日こんな事があって…」

 東雲鈴音から招木猫に説明がされる。
 内容は【現在】の東雲鈴音が【過去】の俺との間で起こったやりとりだった。
 視点が東雲鈴音に変わっただけで、俺の体験と少しも相違ない。

「不思議だにゃぁ。でもそれでナルキンが言ってた話し合いが無駄になるって事は…ああ、そういう事にゃ」

「どういう事だろうか?」

 招木猫はその可能性に辿り着いたみたいだな。
 一瞬で当事者の東雲鈴音を逆転した訳だが、あまり深く考えないってのは強みでもあるから気にはしない。

「俺はNOT THE GAME以降の現実世界が並行世界になっているのではないかと考えている」

「並行世界…」

 東雲鈴音が言葉を失う。
 そりゃあ、こんな突拍子もない発言、理解出来たとして飲み込むのは容易ではないだろう。

「どういう事だ?」

 只々理解出来ていないだけだった。

「つまりだにゃぁ。ナルキンはNOT THE GAMEが現実、現実世界がゲーム、みたいになってるんじゃないかって考えてるにゃ。NOT THE GAMEではあたしもリンリンもナルキンも同じ時間軸で生きてるにゃ。けど現実世界では【現在】と【未来】と【過去】の人がごちゃまぜで生きる事になるにゃ。そうすると色んな所で齟齬が生まれるにゃ」

「ふむ?」

「補足すると、【現在】を生きてる自分が現実世界で【過去】にいるプレイヤーと接触するのは問題が無いが、【未来】にいるプレイヤーと接触するのは問題がある筈なんだ。【未来】の東雲さんは【現在】の俺と接触をしていないとする。【未来】の東雲さんにとって、それは変えられない【過去】であるのに、【現在】の俺にとっては変えられる【未来】になるんだ。簡単に言うと、東雲さんとにゃんにゃんのお出掛けに俺が混ざったら、どうなると思う?」

「それは…」

 東雲鈴音も俺の出した推論に至ったのか、納得した様子で深く頷く。

「とっても素敵な事だね!」

「は…?」

「にゃんにゃんと遊んでいる所に成木原君まで合流するのだろう?それはとても素敵な事だよね!早速放課後に実現したい夢になったよ!」

「違う、そうじゃない。別にそれは構わないけれども」

「本当かい!?」

「あたしもナルキンが良いならそれで良いにゃ」

「やったー!NOT THE GAMEを始めてから私の運はピークアウト状態だよ!」

「ピークアウトしてどうする…。まあいいか。そんな事よりも。昨日の俺には東雲さんの未来を書き換えられる可能性があったんだ。そうなった時に、東雲さんの記憶や体験はどうなる?急に俺も混ざって遊んだ風に書き換えられるだろうか?俺はそうは思わない」

「確かに…。そう、なのかもしれないね」

 本当ならば昨日試しておくべきだった。
 そうしなかったのは、俺の不覚。
 物事を多角的に捉えようとして無駄な事まで考える俺の怠慢と行動力の無さ。
 迂闊さが生み出した残念賞だ。

「今からでも検証しようと思えば出来るんだけれど、あまりやりたいとは思わない」

「ふにゃ。それが懸命な気がするにゃ」

「どういうことだい?」

 招木猫は同意を示す。
 東雲鈴音は俺と招木猫を交互に見た。

「どんな影響が起こるかわからないからにゃ」

「そう。もっと詳しく言うなら、俺の考え通り、現実世界が並行世界になっている場合…」

 実際に【未来】の東雲鈴音や招木猫…プレイヤーの【過去】をプレイヤーの俺が書き換えられるならば、それでいい。
 しかしそうでない場合、大きな影響が出ると考えられる。
 より正確に言えば、影響が大きくなるというべきだろうか。

「俺と東雲さん、にゃんにゃんの並行世界で大きなズレが生じてしまう。俺が東雲さんの【過去】を書き換えるつもりで一緒に遊んだつもりが、【未来】の東雲さんは俺と遊んだ記憶も経験も持っていない。すると【現在】の俺と東雲さんの関係性が【未来】の東雲さんとは異なってしまうんだ。例えば…そう、あくまでも例え話だけれど…」

「例えば…?」

 同学年の異性に対してこんな事を言うのは恥ずかしいし複雑な気分だが。

「【現在】の俺が東雲さんと恋人同士になったとしてだ、【未来】の東雲さんと俺は単なる友達って事もありえる訳だ」

「こ、こここ、恋人!?」

 東雲鈴音が滅茶苦茶動揺している。
 顔は見えないが、招木猫の肩を揺すってぐわんぐわんしている。
 思春期真っ只中の男女の例え話で恋人を出すのは失敗だったか?
 まあ例え話でも俺みたいなフツメンと恋人だなんて言われるのは嫌だろうからな。

「あくまでも例え話だけれど、不快に思ったなら申し訳ない」

「い、いや。不快だなんて、思っていないよ」

「そうなのか?」

 言葉では何とも言えるから過信は出来ない。
 東雲鈴音は変人だけれど良い奴だからな。

「その顔を見せれば一発で伝わるにゃ」

「嫌だっ!恥ずかしいからっ!」

 今度は招木猫をぎゅうぅっと抱き締めている。
 アニメで良く見る、少女がぬいぐるみを抱き締めるシーンみたいに。
 何故そうしているのか理解が及ばない。

 やはり東雲鈴音の行動を理解するのは、俺には難解だ。

「兎に角だ。行動が変われば、【未来】も変わるだろう?同じ友達だって、一度遊べば仲が深まる。仲が深まれば、行動が変わる。そうすると、俺と東雲さんだけでなく、周りにも変化が生まれる。最初は小さなズレだって、小さなズレが積み重なって、積み重なって、やがて大きなズレになる。そうすると、どうなるか」

 ここまで言えば、後は説明不要だろう。
 ようやく東雲ホールドから解放された招木猫が、後に続く。

「現実世界とNOT THE GAMEで認識の齟齬が生まれるにゃ。現実世界のあたしと誰かがした約束事が、NOT THE GAMEの誰かとはされてない可能性があるって事にゃ。今、成木原君が喋ってるあたしとリンリンは、もしかしたらNOT THE GAMEにいるプレイヤー招木猫と東雲鈴音とは異なる可能性があるにゃね」

「俺を【現在】として見る場合、そうなるな」

「複雑で難しいけれど、何となく理解出来た気がする」

「今の時点で100%理解する必要は無い。あくまでも可能性の話だ。俺の考え過ぎってのも多分にある。一応頭に入れておいて欲しいのと、二人が今後NOT THE GAMEで俺と協力していくつもりがあるのなら、提案があるんだ」

 これが本命。
 これを伝える為に、俺は東雲鈴音の誘いに乗った。

「3人でログインする時間を合わせたい。それが多分、この先に生じるズレを最小限にする最善手だ」
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