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第二章 神はいずこ
16-2 神はひとり
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「先代は、私が殺した。彼を殺したことで地罰神の権能は私の手に渡り、私はそれで、各地の神を、その眷属を裁いて回った」
「あの頃は、毎日誰かを裁いていた。朝に、昼に、夜に。各地を訪ねて回り、二三尋ねて、二三答え。もう一度心意を問い。そうして殆どの者を処断した」
「酌量を求める声を聞き、そして罪を量り、差し引いて。それがどれほど高名であろうと強大であろうと、何柱でも裁いた。彼らをこの夢境へ落とし、彼らを此処へしずめた」
誰が懇願し、誰が涙し、誰が怒っても。
日が昇っては誰かを裁き、日が暮れるまで誰かを裁き。月が浮かべばまた誰かを裁く。
月も星も無い夜にも、ただひたすら。
なるほどその姿は、日夜沙汰を下すその様は、裁きたがりと呼ばれるのも道理だ。
事実、当時の春絶は裁きを欲した。時間の経過も季節の移り変わりも忘れ、ただ裁くことだけに没頭していた。
「____ならば何故、あなたはそんなに虚しさを感じているのですか」
音もなく、春絶の目がかすかに見開かれる。その目には周囲を埋め尽くす雪と同じ色の、けれども熱を持った白が映っている。
「神を裁かんとして、それを為したならば。先代を殺してでもそうせねばならぬと決して、それを果たしたというのなら。裁きたがりの異名が、自らにそんなに相応しいというのなら」
何故だ、と白綺は尋ねた。なかば憤慨するように。
「何故、どうしてあなたは自らを誇らないのですか。正しきことをしようとして、そうしたのでしょう? なのに、どうしてあなたの心には__心を映すこの空間は氷に閉ざされ、雪に覆われ、色がないのですか。
あなたが本当に、自らの欲で力を手にし、それを振るったのならば。あなたはどうして、その誇るべき偉業と異名を自分で名乗らないのです」
何故だ、と白綺は立て続けに問いかけた。
白綺の心の在り様が好きだと春絶は言った。日々の小さなことに感化され、熱を帯び、色づく様子がいい、と言った、
ならば何故、春絶はそうしない?
心は自由にと、まるで呪詛のように繰り返し、己の心を戒め、一日のほとんどをこの凍り付いた空間で瞑想に費やしているのか。
何もかもを凍らせ、何もかもの色を白で塗り潰すこの神域で。
「春絶殿、あなたは……」
白綺はそこで躊躇した。一瞬だが、確かに。
けれども言わなければならなかった。こと此処に至ったからには。きっと白綺が問わなければ、春絶は上手く隠すかはぐらしただろうから。
己の過去の悲しみに、白綺が感化されることを、きっと春絶はよくは思うまい。
だからこそ、自分で問わねばならなかった。
「あなたは……大事な人たちを失った。最も親しく、最も大切だった、友人たちを……」
獅子のような友。翁の面をつけた友。鹿の角を持つ友。
連綿として優劣つけがたい四季の美しさすら、喜んで分け合える。
新たな息吹が地に溢れ、大地が蠢き、色づく春を、彼らが欲しがるならば、喜んで。
喜んで春を絶とう。それが友の望みなら。
友の喜びと引き換えなら、季節の一つ、なにも惜しくない。
友の為ならば。
永遠に春が絶たれたとて____何を惜しむことがある。
春を祝う、その友がもういないのに。
/
春絶は、元はなんら特筆すべきところのないただの獣だった。春絶と言う名前もないただ一匹の動物。飛鳥の地に産み落とされ、野山を駆けて、狩りをして、鳥や魚をただ追いかけて、疲れては眠り、飢えれば狩る。
ただその繰り返しをしていたある日、獣は山中で修行する僧が足を滑らせ、怪我を負って動けなくなっているのを見つけた。
獣が僧を見つけたのは、ただの偶然だった。雨によって土砂崩れを起こし、半日狩りが出来なかったことで空腹だった。そんな折に血の匂いを嗅ぎ付けて駆けた先、いい塩梅に弱った肉が転がっていた。
____何故、僧を食わなかったのだろう。
飛鳥の山にある社に、たびたび供え物を持ってきては、それで食いぶちを繋いだことがあるからだろうか。獲物を捕らえる以外のことを考えたことのない獣に、当時の心境は知れない。それが自分自身のことだったとて。
足を折り、着古した袈裟に雨と血で汚したその僧は、お世辞にも肉つきがいいとは言えなかった。大した食べ物も持っていなかった。持っていたのは、変な匂いのする粉だけ。それを大層綺麗な布で何重にも包んで、懐に庇うようにしていた。自分の手足が切り傷だらけなのに、その粉と包み紙だけは濡らすまいとしていた。
「そこの、犬や。犬や。腹が減っているなら、私を食うといい」
僧は、獣にそう言った。
「私を食っていいから、代わりにひとつ頼みを聞いてくれ。この薬を、山を越えた先の村に届けてほしいのだ。この薬は苦かろうが、私の肉はまだ食いでもあるだろう。私で腹を満たして、どうか、私の代わりに走ってはくれないか」
何故____僧を食わなかったのだろう?
