ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!

カエデネコ

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一分一秒許されぬ

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 メイド長が機嫌悪そうな顔で立っている。シーンとした気まずい時間が流れる。

 重々しく口を開くメイド長の眼光は鋭い。いつもキャッキャと喋っているメイド達もこのときばかりは静かだった。

「貴方がたは王家付きのメイドであるという誇りを持って働いていると思ってます。しかし最近、仕事中の私語や遅刻が目立ちます!」

 低く強い声音で言い放たれて、皆は返事ができない。

「エイルシア王国のメイドの質というものが、この城のメイドによって決まると言っても過言ではありませんよ!」

 ハイと返事をするメイド達。遅刻と私語には減給されるらしいことが決まった。遅刻は一分一秒許されないらしい。

「アナベルさん!そこどいてー!」

「はっ、はいっ!」

 わたしが避けると洗濯物を抱えたメイドが早足で持って行く。

「あ!ごめんなさい」

 ドンッと別のメイドが背中にぶつかり、謝られた。思わず持っていたランプを落としかけて空中でキャッチ。危なかった!

 しかしひとたび場内に出ると、その慌ただしさも忙しなさも感じさせない優雅な動きで涼しい顔をしているメイド達。

 これが王家付きのメイド!わたしは驚いた。

 夜用のランプを持ち、リアン様の部屋へ行く。手にクリームを塗って滑らかな白い手にしていると、リアン様が顔をしかめる。

「本を触るのにベタベタにならない?」

「なりませんように、薬師の方の調合は完璧です。潤いながらサラッとするらしいです」

「へぇ……すごいわね」

 王妃になってもあまり変わらないリアン様は美しさを極めるより本をめくることを考えてる。

「そういえば、最近、城のメイド達の動きが、なんだか事務的じゃない?気の所為かしら?」

「えっ?」

 リアン様のエメラルド色の目が鏡の中でわたしの茶色の目と合う。

「無駄がないのは良いかもしれないけど、それじゃあ、優雅さや余裕が失われるわ。城には他国からの来客もよく来るでしょ?そんな時にピリピリとした空気よりも和やかな空気のほうがゆっくり過ごしてもらえると思うのよ」

「は……はい……」

「城のメイド達の働きぶりにはいつも感謝してるわ。そんなに気を張りつめて仕事してる理由はなんなの?」

 わたしはお嬢様に問われて、メイド長の話をした。うーんと腕組みをするリアン様。

「メイド長の言ってることも一理あるけれどね。減給はやりすぎよ」

 そこへ陛下が寝所にやってきて、わたしがスッと礼をして下がろうとすると、興味津々で青い目をリアン様とわたしに向ける。

「なになに?なんの話だ?」

「ウィルはいいのよ。王様業に集中してなさいよ」

「ええっ!?なんか仲間はずれになってないか!?」

 陛下は唇を尖らせる。なぜリアン様の前だと子供っぽくなるのでしょう?わたしが困ってるとリアン様が苦笑する。

「城の中のメイド達の雰囲気のことよ」

「あー、なにかピリピリしてるよなぁ」

「陛下も気づいていらっしゃったんですか!?」

 ニヤリと陛下は笑う。リアン様がわたしから聞いた話をそのまま話すと陛下は目を丸くした。

「ふーん。なるほどね。人は時間を守ることもたしかに大事だが、時間に操られるのは本望では無いだろう。私語をしないのも時と場合による。通りすがりに囁かれる、称賛の声は悪くない」

「ウィル、時々『今日も素敵です』とか『颯爽と歩いてる陛下が好き』とか言われたと報告してくるものね」

「褒められるのは悪い気しないだろ?オレだけじゃないはずだ!騎士たちもきっとそう思ってる!でもリアンが言ってくれたらかるーく百人分くらい嬉しいんだけどなぁ」

 お嬢様は言わないでしょう……。素知らぬ顔をしてベッドに寝転んで本を読み出していた。ちょっと寂しげな陛下だった。

 わたしはそっと部屋を出た。

 その数日後、遅刻や私語に関して減給しないとメイド長からのお達しがあった。

 何だったのかしら?としばらくざわめくメイド達だった。
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