BUT TWO

寒星

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01 意外なオファー(Unexpected Offer)

01-01 意外なオファー

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「今年もマイアミ・トライアスロンに?」
「他に予定が入らなければ」
 そう答えながら、今年は参加しないだろうとラニウスは内心で思っていた。先に屋上へ出たレイリーのスーツジャケットが強い風にはためく。
 FBI本部の屋上から訓練棟のある方向のグラウンドを見ると、早朝のトラックをゆっくりと走る影がひとつ見えた。
「あの大会の時だけやってくるホットドッグとナチョスの露店が最高だ。店員もめちゃくちゃ可愛い」レイリーはここへ来る道すがらドリンクサーバーから淹れた二人分のコーヒーをひとつ差し出し、もう一つを自分の口に当てた。
「完走すると無料券が貰える。走ってみたらどうだ、レイリー」
「バカ息子の去勢手術が終わったら考えよう」
 レイリー・フォルツはいかにも気の良い上司といった風な外見の男だった。年齢は間もなく六十だが堅苦しさやあらゆる影とは無縁そうな足取り、着崩したスーツに整髪料をつけていない白髪交じりの頭。小柄な体格にコミカルで活動的な口元。
 よくアクション映画で主人公の良き相談相手として登場し、その実、闇の支配者であることが多そうな顔だちだ。
 対してその隣を歩いているラニウス・ルーラーを映画の登場人物に例えるなら、近未来を描いたSFアクションで量産されていそうな軍用サイボーグそのものだろう。剃り上げたスキンヘッドに透明度皆無のサングラス。筋骨隆々として2メートル近い体格、ヴィンテージブルゾンにジーンズ。
「それで、FBI本部のコンポーネント統括室長が俺を呼び立てた理由はまだ説明してもらえないのか?」
「なんだせっかちだな。マイアミ警察の新人をしごくのがそんなに楽しいか」
「あんたほどじゃないさ」
「いいこと教えてやる、ラニウス」レイリーはコーヒーカップを握った方の手で器用にピースした。「幹部級になると、遅刻の概念はなくなる____ただし、残業の概念もな」
「ああ、役職員就業規則第二十一条第二項に書いてあるな」
 レイリーが思い切り顔を顰めた。それから渋い顔のまま「第十一条には何が書いてある?」と聞いた。
 ラニウスは答えた。
「第十一条は服務規程の前提文。就業規則第三章は服務について定め、第十一条から第二十条までの十の条文で服務の総括と遵守事項、ハラスメントの禁止、個人情報保護、業務記録に関して定めている」
「君はFBIアカデミーの教官より、法務室の方が適任なんじゃないか?」
「陸軍からFBIに転属するときに一通り読んだだけだ。組織のルールも知らずに所属することは出来ないだろう」
「ああ、オーケー、オーケー。それ以上言うな。君のリタイアを認めたあの時の私をタイムマシンに乗って殴りに行くことになる」
「では、本題に入ってくれ」
「教官になって暇だろ。ひとつ仕事を頼まれてくれ」
「それはFBIとしての仕事か? それとも____」
「私個人としての野暮用だ。だが悪い話じゃない」
 ラニウスはここで始めてコーヒーに口を付けた。少し肌寒さを感じるほどの強い風が屋上に吹き付ける。遠くのグラウンドで走っている人影は、今はクールダウン中と見えてゆっくりとトラックを歩いている。
 暇なのは確かだ。ラニウスは話の続きを聞くことにした。それがもはや仕事を受けることになると自覚したうえで。
「個人レベルであんたが口利きをするとなると、個人警備か秘密任務か。どちらにせよ気が滅入るな」
「PSC(private Security company、民間警備会社)の代打だ。奴らが家じゅうのハンカチを噛み千切るレベルの報酬がついてくる」
「警備対象は?」
「ジャジャーン」
 レイリーの声は平坦だった。彼がラニウスに向けてきた携帯電話の画面に映っているのはウェブニュースサイトの記事だ。
 "有名モデルのアレクシス・バックマン氏、所属事務所との対立は泥沼化"。
「誰だ?」ラニウスは率直に尋ねた。
「SNSやってないのか?」
「公式の情報収集用にはやってるが」
「顔ぐらい見たことあるだろ、アレクだよ」
 ラニウスはかけていたサングラスを少し下ろしてもう一度画面を見た。向けられたウェブニュース画面には画像が添付されており、それを拡大すると大勢の記者に囲まれ裁判所から出てくるスーツ姿の男がいた。シックな紺色のスーツにネクタイ、薄い色のシャツ。同系色でまとめた出で立ちは大企業のエリート社員に見えなくともないが、エメラルドグリーンのサングラスと、なによりも銀髪という要素が、その男が一般人でないことを示唆している。
「”モデル兼俳優、インフルエンサー、動画配信者”……随分肩書が多いな。つまるところ何なんだ」
「その全てを手に入れた男さ」
「人望は手に入らなかったようだが」
