アオハル・リープ

おもち

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丸井秋斗

retry10:夢

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 翌日の昼休み。教室の窓際一番後ろの席であるミカのところに望杏とリイが集まって3人で昼食を取っていた。

「2人とも、丸井ってどんな奴か知ってるか?」

 リイがお茶を望杏がお弁当の卵焼きを口に入れたタイミングでミカが尋ねる。2人は少し考え込んで答えた。

「丸井さんといえば、一匹狼であの危ない男な見た目なのに成績優秀、運動神経抜群の人!ギャップ萌え素敵ですよね」

「放課後よく図書室にいるって聞いたことあるよ」

 2人の言葉にミカは、やはり1人でいることが多いのかと思い、彼の心の杭を頭に浮かべる。望杏やリイと同じ特殊な形の杭。おそらく彼の中にも中か1人では解決できないような後悔があり、あのような形になったのだと考察した。

「実は……昨日、進路相談に行って偶然彼と会ってな、話してから少し気になっているんだが……」

「へー!そうなんですか!」

「ミカちゃんが他人に興味を持つなんて珍しいね」

「まあ、そう……だな」

 望杏に曖昧な返事をしミカは誤魔化した。ミカの様子に望杏とリイは顔を見合わせて頷く。

「それでは、放課後に会いに行きましょうか。教室だと人がたくさんいますから落ち着かないでしょうし」

「だね。それでいい?ミカちゃん」

 2人の顔を見てミカは「ああ」と返事をする。

「付き合わせて悪い」

「いいよ、なっちゃんの時もそうだったし。ミカちゃんが気になるってことは、何かあるんでしょ」

「そうですよ!お友達なんですから、変な遠慮しないでください」

 望杏に続きリイも笑顔で答えた。ミカは胸が熱くなる。人と関わりたくなくて避けていたのに、いつのまにか友達ができたんだな、と。ミカは2人に気づかれないように少し口の端を上げて小さく笑った。

 放課後になり、3人は図書室へ向かう。帰りの号令が終わったと思ったら丸井はすぐさまいなくなったので焦ったが、望杏の聞いた話通りなら彼はここにいるはずだ。

 静かに入ると、図書室の一番奥の窓際の席に丸井はいた。窓の方を向いているから、ミカ達には背を向けている。大きな声は出せないので、3人はそっと近づく。

「あのー……丸井さん?」

 リイが恐る恐る声をかけるが反応がない。聞こえなかったのだろうと再度声をかけようとした時、彼が振り返った。その顔には驚きの色があり、少し間抜けだとミカは思った。

「え、お前らなんで……」

「えへへ、すみません!驚かせちゃいましたね」

 リイが偶然にも丸井を引きつける間に望杏はひょこっと彼の机の上を覗く。そこにはノートにびっしり書かれた文字の羅列があった。

「わぁいっぱい書いてあるね」

「え、なんです?」

「おい、何勝手に……」

 望杏の声を聞いてリイも見ようとすると丸井が止めるが、それは意味をなさなかった。

「これは、まさか!ポエム!詩人なんて素敵です」

「丸井は勉強ではなくそれを書いていたのか?」

「は?関係ないだろっ……」

「丸井、ここは図書室だ。少し静かに」

 丸井が言い返そうとして大声を出しそうになり、ミカが注意すると、彼は舌打ちをしてから大人しくなった。ミカはこれ以上ここで話すのは無理だなと思い、3人を連れて図書室から近い中庭のベンチに移動する。その間も丸井はずっと不機嫌だった。

 リイはベンチの右端に望杏は左端に座るので、必然的にリイの隣に座ったミカと望杏の間に丸井は入る形になる。2人に挟まれた丸井は嫌そうに顔を歪めた。

「それで、やはりさっきのはポエムなのか?」

「ちげーよ」

「じゃあ日記?マルマルの」

「だからちげーって。てかマルマルって……」

「ポエムでも日記でもないなら、あれは……そう、ラブレターですね!」

「全然違う!」

 ミカ、望杏、リイの3人が好き勝手に言うのを丸井は一々否定する。

「あれは……歌詞だよ」

「歌詞?って、曲でも作ってるのか?」

「~っ、ああっそうだよ!」

 ミカの言葉に丸井は嫌そうに肯定する。望杏とリイはその言葉に驚いた。

「ええ!すごいです!」

「どんな曲?ポップ?ロック?」

「いや、いろいろ」

「へぇ、すごいねマルマル。アーティストさんだ」

「なんだよ、それ」

 望杏の言葉に呆れた様子の丸井に今度はミカが問いかける。

「じゃあ丸井は将来はその道で仕事をするのか?」

「いや……」

 その問いに丸井は口籠る。ミカ達は丸井の態度が変わったので首を傾げると、ようやく彼から言葉が出た。

「親にも周りにも言ってない。誰にも……秘密なんだよ」

 少しだけ辛そうな顔を見せながら言った丸井。

「なぜ秘密なんだ?凄いことだろうに」

 ミカが尋ねると、丸井はまた嫌そうな顔をして今度はため息をつく。

「……めんどくせーから」

 その言葉にミカは少し驚いた。望杏とリイも意外そうに彼を見る。彼は目を逸らさずに言い返した。

「俺はこんなんだから親はうるさくて、周りはそんな俺を遠巻きにするし……だから、俺がやりたいことなんて言ったら反対されるに決まってるだろ」

 そう話す彼の目はどこか寂しげだった。ミカ達は彼にかける言葉が見つからない。そんなことないだとか、当たり障りのない安っぽい文字を並べても、丸井を傷付けてしまう気がした。

「おまけに俺の親は頭が固くて厳しい。ちゃんとした職業につけとうるさいほど言われてる。けどやりたいのはこれ。だから隠したまま好きにやってる。お前らも誰にも言うなよ」

 そう睨みながら釘を刺す丸井。そんな彼に怯まずリイは純粋に感激していた。

「好きなことを頑張れるって素敵です!」

 リイの言葉を聞いて丸井は目を少し見開く。その時に丸井の心の杭である十字架にヒビが入った。ミカは違和感に気づくが、今のやりとりのどこに丸井が反応したのかわからなかった。

「……はっ、うっせーよ」

 確実に今、彼は後悔した。しかし丸井の態度は変わらず、席を立ち図書室へと戻った。残された3人もベンチから立ち上がる。

「なんというか、意外だったな」

 ミカが呟くと望杏もリイも同意するように頷く。

「うん、オレもちょっとびっくりしちゃった」

「確かに意外な一面でしたね……でも丸井さんの曲、聴いてみたいですね」

「まあ、な」

 リイに相槌を返したミカは、それよりも彼の心にある十字架が気になった。あんなに立派に装飾された十字架に入るヒビ。それが何を意味しているのか、まだわからない。もし壊れるようなことがあれば、丸井は今抱えている後悔をずっと背負うことになる。

 ミカは望杏やリイの時のことを思い返した。2人の変化に対応できるように常にそばにいたこと。丸井のそばにいるのは彼が壮絶な拒否をしそうで難しそうだが、行動一つひとつをチェックして見守ることは可能なはず。

 そう結論を出してミカは翌日から丸井の様子を一人で観察した。
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