変な匂いのする粉を包んだ包み紙と僧が持っていた数珠を咥え、山を下りて。
村にはすぐについた。人間と違って獣道こそ道であったから、その日が暮れる前に村に辿り着いた。
村人は突然現れた狼に騒然としたが、地面に落とされた包み紙と、そして数珠を見て駆けよってきた。あいつはどこにいるんだ、と薬もそっちのけで獣に詰め寄ってきた。獣の言葉など知らないくせに。
帰りは面倒だった。人間は獣道を歩けないからだ。だからいちいちこちらが足を止めて、時々服の袖なんかをひっぱってやらねばならなかった。
村人は僧を見つけ、慌てて傷を手当てし、また大層苦労して山を下って行った。
それから少し経った頃、またあの僧が足を折りに山へ来たので、獣は追い返そうとした。また面倒を押し付けられて、変な匂いが口に染み付くのは嫌だった。
僧は現れた獣を見るや、まだ治りかけの足を引き摺り、杖を突きつきやってきて、地面に這うようにして言った。
「なんで私を食わなかったんだ?」
そんなことを、眼からは涙を流し、満面の笑みで言うのだ。
そんなことを言うので、つい答えた____それが私にもわからない、と。
僧は飛び上がるほど驚き、その拍子にもう一度足を痛めた。仕方なくそいつを近くの小川まで背に乗せてやって、川の水で足を冷やすよう言った。
その日から、しばしば僧は山を訪れた。僧は人の言葉を話す獣について口外せず、一人と一匹はただあれこれと問答をした。河原の石で算術を教えもした。
奇妙な交友は続いたが、その僧は数年後、流行り病に倒れた。数年前は足を折って自ら薬を運んで村を救ったが、今度の流行り病にはまだ薬がなかった。そしてその村には、もう薬を探せるほどの人数もなかった。
僧は死んだ。死んだらせめて食いぶちの足しにしてくれと言われたが、病人の肉など食えるかと、獣は僧の体を埋めることにした。
けれども村の墓地は既にほとんど使いつくされていて、下手にそこらを掘るのも憚られた。
当時の先代真神が現れたのは、その時だった。黒い袈裟を纏い、厳かな面持ちに獣の耳を生やした真神は、獣と僧の遺体を飛鳥の山へ連れて帰った。そうして山中に置かれた地蔵のそばに穴を掘り、僧をそこで弔った。周囲には同じような粗末な墓石がいくつかあった。
____他者の生き死にを悲しむか。我が子よ。
真神は獣にそう尋ねた。獣は答えず、ただその両目からぽたぽたと水を垂らした。
____心を得たならば、獣のままではおられまい。心にとっては、獣の目と耳、鼻で感じるものは、あまりに鋭すぎる。
____少なくともお前には、涙を拭う手が必要だ。
獣は体を得て、与えられたその手で顔を覆った。手のひらに涙が溜まり、それは次々に毛の生えていない肌を伝っていった。
獣はそのときから、飛鳥の山頂に座す真神の神使になった。
生き死に嘆し、日々の移ろいを眺め、季節の違いを知った。時には人に混じって、喜怒哀楽に揉まれてみたりした。それは獣たちの間でも同じことで、懊悩する日々もあった。
その懊悩を語らううち、親しい友が三人できた。来歴は様々だったが、皆、真神に仕える神使であった。
悪逆、暴虐これ裁くべしと真神が断ずれば、その先鋒として全ての戦いへ臨んだ。
罪を憎み、悪を懲する。その先に安らぎと善がある。
そう信じていた。信じられた。友がいて、導いてくれる主君があって。
満ち足りていた。全てが。満たされて、それは春の水面のように輝いていた。
例えそれが、いずれ凍り付くものであったとしても。
「あの頃は、毎日誰かを裁いていた。朝に、昼に、夜に。各地を訪ねて回り、二三尋ねて、二三答え。もう一度心意を問い。そうして殆どの者を処断した」
「酌量を求める声を聞き、そして罪を量り、差し引いて。それがどれほど高名であろうと強大であろうと、何柱でも裁いた。彼らをこの夢境へ落とし、彼らを此処へしずめた」
誰が懇願し、誰が涙し、誰が怒っても。
日が昇っては誰かを裁き、日が暮れるまで誰かを裁き。月が浮かべばまた誰かを裁く。
月も星も無い夜にも、ただひたすら。
なるほどその姿は、日夜沙汰を下すその様は、裁きたがりと呼ばれるのも道理だ。
