36 / 44
一分一秒許されぬ
しおりを挟む
メイド長が機嫌悪そうな顔で立っている。シーンとした気まずい時間が流れる。
重々しく口を開くメイド長の眼光は鋭い。いつもキャッキャと喋っているメイド達もこのときばかりは静かだった。
「貴方がたは王家付きのメイドであるという誇りを持って働いていると思ってます。しかし最近、仕事中の私語や遅刻が目立ちます!」
低く強い声音で言い放たれて、皆は返事ができない。
「エイルシア王国のメイドの質というものが、この城のメイドによって決まると言っても過言ではありませんよ!」
ハイと返事をするメイド達。遅刻と私語には減給されるらしいことが決まった。遅刻は一分一秒許されないらしい。
「アナベルさん!そこどいてー!」
「はっ、はいっ!」
わたしが避けると洗濯物を抱えたメイドが早足で持って行く。
「あ!ごめんなさい」
ドンッと別のメイドが背中にぶつかり、謝られた。思わず持っていたランプを落としかけて空中でキャッチ。危なかった!
しかしひとたび場内に出ると、その慌ただしさも忙しなさも感じさせない優雅な動きで涼しい顔をしているメイド達。
これが王家付きのメイド!わたしは驚いた。
夜用のランプを持ち、リアン様の部屋へ行く。手にクリームを塗って滑らかな白い手にしていると、リアン様が顔をしかめる。
「本を触るのにベタベタにならない?」
「なりませんように、薬師の方の調合は完璧です。潤いながらサラッとするらしいです」
「へぇ……すごいわね」
王妃になってもあまり変わらないリアン様は美しさを極めるより本をめくることを考えてる。
「そういえば、最近、城のメイド達の動きが、なんだか事務的じゃない?気の所為かしら?」
「えっ?」
リアン様のエメラルド色の目が鏡の中でわたしの茶色の目と合う。
「無駄がないのは良いかもしれないけど、それじゃあ、優雅さや余裕が失われるわ。城には他国からの来客もよく来るでしょ?そんな時にピリピリとした空気よりも和やかな空気のほうがゆっくり過ごしてもらえると思うのよ」
「は……はい……」
「城のメイド達の働きぶりにはいつも感謝してるわ。そんなに気を張りつめて仕事してる理由はなんなの?」
わたしはお嬢様に問われて、メイド長の話をした。うーんと腕組みをするリアン様。
「メイド長の言ってることも一理あるけれどね。減給はやりすぎよ」
そこへ陛下が寝所にやってきて、わたしがスッと礼をして下がろうとすると、興味津々で青い目をリアン様とわたしに向ける。
「なになに?なんの話だ?」
「ウィルはいいのよ。王様業に集中してなさいよ」
「ええっ!?なんか仲間はずれになってないか!?」
陛下は唇を尖らせる。なぜリアン様の前だと子供っぽくなるのでしょう?わたしが困ってるとリアン様が苦笑する。
「城の中のメイド達の雰囲気のことよ」
「あー、なにかピリピリしてるよなぁ」
「陛下も気づいていらっしゃったんですか!?」
ニヤリと陛下は笑う。リアン様がわたしから聞いた話をそのまま話すと陛下は目を丸くした。
「ふーん。なるほどね。人は時間を守ることもたしかに大事だが、時間に操られるのは本望では無いだろう。私語をしないのも時と場合による。通りすがりに囁かれる、称賛の声は悪くない」
「ウィル、時々『今日も素敵です』とか『颯爽と歩いてる陛下が好き』とか言われたと報告してくるものね」
「褒められるのは悪い気しないだろ?オレだけじゃないはずだ!騎士たちもきっとそう思ってる!でもリアンが言ってくれたらかるーく百人分くらい嬉しいんだけどなぁ」
お嬢様は言わないでしょう……。素知らぬ顔をしてベッドに寝転んで本を読み出していた。ちょっと寂しげな陛下だった。
わたしはそっと部屋を出た。
その数日後、遅刻や私語に関して減給しないとメイド長からのお達しがあった。
何だったのかしら?としばらくざわめくメイド達だった。
重々しく口を開くメイド長の眼光は鋭い。いつもキャッキャと喋っているメイド達もこのときばかりは静かだった。
「貴方がたは王家付きのメイドであるという誇りを持って働いていると思ってます。しかし最近、仕事中の私語や遅刻が目立ちます!」
低く強い声音で言い放たれて、皆は返事ができない。
「エイルシア王国のメイドの質というものが、この城のメイドによって決まると言っても過言ではありませんよ!」
ハイと返事をするメイド達。遅刻と私語には減給されるらしいことが決まった。遅刻は一分一秒許されないらしい。
「アナベルさん!そこどいてー!」
「はっ、はいっ!」
わたしが避けると洗濯物を抱えたメイドが早足で持って行く。
「あ!ごめんなさい」
ドンッと別のメイドが背中にぶつかり、謝られた。思わず持っていたランプを落としかけて空中でキャッチ。危なかった!
