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二話 かまってくれない恋人②
しおりを挟む邦史郎は、ひと回り大きくて筋肉質な京馬の体に抱かれるのが好きだった。
春と秋は、愛を確かめるように。
冬は、互いに寒さを補うようにして、抱き合う。
そんな邦史郎にとって、今の状況は本当に過酷なのだ。
暑さだとか、そんなものはどうでもいい。
「俺、夏嫌い」
邦史郎はそう呟いた。
短く単純な言葉だがそれは、邦史朗にとって深いため息のように、心の限界から漏れた一言だった。
しかし京馬は予想通り、言葉の上辺だけを受け取って同意する。
「俺も嫌いだよ。クーラー付けてんのに、この暑さ。クニ、マジでどうにかしてくれよ」
邦史郎の中で、何かがプツンと音を立てて切れた。
低い声色でボソッとつぶやく。
「口を開けば、暑い暑いって……。冷蔵庫の中にでも入ってろよ」
「あ?」
京馬の声に苛立ちが混じる。
まるで自分の怒りをわざと伝えてくるように。
彼は短気な男だ。喧嘩っ早く負けず嫌いで、プライドが高い。
だから他人の怒りにも敏感だ。
そしてそういう類の人間は、自分の怒りを誇示し、威嚇する事で、相手を怯ませる。
そうすれば、邦史朗のような気弱で争いを好まない人間は、即座に自分からリングを下りるのをわかっているからだ。
けれどもう付き合って二年も経てば、こいつのそういうやり口はわかっている。
見抜いた上で、邦史郎は怯まずに応えた。
「お前、今日一日で何回俺の顔見た? そんで、テレビはその何倍くらい見つめてる? 」
「女々しいこと言い出すなあ」
「俺が女々しくないことは、誰よりもお前がよく知ってるだろ」
邦史郎は続けた。
「平日、お前の方が、寂しい寂しい言ってる。仕事中にメールもしてくる。暇があれば電話だって。そう、ほぼお前からな」
「それが? 」
「それでやっと休日が来たら、これだ。自分はゲームに没頭。暑い、ひっつくな、と言って俺を追いやる。何なのお前? 俺は君のペットじゃありません。召使いでも、ただの置き物でもありませーん」
「じゃあ何すればいいわけ? なんか話せばいいの? それとも、この暑さをガマンしてお前を抱けばいいの? ああそう。ほら来いよ。抱いてやるからさ」
京馬は低い声でわざと挑発するように言った。完全に怒っている。
ここまで怒らせたら、きっともう何を言っても、どんな真っ当な要望だったとしても聞いてくれない。
そうなるのはわかっていた。
わかっていたけれど、なぜ自分が言いたい事を我慢しなければならないのかと思うと、止められなかった。
「……もういい。好きなだけゲームしてればいいじゃん」
「はあ? 勝手にキレたくせに、自分で会話終わらせんなよ」
邦史郎は京馬の言葉を無視して、サイフと車の鍵だけを持ち、部屋から出て行く。
京馬は今の喧嘩の途中でさえ、握ったコントローラーを手放すことはなかった。
なんで暑い中ゲームは出来るのに、自分を抱きしめることは出来ないんだろう。
邦史郎は胸が痛くなった。
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