事実、当時の春絶は裁きを欲した。時間の経過も季節の移り変わりも忘れ、ただ裁くことだけに没頭していた。
「____ならば何故、あなたはそんなに虚しさを感じているのですか」
音もなく、春絶の目がかすかに見開かれる。その目には周囲を埋め尽くす雪と同じ色の、けれども熱を持った白が映っている。
「神を裁かんとして、それを為したならば。先代を殺してでもそうせねばならぬと決して、それを果たしたというのなら。裁きたがりの異名が、自らにそんなに相応しいというのなら」
何故だ、と白綺は尋ねた。なかば憤慨するように。
「何故、どうしてあなたは自らを誇らないのですか。正しきことをしようとして、そうしたのでしょう? なのに、どうしてあなたの心には__心を映すこの空間は氷に閉ざされ、雪に覆われ、色がないのですか。
あなたが本当に、自らの欲で力を手にし、それを振るったのならば。あなたはどうして、その誇るべき偉業と異名を自分で名乗らないのです」
何故だ、と白綺は立て続けに問いかけた。
白綺の心の在り様が好きだと春絶は言った。日々の小さなことに感化され、熱を帯び、色づく様子がいい、と言った、
ならば何故、春絶はそうしない?
心は自由にと、まるで呪詛のように繰り返し、己の心を戒め、一日のほとんどをこの凍り付いた空間で瞑想に費やしているのか。
何もかもを凍らせ、何もかもの色を白で塗り潰すこの神域で。
「春絶殿、あなたは……」
白綺はそこで躊躇した。一瞬だが、確かに。
けれども言わなければならなかった。こと此処に至ったからには。きっと白綺が問わなければ、春絶は上手く隠すかはぐらしただろうから。
己の過去の悲しみに、白綺が感化されることを、きっと春絶はよくは思うまい。
だからこそ、自分で問わねばならなかった。
「あなたは……大事な人たちを失った。最も親しく、最も大切だった、友人たちを……」
獅子のような友。翁の面をつけた友。鹿の角を持つ友。
連綿として優劣つけがたい四季の美しさすら、喜んで分け合える。
新たな息吹が地に溢れ、大地が蠢き、色づく春を、彼らが欲しがるならば、喜んで。
喜んで春を絶とう。それが友の望みなら。
友の喜びと引き換えなら、季節の一つ、なにも惜しくない。
友の為ならば。
永遠に春が絶たれたとて____何を惜しむことがある。
春を祝う、その友がもういないのに。
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春絶は、元はなんら特筆すべきところのないただの獣だった。春絶と言う名前もないただ一匹の動物。飛鳥の地に産み落とされ、野山を駆けて、狩りをして、鳥や魚をただ追いかけて、疲れては眠り、飢えれば狩る。
ただその繰り返しをしていたある日、獣は山中で修行する僧が足を滑らせ、怪我を負って動けなくなっているのを見つけた。
獣が僧を見つけたのは、ただの偶然だった。雨によって土砂崩れを起こし、半日狩りが出来なかったことで空腹だった。そんな折に血の匂いを嗅ぎ付けて駆けた先、いい塩梅に弱った肉が転がっていた。
____何故、僧を食わなかったのだろう。
飛鳥の山にある社に、たびたび供え物を持ってきては、それで食いぶちを繋いだことがあるからだろうか。獲物を捕らえる以外のことを考えたことのない獣に、当時の心境は知れない。それが自分自身のことだったとて。
足を折り、着古した袈裟に雨と血で汚したその僧は、お世辞にも肉つきがいいとは言えなかった。大した食べ物も持っていなかった。持っていたのは、変な匂いのする粉だけ。それを大層綺麗な布で何重にも包んで、懐に庇うようにしていた。自分の手足が切り傷だらけなのに、その粉と包み紙だけは濡らすまいとしていた。
「そこの、犬や。犬や。腹が減っているなら、私を食うといい」
僧は、獣にそう言った。
「私を食っていいから、代わりにひとつ頼みを聞いてくれ。この薬を、山を越えた先の村に届けてほしいのだ。この薬は苦かろうが、私の肉はまだ食いでもあるだろう。私で腹を満たして、どうか、私の代わりに走ってはくれないか」
何故____僧を食わなかったのだろう?
