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パーティに出る権利
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セオドア様が仕事帰りになると時々、声をかけてくれるようになってきた。
「今、終わったのか?」
「あっ!はい……セオドア様はまだでしょうか?」
「ああ。まだ陛下が仕事してるからな」
お疲れ様ですと頭を下げると、お疲れ様と小さな声がした。ハッとして顔をあげると少し照れたような顔をそむけて、セオドア様が歩いていく。
わたしの名を呼んでくれることが単純に嬉しくて、足取り軽く廊下を歩く。
「お嬢様、夜会の準備をしましょう」
リアン様はやけに忙しそうに机の上の書類を見ている。すごい情報量だというのは机に散乱している紙でわかる。ブツブツ呟きながら、それを頭に叩き込んでいる。皆さんはきっと王妃様は後宮の一室でのんびり怠惰にしていると思っていることでしょう。でもそんな優雅な生活をお嬢様はしていないのです。しようと思ったらできるのですが……。
こちらの呼んだ声に反応しない。すごい集中力で、気付いていません。近づき、もう一度、声をかけた。
「夜会に遅れてしまいます」
ハッとして顔を上げるとリアン様の緑色の目と合う。宝石のように美しい目の色をしている。
「あら、アナベル。もうこんな時間なのね」
はいと返事をしつつ、お嬢様の夢中になっていた姿が昔と変わらず可愛らしくて微笑んでしまう。
「まったく、女性の用意ってどうしてこんな時間がかかるのかしら?不公平だわ!」
お嬢様はめんどくさいわと鏡の中の自分を見る。金色の髪を結われている自分を見て、嘆息している。お嬢様のために髪の結い方を新しいものを勉強したのだが、気に入ってくれるだろうか?編んでいき、パールを散りばめていく。
「まぁ!可愛いわ。この髪型、初めてね」
先ほどの不機嫌そうな顔は消えて、微笑んでいる。うまくお嬢様の気分を上げることができたようだった。
「気に入っていただけたようで、うれしいです」
「アナベルはなんでもできてすごいわ」
「そんなすごくありません。お嬢様の方が勉強家ですごいと思いますよ」
そんなことないわとお嬢様は苦笑している。有名私塾で天才と呼ばれていたのに、まだまだ足りないという向上心が本当にすごいと思ってしまいます。しかも学ぶことに楽しさを見出すなんて……今はその知識を使って実践までしてますし、うちのお嬢様は世界一の王妃様ではないでしょうか!?
外見も世界一の王妃様にしなくては!とわたしははりきってお嬢様を飾り立てていく。
ドレスは新作の物を用意してあった。髪を結い、化粧をし、ドレスを着たお嬢様はとても美しい。華奢な体に優美な仕草、魅力的な笑顔。陛下は容姿で好きになったわけではないのでしょうが、女性のわたしから見ても美しいのです。
夜会の会場のドアの前でお嬢様が立ち止まる。
「じゃあ、行ってくるわね。用意をありがとう」
「いってらっしゃいませ」
深々とお辞儀すると、リアン様をエスコートするために現れたのは黒を基調とした服をきたセオドア様だった。普段の騎士風の姿ではなく、パーティー用の華やかさがある服装は彼の綺麗な顔立ちと凛とした雰囲気が相まって……とても、とても素敵だった。その姿に思わず一瞬魅入ってしまってる自分がいる。
「陛下が中でお待ちしてます。今、招待客と話しているので、それが終わったら音楽が切り替わりますので、入場し、陛下の横へ行きます」
お嬢様に事務的な口調で淡々と告げる。仕事中のセオドア様はどこかに感情をおいてきている感じがする。わたしの方を見向きもしない。
「腕はこちらに。……あまりくっつかないように距離をとってください。陛下がやきもちをやきますから」
「冗談なの?セオドアが冗談言うなんて、珍しいわね」
リアン様が眉をひそめる。
「本気で言ってます。気を付けてくださいね。こちらとしては絶対にないことですが」
「こっちもないわよっ!」
二人でそんなやりとりをしながら音楽が流れる室内へ入っていく。パタンとドアが閉まった。ここから先はわたしは入れない。王族、貴族の世界なのだ。
セオドア様との世界が違う……いつも思い知らされてしまう瞬間だった。
わたしは何を考えているのでしょう?世界が違うことはわかっています。セオドア様と少し距離が近くなったという嬉しさから、図々しいことを考えてはいけません。そうです。わたしは仕事に専念すると決心したんですから!
