ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!

カエデネコ

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訓練は自信をつけるためにあるもの

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 金属の音が響く。騎士団達の訓練は厳しい。将軍が不在のため、気が緩まないように顔を出してくれと頼まれていたので、ついでに自分も剣の腕を磨くことにした。

「あっ!久しぶりです。セオドア様」

 騎士の一人が挨拶をしてきた。

「ああ」
 
 短く答えると、その騎士はちょっといいですか?と手招きしてきた。古株の騎士で、俺もよく顔を合わせたことがあるやつだったから、相談か?と思いながら近寄る。

「どうした?何か問題があったか?」

 困った顔をする相手。

「問題といいますか、新人採用したやつを何名かしごき中なんですけどね。どうも癖の強いやつがいまして、どう育てるか悩んでます」

「そいつはどこにいる?」

 あれですと指さしが方向ではちょうど手合わせが行われていて、でかい声でわめきちらす若い男がいた。

「こんな程度の腕しかないのかっ!楽勝だな!」

 得意げにそう言っているのが新人らしい。ずいぶんと態度が大きい。

「いや……おまえ、今、姑息な手を使っただろ!?『待ってください。靴紐を直します』って言ってしゃがみこんで直すのかと思ったら、突然相手にとびかかるとかおかしいだろう!?」

「いつ敵が欺くかもわからないのに油断したほうが悪くないですか?」

「おまえっ!新人だと思って多めに見てやればっ!いい加減にしろ!」

 先輩の騎士がすごんでも平気な顔をして、やれやれと呆れたように両手を広げる。

「訓練以外で傷をつけられたら、もっと上の人に言いますよ?暴力を受けたって報告します」

「なんなんだ!おまえはっ!とりあえず、もう手合わせはしたくない!練習場ランニング30周してこい」

「お断りします。非生産的なメニューですからね」

 なんだか羨ましくなるほど、自己主張ができるやつだなぁと俺は自分の気持ちをうまく言えないため、新種の生き物でも見るようにじーっと観察してしまった。

 このくらいハッキリと言えたらどうだろう?なぜこの新人が自信に溢れているかはわからないが、自分に自信があれば、自分の思いも表現できるのだろうか?俺みたいに、婚約者を押し付けられることもないのだろうか?自由というのはどういう状態のことをいうのだろう?

「セオドア様?」

 そう名前を呼ばれてハッ!我に返る。

「ああ……悪い。えーと、そうだな」

 将軍がいない今、俺が止めるべきか。そう判断した。

「そこのおまえ、俺と手合わせしよう」

 新人が誰だ?という顔で見た。しかし相当自信家らしく、鼻の孔を大きくさせて、しましょう!と言う。負ける気がしないらしい。他の騎士たちが見守る。

 俺が踏み込んだ瞬間だった。バッと胃を抑えてしゃがみこんだ。

「おっと!いててて……急に腹痛が……ぐえっ!」

 新人は容赦なく刃のつぶした模擬刀に吹っ飛ばされた。

「えっ!?ちょっ、ちょっと待ってくださ……ぎゃああ」

 悲鳴は3回くらい続いて起こり、俺は床に伏せている新人に言い放つ。

「自信があるのはけっこうだが、実力もつけていくといい」

 救護班が慌てて、走って来て、俺に申し訳なさそうに言う。

「セオドア様、意識がないので、聞こえてないと思います」

 そうかと答える。他のやつはいないか?と周囲を見回すと、皆が視線をあわせないようにする。

「だれか。手合わせしたいやつはいないか?」

 シーンと静まりかえる。……なぜだ?

 その後、昼食をとり、しばらく休憩時間をもらってから、陛下のいる執務室へ行くと、苦笑されて出迎えられた。

「セオドア、聞いたぞ。騎士団のところで暴れたんだって?何してるんだ?」
  
 陛下の耳にまで、訓練場での出来事がいってしまったらしい。早すぎる。

「いえ、新人に手合わせをしてあげただけです」

「……そうか。セオドア、少し休んだほうがいい。イライラした顔をしている」

「そんなわけないでしょう?いつもと同じです」

 ウィルバート様がいいや違う。と言って、積み上げてある書類の隙間から一枚のチケットを出した。

「これをやるから、観劇でも見てきて息抜きをしてこい。この劇がどんなものだったか、後から教えてもらえると嬉しい。オレも行きたいが、仕事が忙しすぎて時間がない。行ってきて内容と感想を頼む。これが今のおまえの仕事だ」

「仕事ならばしかたありません。了承いたします」

 なんとなく追い出されるような形になった気がした。そんなにイライラしていただろうか?自分の顔をひと撫でして首を傾げたのだった。
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