変な匂いのする粉を包んだ包み紙と僧が持っていた数珠を咥え、山を下りて。
村にはすぐについた。人間と違って獣道こそ道であったから、その日が暮れる前に村に辿り着いた。
村人は突然現れた狼に騒然としたが、地面に落とされた包み紙と、そして数珠を見て駆けよってきた。あいつはどこにいるんだ、と薬もそっちのけで獣に詰め寄ってきた。獣の言葉など知らないくせに。
帰りは面倒だった。人間は獣道を歩けないからだ。だからいちいちこちらが足を止めて、時々服の袖なんかをひっぱってやらねばならなかった。
村人は僧を見つけ、慌てて傷を手当てし、また大層苦労して山を下って行った。
それから少し経った頃、またあの僧が足を折りに山へ来たので、獣は追い返そうとした。また面倒を押し付けられて、変な匂いが口に染み付くのは嫌だった。
僧は現れた獣を見るや、まだ治りかけの足を引き摺り、杖を突きつきやってきて、地面に這うようにして言った。
「なんで私を食わなかったんだ?」
そんなことを、眼からは涙を流し、満面の笑みで言うのだ。
そんなことを言うので、つい答えた____それが私にもわからない、と。
僧は飛び上がるほど驚き、その拍子にもう一度足を痛めた。仕方なくそいつを近くの小川まで背に乗せてやって、川の水で足を冷やすよう言った。
その日から、しばしば僧は山を訪れた。僧は人の言葉を話す獣について口外せず、一人と一匹はただあれこれと問答をした。河原の石で算術を教えもした。
奇妙な交友は続いたが、その僧は数年後、流行り病に倒れた。数年前は足を折って自ら薬を運んで村を救ったが、今度の流行り病にはまだ薬がなかった。そしてその村には、もう薬を探せるほどの人数もなかった。
僧は死んだ。死んだらせめて食いぶちの足しにしてくれと言われたが、病人の肉など食えるかと、獣は僧の体を埋めることにした。
けれども村の墓地は既にほとんど使いつくされていて、下手にそこらを掘るのも憚られた。
当時の先代真神が現れたのは、その時だった。黒い袈裟を纏い、厳かな面持ちに獣の耳を生やした真神は、獣と僧の遺体を飛鳥の山へ連れて帰った。そうして山中に置かれた地蔵のそばに穴を掘り、僧をそこで弔った。周囲には同じような粗末な墓石がいくつかあった。
____他者の生き死にを悲しむか。我が子よ。
真神は獣にそう尋ねた。獣は答えず、ただその両目からぽたぽたと水を垂らした。
____心を得たならば、獣のままではおられまい。心にとっては、獣の目と耳、鼻で感じるものは、あまりに鋭すぎる。
____少なくともお前には、涙を拭う手が必要だ。
獣は体を得て、与えられたその手で顔を覆った。手のひらに涙が溜まり、それは次々に毛の生えていない肌を伝っていった。
獣はそのときから、飛鳥の山頂に座す真神の神使になった。
生き死に嘆し、日々の移ろいを眺め、季節の違いを知った。時には人に混じって、喜怒哀楽に揉まれてみたりした。それは獣たちの間でも同じことで、懊悩する日々もあった。
その懊悩を語らううち、親しい友が三人できた。来歴は様々だったが、皆、真神に仕える神使であった。
悪逆、暴虐これ裁くべしと真神が断ずれば、その先鋒として全ての戦いへ臨んだ。
罪を憎み、悪を懲する。その先に安らぎと善がある。
そう信じていた。信じられた。友がいて、導いてくれる主君があって。
満ち足りていた。全てが。満たされて、それは春の水面のように輝いていた。
例えそれが、いずれ凍り付くものであったとしても。
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