後宮へ戻り、部屋の片づけをしなくては……あと、お嬢様がお戻りになり、ゆっくり休めるように部屋を用意しましょう。
くるりと体を返して歩いていく。だけど一度だけ、にぎやかな音楽や話し声のする扉の方を振り返ってしまった。
「今、終わったのか?」
「あっ!はい……セオドア様はまだでしょうか?」
「ああ。まだ陛下が仕事してるからな」
お疲れ様ですと頭を下げると、お疲れ様と小さな声がした。ハッとして顔をあげると少し照れたような顔をそむけて、セオドア様が歩いていく。
わたしの名を呼んでくれることが単純に嬉しくて、足取り軽く廊下を歩く。
「お嬢様、夜会の準備をしましょう」
リアン様はやけに忙しそうに机の上の書類を見ている。すごい情報量だというのは机に散乱している紙でわかる。ブツブツ呟きながら、それを頭に叩き込んでいる。皆さんはきっと王妃様は後宮の一室でのんびり怠惰にしていると思っていることでしょう。でもそんな優雅な生活をお嬢様はしていないのです。しようと思ったらできるのですが……。
こちらの呼んだ声に反応しない。すごい集中力で、気付いていません。近づき、もう一度、声をかけた。
「夜会に遅れてしまいます」
ハッとして顔を上げるとリアン様の緑色の目と合う。宝石のように美しい目の色をしている。
「あら、アナベル。もうこんな時間なのね」
はいと返事をしつつ、お嬢様の夢中になっていた姿が昔と変わらず可愛らしくて微笑んでしまう。
「まったく、女性の用意ってどうしてこんな時間がかかるのかしら?不公平だわ!」
お嬢様はめんどくさいわと鏡の中の自分を見る。金色の髪を結われている自分を見て、嘆息している。お嬢様のために髪の結い方を新しいものを勉強したのだが、気に入ってくれるだろうか?編んでいき、パールを散りばめていく。
「まぁ!可愛いわ。この髪型、初めてね」
先ほどの不機嫌そうな顔は消えて、微笑んでいる。うまくお嬢様の気分を上げることができたようだった。
「気に入っていただけたようで、うれしいです」
「アナベルはなんでもできてすごいわ」
「そんなすごくありません。お嬢様の方が勉強家ですごいと思いますよ」
そんなことないわとお嬢様は苦笑している。有名私塾で天才と呼ばれていたのに、まだまだ足りないという向上心が本当にすごいと思ってしまいます。しかも学ぶことに楽しさを見出すなんて……今はその知識を使って実践までしてますし、うちのお嬢様は世界一の王妃様ではないでしょうか!?
外見も世界一の王妃様にしなくては!とわたしははりきってお嬢様を飾り立てていく。
ドレスは新作の物を用意してあった。髪を結い、化粧をし、ドレスを着たお嬢様はとても美しい。華奢な体に優美な仕草、魅力的な笑顔。陛下は容姿で好きになったわけではないのでしょうが、女性のわたしから見ても美しいのです。
夜会の会場のドアの前でお嬢様が立ち止まる。
「じゃあ、行ってくるわね。用意をありがとう」
「いってらっしゃいませ」
深々とお辞儀すると、リアン様をエスコートするために現れたのは黒を基調とした服をきたセオドア様だった。普段の騎士風の姿ではなく、パーティー用の華やかさがある服装は彼の綺麗な顔立ちと凛とした雰囲気が相まって……とても、とても素敵だった。その姿に思わず一瞬魅入ってしまってる自分がいる。
「陛下が中でお待ちしてます。今、招待客と話しているので、それが終わったら音楽が切り替わりますので、入場し、陛下の横へ行きます」
お嬢様に事務的な口調で淡々と告げる。仕事中のセオドア様はどこかに感情をおいてきている感じがする。わたしの方を見向きもしない。
「腕はこちらに。……あまりくっつかないように距離をとってください。陛下がやきもちをやきますから」
「冗談なの?セオドアが冗談言うなんて、珍しいわね」
リアン様が眉をひそめる。
「本気で言ってます。気を付けてくださいね。こちらとしては絶対にないことですが」
「こっちもないわよっ!」
二人でそんなやりとりをしながら音楽が流れる室内へ入っていく。パタンとドアが閉まった。ここから先はわたしは入れない。王族、貴族の世界なのだ。
セオドア様との世界が違う……いつも思い知らされてしまう瞬間だった。
わたしは何を考えているのでしょう?世界が違うことはわかっています。セオドア様と少し距離が近くなったという嬉しさから、図々しいことを考えてはいけません。そうです。わたしは仕事に専念すると決心したんですから!
後宮へ戻り、部屋の片づけをしなくては……あと、お嬢様がお戻りになり、ゆっくり休めるように部屋を用意しましょう。
くるりと体を返して歩いていく。だけど一度だけ、にぎやかな音楽や話し声のする扉の方を振り返ってしまった。
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