 レイリーが肩を竦める。ラニウスはレイリーが差し出す携帯を受け取り、表示されるwebニュースを読んだ。
 ”超人気モデルのバックマン氏は、所属企業との間でかねてより給与の一部未払いやハラスメントにまつわるトラブルがあり、一昨年より退社を願い出ていたものの、企業の管理部との交渉は遅々として進まず”……”二年にも及ぶこの冷戦は、アレクシス・バックマンの名をビジネス誌に乗せるための売名行為とも”……
 記事に添付された画像は三件あった。一枚目は先ほど見たとおり裁判所から出てくるアレクシスの姿。二枚目は所属企業の広報担当者と思しき目鼻立ちがはっきりした男。そして三枚目は、アレクシスがアンバサダーを勤めるブランドのポスター。
 ポスターの中でアレクシスは砂漠を統べる王に誂えられるような石室の窓辺にいた。リネンの布を纏っただけの煽情的な格好で燭台に照らされている。指輪を嵌めた右手を首筋に当てて夜空を眺める横顔は品があり、その裸体からは知性すら感じさせられる静かな迫力があった。
「この男の身辺警護を俺に?」
「実のところ、やるかやらないかは未定だ。腕の立つ人間を紹介しろとのことでね」
「成程。人望以外の全てを手に入れた男だ、連邦捜査局への伝手も持っていても不思議ではない」
「私のバカ息子絡みさ。奴の税理士事務所の所員が、アレクシスから個人的に受けた仕事の情報を事務所に横流ししたらしい。それで所長であるうちのパピーは哀れ契約を切られ、さらにはこの件を公表すると脅された」
「それを避けるためあんたの息子は次に、父親に伝手があることを今度は吐いたわけか」
「生存の危機に晒されちゃ、無い頭も活性化する。死に体の息子はアレクシスからFBIのいい人材を紹介しろと言われた。それが出来なければお前は嘘つきで、そしてビジネスマンとして失格だ、ともね」
「やり口はともかく、その理屈には同意する」
「心優しいパパである私は息子を助けたい。そんな時、ごく最近前線を退いた現役バリバリの君がいることを思い出した」
「あんたは息子に恩を売り、そして俺を売って紹介料を貰うと」
 ラニウスは携帯をレイリーに差し出した。
 だがレイリーがその携帯を受け取り、ポケットに戻そうと手元を引いても、ラニウスは携帯を手放さなかった。
「事情はそれだけか? レイリー、あんたが働くには安すぎる報酬だ」
「それを言うなら君だって」レイリーは悪戯な笑顔を見せた。「休むには早すぎる、だろ?」
 ラニウスはやや逡巡し、だが結局携帯を離した。レイリーは薄型携帯をカードのように指の間でくるくると弄び、そしてあるときぱっと消した。袖内に滑り込ませる手口を知っていなければ、レイリーのことを魔法使いだと信じるものもあるだろう(例えば、彼の孫たち、そして息子のうちの数名などのように)。
「交渉成立だな」レイリーはにっこりと笑った。「さっきも言ったが、やるかやらないかは君と相手次第だ。実際に会って決めろ。私がやるのは手引きまでなんでね」
「割りのいい仕事だな」
「普段割に合わない仕事ばかりしてるんだ、今回ぐらい許しておくれ」
「一つだけ聞きたい。声をかけたのは俺で何人目?」
「一人目」
 レイリーは横目でラニウスへウインクした。ラニウスは首を捻り、そして溜息をついた。「時間と場所は?」
「そうこなくっちゃ!」レイリーはコーヒーカップで風と乾杯した。「時間と場所は、今頃君の家のポストに届いている封筒の中のチケットが教えてくれる」
 ラニウスはもはや何も言わなかった。
 レイリーはにんまりしたまま美味そうにコーヒーを啜る。それからグラウンドでまた走り出した人影に目を細めた。「ところであれはシュウじゃないか?」
 ラニウスは今度も何も言わなかった。ちょうどコーヒーを飲んでいたからだし、聞かれると思ってコーヒーカップを口に当てたのだった。
 レイリーは屋上の安全柵に肘を乗せ、すこし身を乗り出してグラウンドを見つめた。
「もう退院したのか。彼もタフだな」
「リハビリトレーナーが付いていない」ラニウスは逆方向を向いていた。「おおかた医者を言いくるめて病室から出てきたんだろう……」
 トラックを歩いていた影は、それからまた腕を振り、姿勢を整えてゆっくりと走り出した。陸上の教本に載っていそうなフォームだ。遠距離走の為の基礎を全て守っている。それはラニウスがマイアミ・トライアスロンで実践しているフォームそのものだ。常に楽に走る為ではなく、一定の速度を保ち、速度調節の際の負荷を最低限に抑えるためのフォーム。
 早朝の霞んだ空気の中をシュウ・サイフェンは黙々と走る。黒い髪を靡かせ、古びた時計の針のように。
 彼のランニングフォームの悪癖として、疲れ始めると顎が上がってくるのだが、今朝はそれが見られなかった。ラニウスは満足して踵を返した。
「会っていかないのか?」レイリーがその背中に声をかけた。「恋人が退院したってのに」
 ラニウスは空になったコーヒーカップを後ろ手に振った。
「昔話は好きじゃない」
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