しかしひとたび場内に出ると、その慌ただしさも忙しなさも感じさせない優雅な動きで涼しい顔をしているメイド達。
これが王家付きのメイド!わたしは驚いた。
夜用のランプを持ち、リアン様の部屋へ行く。手にクリームを塗って滑らかな白い手にしていると、リアン様が顔をしかめる。
「本を触るのにベタベタにならない?」
「なりませんように、薬師の方の調合は完璧です。潤いながらサラッとするらしいです」
「へぇ……すごいわね」
王妃になってもあまり変わらないリアン様は美しさを極めるより本をめくることを考えてる。
「そういえば、最近、城のメイド達の動きが、なんだか事務的じゃない?気の所為かしら?」
「えっ?」
リアン様のエメラルド色の目が鏡の中でわたしの茶色の目と合う。
「無駄がないのは良いかもしれないけど、それじゃあ、優雅さや余裕が失われるわ。城には他国からの来客もよく来るでしょ?そんな時にピリピリとした空気よりも和やかな空気のほうがゆっくり過ごしてもらえると思うのよ」
「は……はい……」
「城のメイド達の働きぶりにはいつも感謝してるわ。そんなに気を張りつめて仕事してる理由はなんなの?」
わたしはお嬢様に問われて、メイド長の話をした。うーんと腕組みをするリアン様。
「メイド長の言ってることも一理あるけれどね。減給はやりすぎよ」
そこへ陛下が寝所にやってきて、わたしがスッと礼をして下がろうとすると、興味津々で青い目をリアン様とわたしに向ける。
「なになに?なんの話だ?」
「ウィルはいいのよ。王様業に集中してなさいよ」
「ええっ!?なんか仲間はずれになってないか!?」
陛下は唇を尖らせる。なぜリアン様の前だと子供っぽくなるのでしょう?わたしが困ってるとリアン様が苦笑する。
「城の中のメイド達の雰囲気のことよ」
「あー、なにかピリピリしてるよなぁ」
「陛下も気づいていらっしゃったんですか!?」
ニヤリと陛下は笑う。リアン様がわたしから聞いた話をそのまま話すと陛下は目を丸くした。
「ふーん。なるほどね。人は時間を守ることもたしかに大事だが、時間に操られるのは本望では無いだろう。私語をしないのも時と場合による。通りすがりに囁かれる、称賛の声は悪くない」
「ウィル、時々『今日も素敵です』とか『颯爽と歩いてる陛下が好き』とか言われたと報告してくるものね」
「褒められるのは悪い気しないだろ?オレだけじゃないはずだ!騎士たちもきっとそう思ってる!でもリアンが言ってくれたらかるーく百人分くらい嬉しいんだけどなぁ」
お嬢様は言わないでしょう……。素知らぬ顔をしてベッドに寝転んで本を読み出していた。ちょっと寂しげな陛下だった。
わたしはそっと部屋を出た。
その数日後、遅刻や私語に関して減給しないとメイド長からのお達しがあった。
何だったのかしら?としばらくざわめくメイド達だった。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる